『マンヤオ (Manyao)』とは? 中華圏で根強い人気を誇る地場ダンスミュージックについて | uzurea.net

『マンヤオ (Manyao)』とは? 中華圏で根強い人気を誇る地場ダンスミュージックについて

執筆: にしむら アイコン にしむら

文化、言語、国境を越えて世界の音楽が楽しめる昨今ですが、 日本国内では知名度が低い中華圏のダンスミュージック『慢揺(Manyao)』をご存知でしょうか。

当記事では、この慢揺について、普段中国内陸にて生活をしている筆者がご紹介したいと思います。

マンヤオ=慢揺 とは

マンヤオを定義するならば……、中華圏や東南アジアの華人の間で流行している比較的BPMの遅い四つ打ちダンスミュージックです。 漢字では『慢揺』、アルファベットでは『Man Yao』 あるいは『Manyao』と表記することが多いです。

ハウス派生の四つ打ち音楽ではあるのですが、キック(打ち込みのバスドラム)とキックの間に、ベースが入る事。 そして、二拍に一回、スネアやハイハットが入る(場合が多い)というのが特徴です。

欧米や日本のクラブミュージック……ハウスやテクノとは異なり、圧倒的に歌モノが多く、トラックモノ(インスト)はごく少数です。

『慢揺』 という文字からも想像がつくように、基本的には『ゆっくりしたダンスミュージック』という認識であっています。 BPMは125~140くらいまでのものが多いのですが、DJが実際に用いる場合は、140~150程度までテンポを上げる場合もあります。

テンポを+10%以上にしたDJ MIX(串烧※)の場合、『加快慢摇』と区別されています。

※DJが多数の曲を繋いでMIXにしたものを、中国語圏では 『串烧』と呼ぶ場合があります。 『串烧』 の文字通りの意味は、焼き鳥やバーベキューなど、串に複数の肉や野菜を刺して焼くことです。

大衆音楽として絶大な人気を誇るマンヤオ

マンヤオは中華圏で過去15年以上、絶大な人気を誇っています。 リスナー層は若者から、屋台のオッサン、オバサン、広場で踊るおじいちゃん、おばあちゃんに至るまでと、その年齢層がとても幅広いという特徴があります。

中国内陸都市の場合、屋台・市場・安めの服飾雑貨店などでBGMとして用いられていることも多く、地方の大衆向けディスコなどでは、マンヤオが重点的に流されていますし、マンヤオバー(慢摇吧)と呼ばれる、マンヤオを軸にした歌やダンスのショーを行う娯楽施設も数多く登場しています。

広場や公園でも……

中国では、広場や公園で中高年がダンスをするゴンチャンウー(广场舞)と呼ばれる習慣があり、中高年の女性から絶大な人気を誇っている娯楽のひとつです。 この、ゴンチャンウーでもマンヤオが用いられる場合がしばしばあり、ほぼマンヤオのみを用いて行うサークルも少数ながら存在しています。

こういった点から、マンヤオはクリエイターやプロモーター主導のブームではなく、まさに、地場・現場の大衆によって積み上げられてきたムーブメントであると言えるでしょう。

マンヤオの音源について

マンヤオ音源は、近年多くの人がネット配信での購入にシフトしているためか、CDでの入手はやや困難な状況です。

中国内陸の都市、鄭州市の書店のマンヤオCD販売コーナー
(2014年、筆者撮影)

マンヤオCDの特徴として、なぜかモーターショーのコンパニオンのような女性とスポーツカーの組み合わせが用いられているパッケージが多く、店頭の販売コーナーを探す際の目印でもありました。

2015年前後に鄭州市で流通していたマンヤオCD  (DJ巨んC氏の所蔵品)
2015年前後に鄭州市で流通していたマンヤオCD (DJ巨んC氏の所蔵品)

とはいえ、スポーツカーやレースをイメージするような派手な楽曲ばかり、という訳ではなく、少数民族の音楽をテーマにしたものなどもあります。 この辺りは機会があれば、より深くご紹介したいと思います。

中国語のWEB百科事典には『マンヤオ』の解説が無い?!

前述したように、これだけ浸透しているマンヤオですが、ウィキペディア中国語版にも、大陸中国で最も普及しているウェブ百科事典である百度百科でも、(本記事で紹介しているところの『マンヤオ』 ) その歴史や定義について詳しい解説がありません。

ウィキペディア中国版においても百度百科においても、『慢揺』の項目の説明には、『マンヤオ』の英訳とは言い難いdowntempo(※)の説明が記されており『中華圏で流行しているマンヤオはカウンターカルチャーであるdowntempoとは全く異なる不純な商業主義による贋物である』といった趣旨の指摘すら記載されている事がもあります。 (2019年5月現在)

なお、本記事で紹介している『マンヤオ』の英訳としては、Slow-Rollが用いられることが多い

つまり、現時点では百科事典ををひも解いても、実際の(=この記事で紹介している) マンヤオについては、正しい情報を得られないのです。

人気があるのに、WEB百科事典にすら正しい解説が書かれていないのはなぜなのか? これは……現地において、『コアでアングラな人ほどマンヤオに興味を持たない』というパラドックスがあることと関連しています。

現地サブカルチャー層からの評価が低いマンヤオ

「人気があるなら、現地の音楽愛好家やサブカル層はさぞマンヤオにハマっているのだろう」と思われるかもしれません。 しかし、残念ながら、音楽ファンやサブカルチャー愛好家の多くが、マンヤオにはほとんど興味を持っていません。

『嫌っている』と言ってしまったほうが近い場合も多数存在します。

中国において、欧米や日本のテクノやハウスやヒップホップに触れてきたコアな音楽ファンの少なからずが、マンヤオについて『ダサい』『洗練されていない』『土着化しすぎた贋物』『商業主義的』『本格的ではない』というような視点を持っているようです。

また、インテリ層の場合は『先進国の文化とは異なる贋物』。 あるいは『ヤンキーの様な層や、肉体労働者、田舎者が好きそうな音楽』という視点で過小評価してきました。

例えば、日本のアニメや声優などに関心を持つ中国のオタク層でも、マンヤオに対して同様の認識を持っている傾向があります。 こういった事から日本にいる中国人留学生に筆者がマンヤオの話をしても、あまり良い反応が得られない場合が多いのが現状です。

また、中華圏にツアーをする日本や欧米のDJやトラックメーカーが増えたとはいえ、彼等と交流するような『国際感覚』のある中国の先進的ミュージシャンの多くは、マンヤオについて関心が無いか、話題にしたがらない傾向があります。

こういった現状から、百科事典でも系統だった解説がされず、中国と世界各国を多くの旅行者や留学生やビジネスマンが行き来する時代になっても、彼等を通じてマンヤオのムーブメントが日本や欧米に伝搬されることはほとんどありませんでした。

現在の最先端、かつ典型的なマンヤオの音

さて、ここまで読んでいただいた皆様は、この奇妙なマンヤオという音楽ジャンルの現状と、特徴に少なからず興味をもっていただいたと仮定し、実際にその音を体験していただきましょう。

マンヤオは、DJMIXのためにつくられた音楽であるので、ここでは、セパレート音源(単曲)ではなく、DJMIXを紹介することにします。

2019年5月現在、マンヤオを大雑把に分けると……

  1. 五年以上昔のマンヤオの形式や手法を守っている傾向が強いトラックやMIX
    EDMやベースミュージックの影響がないもの)
  2. EDMやベースミュージックの影響を受けたトラックやMIX

の二種類に分けることが出来ます。

最近の傾向としては、やはり後者のものが多く、DJMIXにあたっては原曲のテンポを+10%以上速くしたものが多く、本来の『ゆっくりとしたダンスミュージック』ではないものになってきています。

DJ小雄 – 2019跨年嗨 【不夠 & 請先說你好 & 可不可以】

台中市を拠点に活動するDJ小雄(DJ Xiao Xiong)による2018年~2019年の年越しMIX。エレクトロ・ダンス・ミュージックの影響が比較的強く、しかも『早回し』をしています。

DJ小雄 – 2019跨年嗨【不夠 & 請先說你好 & 可不可以】
DJ小雄 – 2019跨年嗨 【不夠 & 請先說你好 & 可不可以】

2019年上半期現在、最先端のマンヤオMIXの一つと言えるでしょう。

なお、DJ小雄は来日が決定しており、2019年7月15日(祝日)には、渋谷のクラブDIMENSIONでのパーティー(17時~23時)に出演する予定です。

McYy vs Jesse – 慢摇 Remix 2019 (EORadio Exclusive)

次に紹介するのは、瀋陽市を拠点に活動するリミキサー『McYy』の曲を中心につくられたDJMIX。

McYy vs Jesse – 慢摇 Remix 2019 (EORadio Exclusive) [LIVE]
McYy vs Jesse – 慢摇 Remix 2019 (EORadio Exclusive)
※映像をずっと見てると酔うのでご注意を

McYy はエレクトロの影響を受けたマンヤオの代表的リミキサーです。 5年くらい前まではマンヤオは南方でイノベーションされる傾向がありましたが、彼の活躍によって瀋陽市がマンヤオの流行の重要な発信地となりました。

伤感情歌加快慢揺串烧-60分钟

そしてこれは筆者による近年のマンヤオを用いた60分MIX。

伤感情歌加快慢揺串烧-60分钟

このMIXでは一曲だけベトナム語の曲を用いています。 近年、ベトナム・インドネシア・マレーシア・シンガポールなどの東南アジアにもマンヤオのブームが伝搬しつつあります。

まとめ

今回、マンヤオ=慢揺(Manyao) とは何かという点と、そのムーブメントの概要について紹介いたしました。

この記事でご紹介しきれなかったことも沢山あるのですが、この記事への反応数が多ければ、より深く、詳しくマンヤオをご紹介する第二弾、第三弾の記事を連載できると思います。

マンヤオの歴史や注目すべきマンヤオリミキサーなど、更に詳しい情報をお届けしたいと考えていますので、興味を持った方はこの記事をどんどん拡散していただけるとたすかります。

編集部補足
SoundCloudでも『Man yau』で検索すると楽曲がみつかるようです。
SoundCloudで慢揺(Man yao)検索

マンヤオ が楽しめるDJイベントが東京 渋谷で開催

当記事を執筆いただいた、にしむらさんも参加する、マンヤオ(慢揺)パーティ『東風圧倒』が、2019年7月15日 東京渋谷のクラブ Dimensionにて開催するそうです。 現地のリミキサーを招聘しての開催との事ですので、興味のある方は参加してみては如何でしょうか!

もしこの記事が役にたったら、シェアをお願いします。

この記事のタイトルとアドレスをコピーする

コメント

  1. GT. より:

    SoundCloudでたまたまManyaoを聴き始め、中毒になり調べ始め、こちらに行き着き、全く文献や、知っている人がいないなか、目からウロコの分かりやすい解説記事をありがとうございます。

    最初聞いた時から気になることがあるのですが、ほとんど歌物なのですが、歌はもともと土着? のものをリミックスしている感じなのでしょうか? どこか懐かしいメロディーの歌ばかりなので、現地での定番ものなのかなという印象を受けていました。

    • UZUREA編集部 より:

      ※ライターのにしむら氏からの返信を記載いたします。

      コメントありがとうございます。
      お察しの通り、マンヤオの多くは中華圏の既存のポップスのリミックスです。歌は定番のものから、新しいものや、マイナーなものまでリミックスの元ネタになっています。
      しかし、やはり定番の曲のリミックスに人気があるようです。なんとかなく懐かしい感じがする曲が多いのはそのせいかもしれません。

      また、中華圏の昔のポップスには、日本の曲のカヴァーも多いので、ひょっとしたら、覚えてはいないけれどどこかで聞いた日本語の曲の別バージョンということもしばしばあります。懐かしい感じの曲を聴いたら、元ネタの日本語曲を探すのも中華圏の大衆音楽を聴く楽しみの一つになると思います。