ストップモーション作品『Salvation』にみる”もの”への愛着と映像表現

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中島 功二

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アニメーション制作技法は昔から今に至るまでさまざまに変化してきました。

現在ではみなさんもご存じのようにコンピューターとソフトウェアを使いCG(コンピュータグラフィック)でアニメーションを制作したり、3Dモデリングを使いアニメーションの素材自体を作ってしまうことも可能となりました。これらは作業の効率化や、より高度な視覚効果を求める視聴者や時代の要求とマッチし、今ではプロフェッショナルな現場でも主流となっています。

反面、古典的な手法として1950年代から現代まで脈々と作り継がれる「ストップモーション」「モーションピクチャー」、素材によって「人形アニメーション」や「クレイアニメーション」と呼ばれるアニメーション技法をご存じでしょうか。

ピングーや、ナイトメアー・ビフォア・クリスマスといった人気作品が有名ですが、粘土や人形で静止したセットを組んでは1枚写真を撮り、少しだけ動かしてまた1枚写真を撮り……という作業を繰り返して作っていくアニメーション技法です。

今回はこのストップモーションを用いた作品を1つご紹介したいと思います。

アニメーション作品『Salvation』

『Salvation(=救い)』と名付けられたこの動画は、プロダクション『Blinkink』に所属するのNoah HarrisとAndy Biddleの二人が中心となって作られた作品です。

二人はいずれもイギリス出身で、Noah(ノア)はデザイナー兼監督、Andy(アンディー) はストップモーションのメイン・アニメーターです。

作品は

  1. 無機質から有機物が生まれ
  2. 植物、動物といった有機物を経て
  3. 人類に意識が生まれ
  4. 文化や宗教が生まれ
  5. 争い、失われ、無機質に還っていく

というストーリが展開していきます。

何処かシュールで小難しく感じてしまう内容にも思えますが、深く考えず千変万化する「もの」をみて楽しむ事もできる作品です。

『Salvation』メイキング動画

『Salvation』は公式にメイキング動画も提供されています。

この作品はロンドン郊外のいくつかのバザーから見つけた「モノ」達を利用し、時にインスピレーションを受け、本作品に使用しています。

そして、その着色や加工、煙などのエフェクト、背景を動かす処理にさえもデジタル処理を排し、ストップモーションの手法に則って撮影されています。

12フレーム( 秒間12枚の映像。一般的な動画作品は24~30枚)という時間単位の映像は、けっして滑らかとは言えませんが、フレームとフレームの間が視聴者の想像力をかき立て、味のあるアニメーションとして完成されていきます。

前述したように、ストップモーションの制作工程は、気の遠くなるような時間を要します。結果としてスピードが求められる、広告案件などには向いているとは言えない手法です。

反面、古くから娯楽作品や芸術作品、実験的作品といったメインストリームとは離れた作品や、作家、視聴者達には根強い人気があるのも事実です。

この技法でしか表せない独特のアナログ感、カクカク感の妙や、実写によって表現される「リアルなアニメーション」という性質は逆に非現実感を伴い、昨今流行りの2.5次元的表現手法にとも言えるかもしれません。

監督の一人ノアは、この作品の制作にあたり、

「最初はクリエイティブなモチベーションで着手していたが、その過程で”もの”への感謝の念を覚えるようになっていった」

と語っています。

多大な労力と時間をかけて”モノ”にフォーカスした彼らの思い入れと愛情が伝わって来るような作品です。

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中島 功二

フリーランスの翻訳家兼ライター イギリスのArt University Bournemouthでプログラムを駆使した映像制作を研究&制作。 音楽、映像、アニメ制作、プログラミングなどなんでもござれ。 でも趣味はサーフィンで基本的に世界中の波を追いかけている。

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