2018年11月、大阪高裁で、タトゥー医師法裁判で逆転の無罪判決が下されました。
そこで今回は本件の概要に添えて、筆者なりの考察をしてみたいと思います。
タトゥー医師法裁判の論点と概要
この争いの論点は2015年に『刺青を彫って報酬を得る行為が、医師法に抵触する(医師法31条1項1号、17条に該当)』という論旨で、大阪府吹田市で『タトゥーアーティスト・タイキ』として活動する増田太輝氏(30)が『三人に(医師の)無免許でありながら、タトゥーを施した』として、略式起訴されたことに端を発します。
これに対して、増田太輝氏は『タトゥーは芸術的表現』だとして、罰金十五万円とした一審判決(大阪地裁)を拒否し、法廷で争ってきました。
そして今回高等裁で、増田被告が逆転勝訴したというものです。
今回の高裁の判決では『医行為』について、2017年に一審判決が示した『医師が行わなければ保健衛生上、危害を生ずるおそれのある行為』とする基準に加え、『医療や保健指導が目的の行為であることも要件』と解釈。その上でタトゥーの歴史や現代社会での美術的な意義などを踏まえ、医師の業務とは根本的に異なるとしました。さらに彫り師に医師免許を求めれば、『憲法が保障する職業選択の自由』とも疑義が生じるとも述べました。
大阪高裁の西田真基 裁判長が、本件に関する十分な見解と認識を経たうえでの判決でしょう。
タトゥーを施すのは医療行為なのか?
そもそもが、タトゥーの彫り師を免許制(タトゥー用のライセンス)にする、という話ならともかく『医師免許がないと刺青を施行できない』とする最初の罰金判決は、少々無理があるように思えます。海外でもざっと調べた限りは、医師免許が必用という例は見つかりませんでした。
医師免許の取得が必用となって、現役の彫り師達がこぞって医大へ……というのは現実的ではないでしょう。そして日本のタトゥー市場は大きく、彫り師自体はもちろん、ニーズ=利用者も沢山いる、という現状も鑑みての高裁判決だと思います。
さまざまなタイプの彫り師の方がいらっしゃいますが、筆者の知り合いをひとり例に挙げると、彼は刺青一筋で生計を立て、お子さんを育て、学校へ通わせ、卒業させている。真っ当な社会生活を行う、真面目な職人です。彫り師という仕事と絵が好きで、職業に誇りをもち……もちろん衛生面に関しても徹底した管理をしているプロフェッショナルである事を筆者は知っています。
翻って、原告主張も理解できるものです。皮膚を削って着色する……という行為の過程では必ず身体にダメージがあり、血も出ますので、医療行為であり監督機関が必要というものでしょう。
そのうえで、高等裁の裁判官は前述の通り解釈し、結果としてタトゥーを入れる行為は『医行為に該当しない』という判断をしたという訳です。
まとめ 今後のタトゥー業界について
筆者の個人的な感情としては、一審判決の『彫り師には医師免許が必要』は無理筋だと感じますが、タトゥーというマーケットが大きくなった現在、国もどこかを監督省庁として定めるべき時期が来ているのでしょう。
また、今後タトゥー業界は率先して保健・衛生に関する約束事を作っていかなければならないという事でもあります。保健・衛生を司る国の省庁との話し合いという、気の遠くなる作業。そしてタトゥー・刺青に関する世間の人々の反応にも配慮しながらルールを作り臨んでいくしかないのだと思います。
タトゥーに限らず、個人の意識や嗜好が多様化した現代では、ネット、音楽、ゲーム、スポーツといったさまざまな有り型や、物事・文化が生まれ、時に形を変えていきます。そしてライフスタイルも世相も変わりゆく中、それらに従事する人々と制度も変化していく必要があるのでしょう。
今後のこの国の自由度を図るという意味でも、タトゥーに興味のない人達にとっても、この裁判は注目するに値すると考えます。
業界団体の設立について……2019年4月追記
本件と関連する情報として、2019年4月現在、タトゥー弁護団 吉田泉弁護士 Wizard T. S.、ANTENNA、文身堂が呼びかけ『一般社団法人 日本タトゥーイスト協会』の設立にむけてwebサイトの公開や、各種手続きが行われている様です。
※2019年5月18日 日本タトゥーイスト協会は一般社団法人として登記を行ったとの報告が、同webサイトに掲載されています、