ストップモーションアニメ『PUI PUI モルカー』の見里朝希(みさと ともき)監督がこれまでに制作してきた作品……国内外の各種賞を受賞した卒業制作作品『マイリトルゴート』や、その他の作品について、来歴と視聴できるページへのリンクをまとめてみました。
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PUIPUIモルカーの『見里朝希』監督 過去作品情報まとめ
『PUI PUI モルカー』の監督を務める見里朝希(みさと ともき)監督は1992年生まれの(当記事掲載時点で)現在29歳。
その経歴を確認すると、2016年に『武蔵野美術大学 造形学部 視覚伝達デザイン学科』を卒業、その後『東京藝術大学大学院 映像研究科アニメーション専攻』へ進みます(Wikipedia 見里朝希より)。
里見監督が関わった作品については、同氏のYouTubeチャンネルやVimeoページにてそのほとんどが確認できますが、あらためて下記にまとめてみました。
公開年月 | 作品名 (関連情報) |
試聴リンク |
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2010年9月 | KJ合作アニメーション2010 (予備校時代、河合塾生徒での合作アニメーション) |
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2011年9月 | 犬猿の仲 “lit. dog and monkey” (テレビを2台用いたループアニメーション作品) |
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2013年3月 | Natural Wave (見里監督自身、悩みだったという『天然パーマ』がテーマ) |
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2013年9月 | なんくるちゃんぷる “Nankuru Champuru” (チャンプルーの魅力を伝える作品、協力『里見家一家』) |
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2013年12月 | Jelly Legs (だんごむし……) |
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2014年4月 | MUSA★CINE is Monster (武蔵野美術大学 映画研究会MUSA★CINE 作品) |
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2014年12月 | あぶない!クルレリーナちゃん (第11回ACジャパンCM学生賞 優秀賞) |
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2016年4月 | あたしだけをみて (フェルト人形ストップモーション 武蔵野美術大学 卒業制作) |
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2017年8月 | Candy.Zip (キャンディを用いたストップモーション 東京藝術大学大学院1年次制作) |
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2018年3月 | マイリトルゴート (フェルト人形ストップモーション 東京藝術大学大学院 修了制作) |
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2019年4月 | テレビアニメ けだまのゴンじろー エンディングアニメーション 『わさわさわさ!(デーモン閣下)』 |
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2021年1月 | きんだーてれび PUI PUI モルカー | |
2021年3月 | 『Candy Caries』 Stop motion anime PV (WIT STUDIO作品 監督) |
武蔵野美術大学の卒業制作作品『あたしだけをみて』、その後の『Candy.Zip』、『マイリトルゴート』、そしてテレビアニメ『けだまのゴンじろー』のエンディングアニメなど、直近の作品はいずれも『PUIPUI モルカー』と同じ、パペット(人形)を使ったストップモーション アニメ(※)という手法を用いた作品です。
(とはいえ、詳細は後述しますが、モルカーの世界観や作風をイメージしたままで監督のオリジナル作品を視聴すると少し驚くかもしれませんが。)
※ストップモーション アニメとは
静止している物体を1コマ毎に少しずつ動かしカメラで撮影し、あたかもそれ自身が連続して動いているかのように見せる映画の撮影技術、技法。アニメーションの一種であり、SFXの一種。コマ撮り(コマどり)ともいう。
Wikipedia ストップモーション・アニメーション より引用
学生時代のころからストップモーションアニメに関心があったという見里監督ですが、初期の作品は最初は2Dイラストによるアニメーションをメインに創作していたのが確認できます。事実、監督のInstagramを見ると、『マイリトルゴート』のイラストや、その作中に登場したスマホの待ち受け画面のイラストなども掲載されていました。
かわいらしいビジュアルのキャラクターデザインは、このイラストの段階からからひしひしと伝わってきます。キュートな世界観をベースにしつつ、意外な展開を見せるのも里見監督作品の特徴のひとつと言えるかもしれません。
フェルト人形 ストップモーションアニメ『あたしだけをみて』
2016年に武蔵野美術大学の卒業制作として公開された作品『あたしだけをみて』は、モルカー同様フェルト人形によるストップモーションアニメ作品。全編7分30秒の作品で、見里監督の公式YouTubeチャンネルやVimeoで公開されています。
レストランで隣の席に座った女の子に目を奪われる主人公……ですが、目の前の席にはイライラして激しく威嚇する恋人が。

画像 あたしだけをみて / Look at Me Only – Animation Short Film より
『モルカー』から5年前の作品となりますが、この動画にも「ぷいぷい!」と声を出すモルモット(※1)が登場します。実にかわいいのですが……その正体は物語の後半で判明(※2)。 同様に、狂気的にさえ見えた彼女の存在も、後半はその印象がガラリと変わります。
- ※1.この作品に登場するモルモットのモデルは、里美監督の姉(女優 見里瑞穂氏)の飼っていたモルモット、『ミルキー』だそう(噂の「モルカー」女優と声優を直撃! PUI PUIかわいいモルモットとの素敵な毎日 | となりのカインズさん より)
- ※2.モルモットを撫でる主人公の手つきにヒントが……? 視聴済みの方は里見監督のInstagramでの設定資料投稿もチェックするとより楽しめるでしょう。

画像 あたしだけをみて / Look at Me Only – Animation Short Film より
嫌なことや面倒なことから目を逸しがちな時や、倦怠期の真っただ中というカップルにはぜひ見てほしい作品。
よく聞くとセリフは英語のように聞こえたり、省略されていたりしますが、実は日本語として聞き取れるので何度も再生して聴き込んでしまいました。また、見里監督のTwitter、Instagram、YouTubeチャンネルなどのアイコンは本作に登場するゆるキャラ(?)のようです。登場シーンは一瞬ですので、見逃した方はやっぱり何度も見直してみましょう。

画像 あたしだけをみて / Look at Me Only – Animation Short Film より
ストップモーションアニメ『Candy.Zip』
会社の資料を自信を持って仕上げても、社内で一向に評価されない『アオコ』を主人公に、そして業務やパソコンのデータを『キャンディ』にみたてた4分30秒のアニメーション作品。
フェルトではなく、タイトル通りキャンディ(飴)のような樹脂を素材に用いたストップモーションアニメです。
本作でも会社内のカースト制に虐げられる人間関係など、ダークな一面を飴細工のような質感でかわいく見せています。
しかしこの短編作品、絵柄はポップですが展開がなかなかにホラー。アオコが制作した渾身のデータをライバルの腹黒女性社員が強奪。さらに腹黒女性は凶器のハンドミキサー(!?)でアオコを粉々に分解&溶解。顔だけになったアオコは、自身がオフィスで大切に育てているアリの飼育ケースに放り込まれてしまいます。
要するに『アリに食われてしまえ』ということでしょうか……。字面だけで見ればほとんどホラーかハードゴア・スリラーです。
しかしこの後に解説する『マイリトルゴート』にも通じる点ですが、猟奇的な演出を可愛い世界観に合わせて描くのも里見監督ならでは。ファンタジー色が強いので、どんなにゾッとする展開でも夢中になって見てしまう魅力がありました。
あと飴細工のような質感なのに、決して飴を舐めながら見たいと思えない演出もシュールで面白いです。
ちなみに、この作品にもモルモットが出てきます。見里監督、やっぱりモルモットが大好きなのでしょうか。

画像 Candy.zip – Animation Short Film 動画より
フェルト人形 ストップモーションアニメ『マイリトルゴート』
大学院の修了作品として制作・公開された、この『マイリトルゴート(My Little Goat)』です。
狼が子ヤギを騙して食べようとする童話『狼と七匹の子山羊』に着想に制作された本作は『SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA2019』のジャパン部門優秀賞/東京都知事賞を受賞。国外では『パリ国際ファンタスティック映画祭』のグランプリなどの賞を受賞。見里監督の代表作のひとつと言えるでしょう。
ふたたび、フェルト人形によるパペットアニメ……という手法に回帰しつつも、『あたしだけをみて』よりダークな作品。
本作品は、母ヤギがオオカミの腹をハサミで切り開き、胃酸で体がただれている子ヤギたちを助け出すショッキングなシーンで幕を開けます(オオカミの腹をハサミで切る行為自体は童話と同様ですが)。
その後、物語は不気味でグロテスクな舞台と演出……それでいて、無垢な可愛さを感じるフェルトパペットのアニメーションがコントラストとなり視聴者の多くは不安定な心持ちとなる事でしょう。
そして、前述した作品『あたしだけをみて』同様、後半で登場キャラクター達に対する印象が反転する作品でもあります。見里監督の作風として、こういった印象の転換を感じさせてくれるトリッキーな部分が存在する事にも気づかせてくれる作品です。
そして、このわずか10分ほどの作品の中には、観客が自由に解釈できる演出がちりばめられています。荒れ果てたままの『室内』、父親が倒れている時の『姿』、母が外へ出かけるときに持っていた『荷物』、森の外から聞こえる『ヘリコプターの音』……、それらには明確な答えは提示されませんが、さまざまな憶測や考察行う奥深さが用意されています。
見里監督は本作のテーマに『児童虐待』と『親による過保護』を挙げており、過保護は罪にならなくても、そのせいで子供たちに学びや経験の場がなくなることは問題ではないかとコメントしているそうです。
※本作品は、当記事公開時点で閲覧できる媒体がありませんが、興味がある方は公式Webサイトをご覧ください。
ストップモーションアニメ『Candy Caries』
モルカー大ヒットの後、2021年3月には、『Candy Caries』というストップモーション動画がYouTubeに掲載されました。
本作は、里美監督が所属する『WIT STUDIO』の新プロジェクトとして発足したストップモーション専門のスタジオ作品としてリリースされています。
過去の作品『Candy.Zip』のように、キャンディのような質感の素材を用いたストップモーションアニメ。ママ(女の子?)のクチの中に住む虫歯『カリエス』の元気な活躍を描いています。
あらためて『PUI PUI モルカー』を考察すると……
前述の作品を含めて改めて『PUI PUI モルカー』を見てみると、いずれもかわいいビジュアルや世界観に反して、人間のあまりよろしくない面もしっかり描いている事に気づきます。
モルカーでは、マナーやモラルのないドライバー(第1話、第4話)のせいでモルカー達が大変な目(?)に遭ったり、銀行強盗の逃走用に利用されてしまったり(第2話)、そして炎天下の車内にモルカーも怖がるネコを置いてドライバーがファミレスに行ってしまったり(第3話)。
※とはいえ、決して説教臭くないポップなオチで締めている所も、モルカーの魅力ですが。
同様に『マイリトルゴート』では行き過ぎた愛情や虐待を、『あたしだけをみて』では嫉妬心や倦怠期など、人間のネガティブな面を見里監督ならではのバランス感覚で表現しているのに気が付きます。
時間の短い作品で、可愛いキャラクターによるストップモーションという手法を用いつつ、そこかしこに散りばめられた『考察の余白』があるのもこれらの作品に共通する点といえるかもしれません。
ファン層の垣根も超えて楽しめる作品
少し本題とは外れますが、SNSではモルカーのファンアートの投稿も多数みられます。フェルト人形のパペットアニメという事で、イラストだけではなく、人形を作ったり、他の素材で立体物を作ったり……さまざまな新しい展開がみられるのも、この作品の特徴といえるでしょう。
幼児向け作品の視聴者層や、アニメファンといった垣根を飛び越えて、沢山の人達に受け入れられているモルカーという作品のすごさを感じずにはいられません。
※『KCIA 南山の部長たち』はイ・ビョンホン主演のポリティカルスリラー。実際に起きた大統領暗殺事件を描く作品
まとめ
常に新たな作風を……という試行錯誤を続けているという見里監督は『モルカー』で新たな演出として”実写の人間”を登場させています。ですが実写の人間もコマ撮りでカクカクした動きで表現したりと、作品の世界観を壊さない配慮がなされているのも特徴です。
モルカーの公開にあたって里見監督は下記のようなコメントをのこしています。
【TVアニメ初監督について】
大勢の人に見て頂ける作品、しかもオリジナルを作らせて頂けることになり、本当にありがたく、嬉しく思いました。それと同時に、これまでシリーズものを作った経験が無かったので、本当に12話分も作り切ることができるのかという心配もありました。素晴らしいスタッフの方々の協力のお陰もあり、何とか完成出来て今は安心しています。【本作の制作について】
これまで音関係以外は1人でアニメーションを作っていましたが、今回は12話分もあるとのことでスタッフを集めました。大勢の人たちと楽しく作ることができ、こんなにも監督らしい経験をしたのはこれが初めてかもしれません。美術制作や撮影、お話づくりなどに関しても、新しい挑戦を大いにできた作品になりました。【制作中に感じたことについて】
1本2分40秒という決められた尺の中に如何に濃い物語を入れるか、大変悩みました。物語を思いついても、大抵5分超えるようなお話ばかりだったので、要素を削ぎ落し、分かりやすく纏める作業で苦労しました。その分、12本とも飽きのこない作品が出来上がったと思います。このシリーズでは、5匹のモルカーがレギュラーとして登場します。今後色んな種類のモルカーが活躍して欲しいという気持ちを込めて、お話によって主人公が変わるオムニバス形式を選びました。幅広いシチュエーションや世界観を表現でき、楽しかったです。
【注目してほしい点について】
モルカーズ プレスリリース @Press より引用 (c)見里朝希JGH・シンエイ動画/モルカーズ
やはりモルカーの動きですかね…。周りのモブキャラも可愛いらしく動かしました。短い尺の中に色んな要素を詰め込んでいます。しかし、物語を追うだけでは見逃してしまいがちなので、何度も見返して頂けると光栄です。
上記のコメントやInstagramに掲載されている設定資料の注釈などからも感じる通り、短い時間の中にさまざまな要素や考えさせられる展開を込めつつも、誤解やミスリードにならないよう熟考をかさねて慎重に制作されているのではないでしょうか。
そんな里見監督のクリエイティブを感じ取れる、”モルカー以前”の作品達もぜひ見てみていただきたいと思う次第です。
なお、『モルカー』といえば、後半になっても新モルカーの登場、ゾンビ化、SF的展開などなど……視聴者の予想を上回る展開をみせてくれています。
未公開話の盛大なネタバレをしているモルカー公式LINEスタンプや、ものすごい勢いで発表されるグッズたちなど、今後もしばらく話題が尽きる事の無さそうなモルカーと見里監督に、引き続き注目していきたいと思います。
関連リンク
- 見里朝希 監督 本人 Instagramアカウント @tomoki_misato
- 見里朝希 監督 本人 Twitterアカウント @Mitotoki
- 見里朝希 監督 公式YouTubeチャンネル
- 見里朝希 監督 公式 Vimeo
- マイリトルゴールド 公式Webサイト