『TENET テネット』は『メメント(2000)』、『インセプション(2010)』、『インタースラー(2014)』、『ダンケルク(2017)』、そして『バットマン ダークナイトシリーズ』3部作などで知られる、クリストファー・ノーラン監督による2020年公開の映画です。
極力CGの使用を避けようとする監督の作風を最大限尊重し、約2億ドルの巨額の製作費を投じ撮影された本作。 ジャンボジェット機の爆破や高速道路のカーアクションなど、本物を使って撮影された映像はダイナミック。 そして内容も深みがあり難解で繰り返し観たくなる要素も豊富。 とても楽しく視聴しました。
記事の索引
『TENET テネット』レビュー
私は昔からSF小説やSF映画の類はほどほどに好きでした。
最近ニュートン力学にある古典的な三体問題を取り込んだ某SF小説を読む機会があったのですが、その中で宇宙戦争のスパイとして量子レベルの最小スーパー人工知能が登場しており、自分の中で粒子に考えるのがささやかなブームとなっていました。
そういうものに興奮する人となりの筆者ではあるのですが、とはいえ熱心なSFファンと言えるかといえばそんな事は無く、映画も熱心に観る方ではありません。そういった人物の視点からのご紹介となる事をあらかじめご承諾ください。
『TENET テネット』 のあらすじ
ウクライナのオペラハウスでテロ事件が発生。その解決の為に特殊部隊に偽装して突入したCIA工作員の名も無き男は、そこでプルトニウム241を知ります。脱出の際に捕らえられた男は自決しようとしますが、目を覚ますと、テロ事件は男をTENETという組織に加える為のテストだったと知らされます。未来からもたらされたという逆行する弾丸の存在、それらを用いて世界を破滅させようとする武器商人の存在を知らされ、協力者と、陰謀の打破を目論んでいくという内容です。
タイトル | TENET テネット(原題:TENET) |
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公開日 | 2020年8月26日(USA) |
監督 | クリストファー・ノーラン |
出演 |
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配給 | ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ |
制作 | アメリカ合衆国/イギリス(2020年) |
みどころ その1:時間をまたいで戦う……テーマの難解さが楽しい
まず、『TENET テネット』は第三次世界大戦をテーマにした作品ではありますが、軍事国家的な武力戦争を描いた作品ではありません。

時間の逆行が可能になった状況により、ひとつのミッションが終わっても、逆行してくる敵を阻止しなければならず、さらに自らも逆行を必要とする。 そんな逆行バトルが何度か勃発し、その渦中の主人公は何が起こっているのかの本質は理解しきれません。敵を倒すことは目的ではなくひとつの経過で、その理由は未来にある……。
文字にするとうんざりするようなやり返しの応酬ですが、エピローグではそれら全てが過去の主人公を導くものと知らされ、晴ればれとした感覚を味わう事ができるのでご安心を。
(とはいえ、その後もまた未来へ向かうことになるのですが……)
『時間』は不可逆であるという常識のままで観てしまうと、ひどく混乱するかもしれません。作中の時間の流れを対比し、混乱しても、それをモヤモヤではなくワクワクとした心持ちで観ていると、とても楽しめる映画だと思います。 もちろんそういった難解さを良しとする人であれば、間違いなくおすすめです。
みどころ その2:トリッキーでダイナミックな映像・演出も楽しい
前記したように、ベースのテーマは過去と未来を行き来する難解な内容ではあるのですが、主人公が逆行する自分自身と戦ったり、逆行するカーチェイスがあったり、ダイナミックなシーンや演出も見どころのひとつです。
時間を順行するチームと逆行するチームが戦うシーンで、逆行するチームが後ろ歩きをしてたりとか、壊れた物体が綺麗に直っっていったりだとか。 同時にビルを破壊して、未来でも壊れて過去でも壊れて、一体どういう現象が同時に起こっているんだよ!? なんて思いながら観るのも面白い。 深い考察なんてほっぽり出して、娯楽作品としてもとても良くできているのです。
「あんなに綺麗に逆行したら凄いよなー、現実には起こらないよなー。 おぉーすげー。」
……なんて、考えながらね。
未来からと過去からと二つの時空から挟み撃ちをするシーンや、逆行する世界では外気を肺に取り込めないからマスクをしなきゃとか、もう一人の自分に触れると粒子の対消滅が起こるから防護スーツを着なきゃとか、氷は炎に変化するとか、順行する身体に逆行弾を浴びたら……などなど。
そんな観てる人を飽きさせない設定や展開も面白いのです。
まとめ
と言う訳で、熱心なSF愛好家でも、クリストファー・ノーラン作品のファンという訳でもない筆者が見た『TENET テネット』の感想でした。
作中の時間をどう体験・観測するかという所に本作の楽しみがあるだと思います。 映像の端々で「あれ? これはあっち向き? こっち向き?」 と引っかかったり、「あのときのあいつは、どのあいつ?」 なんて混乱したり考える面白さがひとつ。
また、そんな世界観はひとつの舞台装置程度に考えて、深く考えずにも楽しむ方法がひとつ。
そしてもちろん深く考察する余地も十分にあるので、徹底的に予習・復習・再試聴をする……なんて、映画の深みを掘り進むような楽しみ方もできる作品です。
『タイムトラベル』系の作品、という程度の予備知識で観ても、いろんな視点で楽しめる作品でした。
聞くところによると、クリストファー・ノーラン監督の映画は、同じように深読みする楽しさと娯楽作としての楽しさが共存するものが多いらしいので、これを機会に過去作を振り返って観てみようかと。 いや、それらは本当に過去の作品なのか? 私にとってはこれから新たに出会う世界であるし、私たちの時間軸とは切り離された『映画の時間』を観察するのだから未来と言っても良いのかもしれない……。 なんて、ややこしい事を考えながら、ひとまず当作品の紹介を終わろうと思います。
評価
ストーリー | ★★★★☆(4.5) 時間は進み、逆行する、その繰り返しに引き込まれる。 エピローグも爽快な気持ちに。 |
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映像 | ★★★★☆(4.5) CGを極力使わずに撮影された映像も十分に楽しめる |
音楽 | ★★★(3) 深く印象には残らないが、過剰に緊張させるようなBGMが気になる場面も |
難解さ | ★★★★☆(4.5) 全貌を理解しようと思ったら、何度も観なおす必要がある。 でもそれが良い。 |
総合評価 | ★★★★(4) 難解さを楽しむのも◎ 深く考えずに楽しむのも◎ |
(最大星5つ/0.5刻み/9段階評価)