青春＆SF映画 『四畳半タイムマシンブルース』レビュー！ 前作『神話体系』の世界をそのままに極上のコラボレーション作品が完成

TVアニメ化もした森見登美彦原作『四畳半神話大系』、ヨーロッパ企画 上田誠原作の『サマータイムマシン・ブルース』のコラボレーション作品『四畳半タイムマシンブルース』が2022年9月30日より3週間の劇場限定公開しています。 また、同作はディズニープラス限定で配信オリジナルエピソードを含む全6話で配信開始しています。

『四畳半神話大系』ファンはもちろん、コミカルなタイムスリップものとしても非常に面白い作品なので両作品を知らない・見ていないという人にもぜひおすすめしたい作品です。

『四畳半タイムマシンブルース』 前作ファンも新規の方も、絶対に見るべき４つの理由

四畳半タイムマシーンブルースは、森見登美彦の作品『四畳半神話体系』の世界感に、上田誠の『サマータイムマシン・ブルース』のプロットを組み合わせて2020年7月に出版されたコラボレーション作品。

そしてその原作を元に、2022年9月30日にアニメ映画が公開され、劇場公開に少し先んじてDisney+で分割版も独占配信されています。

そもそも、『四畳半神話大系』とは

本作の世界観の元となる『四畳半神話大系』は森見登美彦による原作小説を元に2010年にアニメ化されています。

語り手であり主人公である『私』（名前不明）は4畳半の下宿先に暮らすうだつの上がらない大学生。 大学生活、サークル活動、ドタバタ、恋模様といった内容を描いた並行世界と、それらをまたいで繋がる青春文学作品でありSF作品。

アニメでは森見登美彦作品の表紙を手掛けるイラストレーター中村佑介のイラストを元にキャラクターをデザイン。 原作の雰囲気を活かしつつ、さらに多くのifの世界が描かれ好評を得ました。また、中村佑介のイラストをCDのジャケットとして採用するASIAN KUNG-FU GENERATION（通称 アジカン）もアニメシリーズの主題歌提供として参加しています。

そしてこの、森見登美彦、中村佑介キャラクターデザイン、主題歌ASIAN KUNG-FU GENERATIONという組み合わせは、『四畳半サマータイムブルース』にもしっかり踏襲されています。

四畳半神話大系 迷子犬と雨のビート OP

そして、『サマータイムマシン・ブルース』とは

サマータイムマシン・ブルースは劇作家上田誠によって作られた戯曲であり、同氏が主催をする劇団ヨーロッパ企画の第8回公演として2001年8月に初演された作品。

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夏、とある大学の、ＳＦ研究会の部室。
ＳＦ研究を一切しない部員たちと、その奥の暗室に居をかまえる、カメラクラブのメンバーたち。
そんな日常に、ふと見ると、部屋の片隅に見慣れぬ物体。
「これってタイムマシンじゃん！」どうやらそれは本物。興奮する一同。
先発隊に選ばれた3人は早速タイムマシンに乗り込み、昨日へと向かうが…。

ヨーロッパ企画 Webサイトより

『SF研究会』の面々がタイムマシンで壊れたエアコンを取りに『昨日』へ行った結果、『今』が消えてしまう可能性に思い至り奔走する……というタイムスリップをテーマにした作品で、コミカルでミニマルなドタバタ劇。

2005年9月に映画化もしています。

『四畳半神話大系』でありながら『サマータイムマシン・ブルース』、クセのあるキャラクターと練られた構成が光る

前作にあたるアニメ『四畳半神話大系』から監督は湯浅政明から夏目真悟監督へ変更となっています。 脚本は継続して上田誠が担当。そして『四畳半神話大系』では無数の並行世界を(実に小規模な変化で)様々な視点で描いた作品でしたが、今回描かれるのはひとつの世界。

ですが、これも前作に引けを取らない凝った構成をしています。

『サマータイムマシン・ブルース』と同じく、エアコンのリモコンが壊れてしまったので偶然見つけたタイムマシーンで壊れる前のエアコンをとりにいこうとする……といった実にしょうもない目的をきっかけに、あわや宇宙消滅の危機に（？）……という物語。

『四畳半タイムマシンブルース』本予告60秒

あらすじ

8月12日。下鴨遊水荘で唯一のクーラーのリモコンを水没させてしまった「私」は、突如現れたタイムマシンで昨日に戻り、壊れる前のリモコンを持って・ウjんmくることを思いつく。しかし悪友・小津たちは勝手気ままに過去を改変。宇宙消滅の危機を予感した「私」は慌てて回避すべく奔走する。果たして、時空を超えた珍道中、そして「私」の密かな恋の行方はいかに。

『四畳半タイムマシーンブルース』公式サイトより

おすすめポイント1：変わらない『四畳半』キャラクターたちの魅力

本作で登場するキャラクターは『私』をはじめとした『四畳半神話大系』のおなじみのキャラクター達。明石さんや小津といった懐かしい面々で繰り広げられるドタバタ劇は、見ていて「そうそう、これこれ！」という懐かしさを呼び覚まします。

物語の語り手である『私』は相変わらず腐れ大学生であり、明石さんに惹かれながらも、うだつの上がらなさを滲ませています。 その明石さんといえば、相変わらず掴み所の難しい人物造形でありながら理知的でありながらちょっと抜けた魅力でタイムマシーンの事件に取り組みます。 小津はこの時空でも『私』を徹底的に不毛な大学生活に引き摺り込もうと動き、樋口さんや羽貫さん、城ヶ崎さんなどのキャラクターもガッツリと本筋に絡んで、『四畳半神話大系』を見ていた時と同じ味わいで、違和感なく新たなドラマをが見ることができます。

おすすめポイント2：『タイムスリップもの』としての優れたプロット

『四畳半タイムマシンブルース』のもうひとつの重要な要素である『サマータイムマシン・ブルース』。『今日』と『昨日』をめぐるタイムスリップ劇……正直なところ『サマータイムマシン・ブルース』があまりにも見事な構成をなため、コラボレーションするということで「上手く魅力が引き継がれるのだろうか？」という不安もあったのですが、実際に鑑賞してみるとこれまた見事な物語になっていました。

「あれはそういうことだったのか！」の連続。ちょっとした違和感がスルスルとパズルのピースのようにハマっていく感覚はまさしく『サマータイムマシン・ブルース』を見た時の面白さ。

『四畳半神話大系』の語り口でありながら、『サマータイムマシン・ブルース』の構成の魅力がギュッと詰まった作品になっています。

おすすめポイント3：『四畳半四畳半神話大系』『サマータイムマシン・ブルース』という二つの作品をコラボさせる挑戦

コラボレーション作品、ということもあり二つの元となった作品の魅力を併せ持たせる、というのはかなりの挑戦的試みだったと想像できます。作品世界を上手く成立させられるかどうか、という綱渡りでしょう。

いずれも完成された、見事な作品であるからこそ、「四畳半神話体系のキャラクターはうまく活かされるのだろうか」「サマータイムマシン・ブルースのような見事な伏線回収は出来るんだろうか」といった懸念は尽きません。

同じ作家の作品ならまだしも、違う作家、小説と演劇という、出自の違う作品のコラボレーションとなると、下手な事をするとまさしく作品世界＝宇宙の消滅となることすらありえるでしょう。

自分達の存在を消失させないようにあらゆる要素の辻褄合わせに奮闘する『私』達の様子が作品の絶妙なバランスとも重なり合うように思え、ラストまで駆け抜けた時の「おお……！」という感慨はひとしお。 コラボレーション作品という事を知っていてこそのカタルシスを味わえる事でしょう。

おすすめポイント4：とはいえ、SF＆青春作品としての肝はバッチリ

と、ここまで書くと、原作となった作品世界を知らない方にとっては、もしかしたら規模の大きな話が展開されているようにも思えるかもしれませんが……宇宙消滅の危機として描かれるのは『私』と明石さんの恋模様であったり、小津とのしょうもない掛け合いであったり。

『四畳半神話大系』が並行世界を描いた作品でありながら『私』と小津、明石さん達との関係を描いた大学生の青春物語であったように。本作の核も一風変わった青春物語になっています。

夏が終わり、秋深まる時期に楽しむにも最適な一本ではないでしょう？

まとめと、関連リンク

『四畳半四畳半神話大系』のスピンオフとしても、コラボレーション作品としても良くできたアニメーション作品になっている『四畳半タイムマシンブルース』。

過去作品のファンで、『懐かしい』と思う方にはもちろん、『どちらの作品も全く知らない』という方が見ても、絶対に楽しめる作品といえるでしょう。

うだるような夏の余韻にさらりと浸って楽しめる。そんな作品でした。

『四畳半タイムマシンブルース』はディズニープラスで全六話を順次独占配信中。9月30日より三週間限定で劇場公開中です。

特別公開！『四畳半タイムマシンブルース』本編冒頭映像

特別公開『四畳半タイムマシンブルース』本編チラ見せ！「私」と明石さん

• 四畳半タイムマシンブルース 公式サイト
• アニメ 四畳半神話体系 公式サイト
• 中村佑介×森見登美彦 初のスペシャル対談！ アニメ『四畳半タイムマシンブルース』ここだけの話 カドブン
• ヨーロッパ企画 公式サイト

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