ディズニープラス『季節のない街』レビュー 宮藤官九郎が名作小説を現代風に描く 震災と仮設住宅の物語
ディズニープラス『季節のない街』レビュー 宮藤官九郎が名作小説を現代風に描く 震災と仮設住宅の物語

ディズニープラス『季節のない街』レビュー 宮藤官九郎が名作小説を現代風に描く 震災と仮設住宅地の物語

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ディズニープラス(Disney+)で2023年8月9日から配信された、オリジナルドラマ『季節のない街』。同作はヒットメーカーであるクドカンこと宮藤官九郎が長年温めていたという企画だそうです。

当記事ではこの『季節のない街』についてのレビューと、筆者なりの見どころ、解釈、背景などについて紹介しています。

ディズニープラスオリジナル『季節のない街』解説とレビュー

ディズニープラス『季節のない街』メインイメージ
ディズニープラス『季節のない街』
メインイメージ

『季節のない街』作品概要

2023年8月に配信されたドラマシリーズ『季節のない街』は、企画・監督・脚本宮藤官九郎が、ディズニープラスオリジナルドラマとして製作した全10話の作品。原作は山本周五郎の小説『季節のない街』(1962年刊行)。そして同じ作品を原作とする1970年の黒澤明監督による映画『どですかでん』に影響を受けたと語る、クドカン渾身のエンタメ作品です。

季節のない街|本予告|宮藤官九郎監督、池松壮亮主演!仮設の街を舞台にした最低で最高の青春群像エンターテイメント|Disney+ (ディズニープラス)
季節のない街|本予告|宮藤官九郎監督、池松壮亮主演!仮設の街を舞台にした最低で最高の青春群像エンターテイメント|Disney+ (ディズニープラス)

作品概要

ストーリー

”ナニ”から12年―― この街には、”ナニ”で被災した人々が身を寄せる仮設住宅があった。 今もまだ、18世帯ものワケあり住人が暮らしていたが、月収12万超えると「即立退き」とあって、皆ギリギリの生活を送っていた。主人公の田中新助こと半助は、街で見たもの、聞いた話を報告するだけで「最大一万円!」もらえると軽い気持ちで、この街に潜入する。だが、半助こそ ”ナニ”によって何もかも失い、ただ生きているだけの男だった。しかし、ギリギリの生活の中で、逞しく生きるワケあり住人らを観察するうち半助は次第に、この街の住人たちを好きになっていく。そんな中、仮設住宅が取り壊されるという噂が街に流れはじめるのだが……。

企画・監督・脚本:宮藤官九郎 コメント

本作は、宮藤が長年温めてきた企画で、山本周五郎の小説「季節のない街」をの映像化。この小説は、黒澤明監督が映画化し、『どですかでん』のタイトルで1970年に公開されたことでも知られる不朽の名作。誰もがその日の暮らしに追われる、裕福とはいえない“街”を舞台に弱さや狡さを隠さずに逞しく生きる、個性豊かな住人たちの悲喜を紡いだ物語である。
この傑作小説をベースに、本作では、舞台となる「街」を、12年前に起きた“ナニ”の災害を経て建てられた仮設住宅のある「街」へ置き換え、現代の物語として再構築。希望を失いこの「街」にやってきた主人公が、「街」の住人たちの姿に希望をみつけ、人生を再生していく青春群像エンターテイメントとして描く。

ディズニープラス『季節のない街』解説ページより
画像 季節のない街 公式サイト スクリーンショット
画像 季節のない街 公式サイト スクリーンショット

スタッフ・キャスト

タイトル 季節のない街
公開日 2023年8月7日
企画 宮藤官九郎
監督 宮藤官九郎、横浜聡子、渡辺直樹
脚本 宮藤官九郎
出演 池松壮亮、仲野太賀、渡辺⼤知、三浦透⼦、濱⽥岳、増⼦直純、荒川良々、MEGUMI、⾼橋メアリージュン、⼜吉直樹、前⽥敦⼦、塚地武雅、YOUNG DAIS、⼤沢⼀菜、奥野瑛太、佐津川愛美、坂井真紀、⽚桐はいり、広岡由⾥⼦、LiLiCo、藤井隆、鶴⾒⾠吾、ベンガル、岩松了
配給 Disney+
公式サイト

レビュー

本作の感想を簡潔に言うなら「絶対おもしろい! 観なきゃ損!」でしょう。

災害に見舞われ、家族や住まいを失った人達が暮らす仮設住宅の街(村、集落)を舞台に、それぞれの生活やバックボーンを映し出すといういわゆる群像劇。主人公の田中新助(半ズボンの半助)の視点をベースに、各話それぞれ別の家庭・人物を中心に描いていきます。

宮藤官九郎の過去作品が好きな人であれば、期待している物は全て得られるでしょう。少しおどけた主人公、コミカルな周辺人物達。ウィットに富んだジョーク、皮肉、ギャグを交えて笑える内容ながら、そのベースにはしっかりとしたストーリーがあり、終盤の大きな山場へ導いていく。フィナーレはしっかりとまとまって、いろいろ考えさせられながらも視聴後には心地よい気持ちになれる。そんな作品です。

登場人物が多く、皆個性的

主人公 半助役の池松壮亮は、クドカン作品に度々みられる『少し抜けつつも、なんだか憎めない』そんな現代の若者然としたキャラクターを好演しています。2023年はシン・仮面ライダーの主演 本郷猛役も記憶に新しく、個人的にも「お、最近活躍してるな!」なんて感じたところ。

主人公 半助役の池松壮亮
画像 季節のない街 本予告 より

脇を固める俳優も名バイプレイヤーが名を連ねていて、とにかく豪華。すっかり老練な俳優となったベンガル、相変わらずクセの強い荒川良々とその相棒として男臭いブルーカラーを演じる増子直純(バンド怒髪天のボーカル!)。元地下アイドルで5児の母役の前田敦子、毒親を名演した坂井真紀、そして猫のトラ(笑)などなど……印象的なキャラクターを挙げるときりがありません。

元AKB前田敦子が元アイドル役を熱演|『季節のない街』本編クリップ〜べじっ娘編〜|宮藤官九郎、企画・監督・脚本の青春群像エンターテイメントドラマ|Disney+ (ディズニープラス)
元AKB前田敦子が元アイドル役を熱演|『季節のない街』本編クリップ〜べじっ娘編〜|宮藤官九郎、企画・監督・脚本の青春群像エンターテイメントドラマ|Disney+ (ディズニープラス)
池松壮亮の相棒には裏の顔が!?|『季節のない街』本編クリップ〜相棒猫・トラ編〜|宮藤官九郎、企画・監督・脚本の青春群像エンターテイメントドラマ|Disney+ (ディズニープラス)
池松壮亮の相棒には裏の顔が!?|『季節のない街』本編クリップ〜相棒猫・トラ編〜|宮藤官九郎、企画・監督・脚本の青春群像エンターテイメントドラマ|Disney+ (ディズニープラス)
ホームレスの親子
画像 季節のない街 本予告 より

個性的なキャスト達が互いに熱演し、この群像劇を生き生きと輝かせています。

印象的なシーン

印象に残っているのは、叔父と叔母に養われる『カツ子』役を演じる三浦透子と、彼女に恋心を抱くオカベ(渡辺大知)の場面。

河原でアコースティックギターを片手に歌い出す(※)オカベに、それまで無口だったカツ子があわせて歌い出す。しかも見事にハーモニーを効かせて。唐突に昭和青春ドラマみたいなシーンを見せられて、こっちが恥ずかしくなってしまうような場面なのですが……

河原のオカベとカツ子
 画像 季節のない街 本予告 より
オカベとカツ子
画像 季節のない街 本予告 より

しっかりと

ごめん……勝手にハモんないでくれる?

とツッコミを入れるオカベ。

声を上げて笑ってしまいました。人生において、こんなに見ごとに「勝手にハモんないで」って言える機会はないですよ(笑)。

とまあ、ちょっと度が過ぎるくらいの過演出シーンを描いておいて、照れ隠しみたいにギャグに転化してくる。そんなクドカン作品の醍醐味を久しぶりに味わいました。

※なお、このシーンでオカベが歌うのは泉谷しげるの名曲『春夏秋冬』。歌詞が『季節のない街にうまれ~』からはじまるこの曲は1972年にリリースされている。もちろん本作用に作られたものでも無く、原作小説をイメージして作られたものでもないそうです。

タイトルは最初『季節のない街』だったけど、山本周五郎さんの小説に同じ題名があるのを知って急遽変えた。社長からは「なんだこのパンチのない曲は」と激怒されたけど……。

風邪のお陰で生まれた!?泉谷しげるが明かす『春夏秋冬』誕生秘話 (P.3) 現代ビジネス より
泉谷しげる with LOSER 「春夏秋冬」 Music Video
泉谷しげる with LOSER 「春夏秋冬」 Music Video

作品の背景 『ナニ』とは。仮設住宅の街とは。

山本周五郎の原作小説と、黒澤明監督の映画をリスペクト……というコンセプトが明確にされている本作ではありますが、実際に作品を見た人なら気づくであろう、もうひとつの重要なテーマが存在しています。

物語中の人達が仮設住宅で済む原因となった12年前の『ナニ』と呼ばれる災害は、あきらかに2011年3月11日で発生した東日本大震災だという事。2023年に公開された本作中で何度も挙がる「ナニから”12年“……」という年月からもそれは明らかでしょう。

『ナニが何かっつーのは、まぁ……日本中が知ってるわけだけど。』

『季節のない街』 第3話 次回予告より

つまり現代版『季節のない街』は、東日本大震災によって被災した人達を映した作品でもあるという事です。登場人物や世界観を現代風にリメイクし、『戦後の貧民街』という舞台を『仮設住宅の街』に置き換えた本作は、終盤で仮設住宅からの立ち退きをテーマにした展開をむかえます。

画像 季節のない街 本予告 より ※本作の撮影は茨城県行方市にある廃校の庭にセットを作ったそうだ
そこは仮設住宅 忘れられた街
画像 季節のない街 本予告 より
なお、本作の撮影は茨城県行方市にある廃校・校庭に
セットの街を作ったそうだ

住まいや、家族、大切な人、物、財産を失い、その上で仮設とはいえそこで暮らした人達。心身に深い傷を負い、経済的問題を抱え、さらにまた新しい環境へ移らなければならない。言葉では理解できても、その本当の心情は実際に住んでいる人でなければ実感できるものではないでしょう。

そんな悲壮なテーマに触れながらもドタバタコメディ風にまとめる所は流石としか言いようがありません。そして、ノンフィクション、ドキュメンタリーとして作るのではなく、あくまで娯楽作品として描くという”やり口”で、より多くの人にこの『現実』を考えてもらう。そんな宮藤官九郎監督の意欲も感じずにはいられませんでした。

現実世界の仮設住宅は……

映画フィナーレでは主人公半助のモノローグで「季節のない街はもう存在しない」と語られますが、現実での仮設住宅の状況はどうなのでしょうか。余談になってしまいますが、気になったのでインターネットで状況を調べてみるといくつかの県で公表されているWebページが見つかりました。

ざっと検索したものなので、他県のデータもあるかもしれませんがご容赦ください。

たとえば福島県の情報に注目すると、2023年の7月31日時点でも3戸4名の方が仮設住宅での暮らしを続けています。そして、同ページに掲載してある『応急仮設住宅・借上げ住宅・公営住宅の入居状況推移』というPDFを見ると、この3戸という数値は2020年8月31日から変わっていません。

『応急仮設住宅・借上げ住宅・公営住宅の入居状況推移』より
2020年の1月末には入居戸数72だったものが、7月末には8へと減り、8月末に3戸となり、その後現在まで続いている
画像は福島県Webサイト 掲載データ
『応急仮設住宅・借上げ住宅・公営住宅の入居状況推移』より
2020年の1月末には入居戸数72だったものが、
7月末には8へと減り、8月末に3戸となり、その後現在まで続いている

ちなみに、同じく福島県の掲載データ(応急仮設住宅・借上げ住宅・公営住宅の進捗状況(令和5年7月31日時点))からすると、この3戸は郡山市にあるという事も確認できます。

皇太子ご夫妻が福島・郡山市の仮設住宅を訪問(13/09/22)
皇太子ご夫妻が福島・郡山市の仮設住宅を訪問(13/09/22)
双葉町郡山市の仮設住宅の風景を垣間見る事ができる。

他の県でも数こそ少ないですが、未だ入居数値が0にはなっていません。数値から全てを判断する事はできませんが、ずっと転居をする事ができない人達が今もそこで生きている、という事に気づかされました。

まとめ

企画・監督・脚本 宮藤官九郎
企画・監督・脚本 宮藤官九郎
画像 季節のない街 本予告 より

本作の最後、主人公が執筆した作品を持ち込んでいるシーンがあります。それを「個人的には好きなんですけど、これだと掲載は難しいです」「コンプライアンス的に」と拒否する編集者の姿は、もしかしなくても日本の既存メディアに対しての皮肉なのでしょうか。

……と、視聴者が勝手に考えれば深読みもできる内容ながら、見事に『エンタメ』という風呂敷で包んで笑って楽しめる作品として仕上がった『季節のない街』は、2023年8月9日(水)からディズニープラスで全話見放題配信中。ぜひ多くの人に見てもらいたい傑作ドラマシリーズでした。

ストーリー ★★★★(5)
全10話構成。多くのエピソードは原作をベースにしているが、現代風にアレンジ。
そして終盤は独自の展開をみせるが、見事に集束していく。
音楽 ★★★★(4)
昭和風のBGMなど、しっかりと作品世界とマッチしている。
エンタメ性 ★★★★☆(4.5)
原作の内容を尊重しつつ、毎話起承転結があり飽きさせない。
シビアな展開でもどこか滑稽で笑える。そして全体を通したオリジナルのストーリーが綺麗にまとめ上げる。
世界感 ★★★★★(5)
原作の世界と、現代の現実世界を見事に組み合わせた作品。
戦後の貧民街を仮設住宅という舞台に替え、その舞台装置すらも重要なテーマになっている。見事。
総合評価 ★★★★★(5)
見事なドラマシリーズ化。俳優陣も豪華で各キャラクター達も生き生きとしている。全話一挙に見放題配信されているので、ディズニープラスに1か月だけ加入してでも観るべき作品。
原作未読でも全く問題はないが、読むとまた本作の評価が変わるかもしれない。
青空文庫にて無料で読める『季節のない街 
ディズニープラスオリジナルドラマ 『季節のない街』 のレビュー
(最大星5つ/0.5刻み/9段階評価)

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趣味は睡眠、とんかつ、読書、音楽鑑賞、インターネット、VJ、PUNK Rock。

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