カカオ(Kakao Corp.)が提供する漫画アプリ『ピッコマ』に掲載されているオリジナル作品のうち、ウェブトゥーン(Webtoon、ピッコマではSMARTOONとも)と呼ばれる、フルカラー&縦スクロールタイプの漫画を中心に、筆者の独断と偏見で注目作品をピックアップしました。
韓国発の漫画作品に触れたのははじめてだったのですが、多数の作品を読む中でこれまでにない価値観や魅力を持った意欲的な作品が多い事に驚かされました。
Index
無料で読める『ピッコマ』おすすめオリジナル作品
はじめに、 この記事は筆者の個人的感想を元に紹介しています。
お約束的な展開が多い作品や、ありがちなストーリー、キャラクター造形に深みが感じられない作品は苦手で、結構ひねくれた感覚と視点でのおすすめとなる可能性も高いですが、どうかご容赦の上お読みください。
人格FFF級のため魔王討伐やり直しになりました
学生の主人公が異世界に勇者として召喚される……日本でもおなじみの異世界転生モノ。
(長いタイトルからもおおむね予想がつきますが)主人公は異世界で勇者として魔王討伐を成功させるも、人格や素行の悪さから『謎の存在』より落第扱いとされ、レベル1からリスタートさせられる……という導入。
『勇者VS魔王』と、『異世界転生』といったお約束系テーマに対するアンチテーゼ的な内容……とはいえ、この手法すらも珍しくはない昨今ではありますが。
主人公の性格は歪みきっていて、もう取り返しはつかない感じ。やってることは終始エゲツないのですが、なぜか悪質な印象は受けません。 ポップなタッチのイラストで、話もテンポよく進み、軽い気持ちで気楽に楽しめる明るいノリ。 この一見相反する部分がバランスよく組み合わさっているのがこの作品の魅力かと。
ファンタジー漫画・アニメ・ゲームを色々読んできた人なら、理解できて楽しめる『お約束破り』的行動も痛快。
主人公や敵たちのステータスがFFFとかSSSSとか、大雑把でよくわからないのが難点といえば難点ではあるが、能力パラメーターを数値で表現している作品だって結局のところ数字をインフレに次ぐインフレで塗り替えるだけなので、あえて割り切ってこうしているのかな、とも。
当記事執筆時点では連載中で、第87話まで公開。筆者は第83話まで読んでいます。
ストーリー | ★★★☆(3.5) |
---|---|
絵 | ★★★★(4) |
キャラクター | ★★★★(4) |
アンチヒーロー度 | ★★★★(4) |
総合評価 | ★★★★(4) |
(1~5/0.5刻み/9段階評価)
Kkangmu Parnar/Bluepic studio
父無双
中世のアジア(?)が舞台の、アクション&家族ドラマ漫画。 原作は韓国の人気Web小説で、そのコミカライズのようです。
武林人(武林=武術に生きる人。日本でいう武術家的な意味)である主人公は、最愛の女性と出会い結婚するも、三つ子を宿した妻は出産と共に死んでしまい、男手ひとつで1女2男を育てていく……というストーリー。

画像:ピッコマ 『父無双』
サンプル第1話より
自身の事を並程度の武術家……と認識した主人公が、3人の子供を育てるために安定した働き口を探し、見つけ、そしてしっかりと働きます。 地味な話に思えるかもしれませんが、男親が子供達を育てる事の苦労と喜びをテンポよく描いています。
仕事は街の入口に1日立ち続ける『門番』。華々しい事はほとんどなく給料もほどほど。
とはいえ主人公は、安全で毎日子供達との時間を得られるその仕事に満足し、日々を生き、子供達を育てます。 稀に特殊なお使い任務が発生するも、長距離の出張だと分かると『子供達に長く会えなくなる』という理由から断ったり……でも臨時報酬の内容によっては従ったり。
正義や強さを追い求める絵空事のような人物ではなく、子を育てるひとりの親として、本当の意味で強く生きようとする主人公像に好感を持たずにはいられません。
子供達の物心がつき、父にならって武術をはじめるあたりから物語はさらに展開します。 娘は賢くそして強く、ふたりの息子は朴訥ながら頑強に育ち、武術学校のような施設に通い始めると、その一部の達人達から(良い意味で)目を付けられます。
一方、主人公も一介の門番としては異様な命令の遂行力から、一部の上司たちに注目されはじめます。結果として重要な指令に駆り出され……。
当記事執筆時点(2021年10月時点)で、連載継続中。全72話まで公開されており69話まで読みましたが、子供達の学校生活と父親の冒険活劇が同時進行ですすみ、物語は密度を増してどんどん面白くなってきています。さすがしっかりとした原作を元にした作品は良いな、と。
一点……ここまで感想を書いておいて、主人公の名前がどうにも思い出せないので、あらためて1話を読み直してみると、
……天草家長(あまくさ かちょう)。 家長の家長でした。
『武林』や『武林人』、『一成、二成、三成……という強さの段階表現(10%、20%、30% ?)』など聞きなれない単語も多いですが、韓国・中国系のファンタジー/アクション漫画には出てくる事が多い要素なので、なんとなく理解しておくと読み進めやすいかも。
ストーリー | ★★★★☆(4.5) |
---|---|
絵 | ★★★★(4) |
キャラクター | ★★★☆(3.5) |
がんばる父ちゃん度 | ★★★★☆(4) |
総合評価 | ★★★★(4) |
(1~5/0.5刻み/9段階評価)
(Lee Hyunseok/No kyoungchan/intimeKAKAO/WEBTOON Studio)
月光彫刻師
主人公が人気VRゲーム中で大活躍する……という、いわゆる『VRゲーム』系漫画。
主人公は多額の借金を背負っていて、それをRMT(ゲームデータのリアルマネートレード)で返済していくという設定で、お金に貪欲というのは日本の作品では珍しい設定でしょうか……そうでもないか。
元来、有名ゲームプレイヤーだった主人公がユニークジョブ『月光彫刻師』手に入れ、さらにゲーム世界の深淵を覗きつつお金も稼いでいくというテーマとストーリー。
当記事執筆時点で第3部の52話(全170話)まで公開されており、長期休載中。 無料で読める第3部47話(164話)まで読み進めています。
個人的には第1部までの作画担当キム・テヒョン氏の絵柄に惹かれた、というのが大きい作品でした。SFやファンタジー系小説の挿絵を現代風に昇華させたような……およそコミックとして読ませるには手間がかかりそうなイラストタッチ。
とはいえ芸術的なだけでなく、漫画としての遊び心やデフォルメにも高いセンスを兼ね備えて、高い水準で連載が続いている事に嬉しくなりました。
ところが第2部で絵柄が全く変わり、その時のショックは……言葉に言い表しきれません。 さらに第3部でも絵柄は変更になっていますので、そもそもそういうスタイルで企画・製作されているのでしょう。
話はつまらなくはないものの……個人的には今や惰性で読み続けているような現状。同名のゲームが発売されたりと、かなりの人気作品であることは間違いないのですが。
ストーリー | ★★★(3) |
---|---|
絵 | ★★★(3) |
キャラクター | ★★★(3) |
第一部の絵柄が最高 | ★★★★★(5) |
総合評価 | ★★★★(3.5) |
(1~5/0.5刻み/9段階評価)
(ナム・ヒソン/イ・ドギョン/パク・ジョンヨル/Intime)
俺だけレベルアップな件
広告などで露出も多いピッコマの超人気作品、知っている人も多いかと。
魔界に通じてしまった現代で、特殊な能力を得た人間達が戦うという、昨今王道となりつつあるプロットの作品。
序盤のうだつの上がらない状況、悲惨な境遇から起死回生。 主人公がインフレ的に強くなっていく過程が痛快で、爽快感を伴って麻薬のように引き込まれていきます。 倒したモンスター達を強制的に支配下に置いて、次の強敵達と戦わせるという能力も、心の奥底にある『支配欲』を掻き立てられゾクゾクします。
そういえば『ライバルと共闘』『モンスターを仲間にする』といった設定も、やはり王道でしょうか。
絵柄もとても美麗で、作品として欠点らしい欠点があまり見当たりません。 当記事執筆時点では第164話まで公開され、連載中。 ややマンネリ化を感じますが、まだ物語は展開しそう。
なろう系や、昨今のファンタジー作品が好きなら、読んでおいて損はない作品。
ストーリー | ★★★★(4) |
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絵 | ★★★★(4) |
キャラクター | ★★★(3) |
強さのインフレと爽快感 | ★★★★(4) |
総合評価 | ★★★★(4) |
(1~5/0.5刻み/9段階評価)
(DUBU(REDICE STUDIO) /Chugong/h-goon/D&C WEBTOON Biz)
テムパル 〜アイテムの力〜
前出した『月光彫刻師』同様、主人公がRMTのあるVRゲームでお金を稼ぐという『VRゲーム』系漫画。
当記事執筆時点で全88話まで公開中の連載中作品。 74話まで読みました。
ゲーム中で運よく特殊な職業に転職できて、その能力で大活躍していくという点も『月光彫刻師』に同じ。 その職業は伝説の鍛冶職人の血を受け継ぐという『ファグマの末裔』。 生産系の職業が、じつは戦闘も強くて……という所も既視感を覚えます。
こちらは、優遇された鍛冶職人スキルで強い武具を製造できて、ゲーム中の制限を無視した強い武器防具も装備できるのでチート級の大活躍をする主人公。……とまぁ、終始そんな調子ですが、やはり爽快感を楽しめるし、イラストも美麗。 主人公の性格も3枚目風で好感が持てる。
ストレスを感じずに楽しめる作品なので、ついつい読み続けてしまいます。
ストーリー | ★★★(3) |
---|---|
絵 | ★★★☆(3.5) |
キャラクター | ★★★(3) |
チート設定の優越感 | ★★★☆(3.5) |
総合評価 | ★★★☆(3.5) |
(1~5/0.5刻み/9段階評価)
(Team Argo/Monohumbug(REDICE STUDIO)/Saenal/REDICE STUDIO)
面白く感じなかった作品も紹介……
ピッコマはオンライン広告や、アプリ内でのランキングで様々な作品が紹介・ピックアップされています。
実際に日本でも既に話題になっている作品も多いのですが、筆者が読んでみたところあまり楽しめなかった……という作品もありました。これらについても少しだけ紹介しておこうと思います。 やや辛辣な書き方かも。
ゴッド オブ ブラックフィールド
強い傭兵が死んだら、同時代の母国に生きる高校生に転生(憑依?)した……という現代転生モノ。
設定の強引さは置いておいて、とにかく主人公による暴力描写が目に余る。自分に正義があれば、相手には徹底的に攻撃して良い……という事だろうか。まあ実際、前世(?)で殺されているので、大義名分は十分にあるのだけど。
リアル寄りの作画もあってか、痛々しい攻撃や、拷問的な描写に読み進めるのが苦しくなっていきます。
ストーリーも単調で、新しい悪者が順番に出てきては、その度に肉体的なり精神的にマウントを取っていくだけの勧善懲悪の暴力至上主義は、個人的には読んでいて気分が良くなかった。
筆者は第35話で読むのを止めてしまいましたが、現在89話まで公開中。 どうやら人気はあるようなので、もう少し我慢すると、面白く展開していくのかもしれませんが……。
ストーリー | ★★(2) |
---|---|
絵 | ★★★(3) |
キャラクター | ★★★(3) |
勧善懲悪 | ★(1) |
総合評価 | ★★(2) |
(1~5/0.5刻み/9段階評価)
(雲/SIN/武将/Toyou’s Dream)
六本木クラス
ヒットしたドラマ『梨泰院クラス』の原作となる作品。 日本語ローカライズで舞台は六本木に替わっています。
父親を殺された主人公が、その黒幕が社長を務める大企業を乗っ取るために、援用漁船(マグロ漁船?!)で稼いだお金で一等地(六本木!)に飲食店(居酒屋?)を開き下剋上を目指す……。
この作品を知人に勧められたのがきっかけで、ピッコマをインストールしたのですが、絵、ストーリー、キャラクター、いずれもあまり好きになれず……我慢して61話まで読むもギブアップ。
本来『タンバム(甘い夜)』という名前だった主人公の店を、『ハチミツザナイト』とローカライズした人は深く反省したほうが良い。 六本木にあるそんな名前の店に入る? 繁盛する? ……いや、逆に興味は沸くかもしれないけども。
ストーリー | ★★(2) |
---|---|
絵 | ★(1) |
キャラクター | ★★★(3) |
ハチミツザナイト | ★(1) |
総合評価 | ★★(2) |
(1~5/0.5刻み/9段階評価)
(原作・作画:Kwang jin/KAKAO WEBTOON Studio)
4000年ぶりに帰還した大魔導士
こちらも広告やアプリ内で人気作品としてよく目にするタイトル。
落ちこぼれの主人公に、なんだか知らないけど滅茶苦茶強い大魔導士の魂が乗り移って、途端に活躍をするという……ファンタジー転生モノ。
主人公は長髪、銀髪。さらにイケメン&マッチョに変貌したモテモテのチート魔導士に。対して悪いヤツらはとことん馬鹿で不細工。
特に理由もひねりもない主人公無双が続き……綺麗ではあるけどバターみたいに味付けの濃い画風が個人的に苦手で、早々に読み進めるのが苦痛に。どうにも我慢できず第24話で読むのをやめしました。
どう転んでもこれは面白くならないだろう、と。 なるの?
ストーリー | ★☆(1.5) |
---|---|
絵 | ★★★(3) |
キャラクター | ★★(2) |
うん、とにかく強いですね | ★☆(1) |
総合評価 | ★★(2) |
(1~5/0.5刻み/9段階評価)
(kd-dragon(REDICE STUDIO) 、落下傘、フジツボ、株式会社エル・セブン)
まとめ
アプリ『ピッコマ』だけで読める、オリジナル作品を中心に面白いと思うもの、そして期待はずれだった作品をピックアップして紹介しましたが、現時点で同アプリに登録されている60,000もの作品の中から一部を読んだにすぎません。
記載内容や評価については個人の感想ですので、その点ご容赦を。ピッコマは女性向けの漫画にも人気作品が多いようですが、筆者はそれらにまだ手を付けていません。
なお、ピッコマではほとんどの作品が最新の数話を除いて無料で閲覧ができるので、今後も時間の許す限り色々な作品に触れ、あたらしい感動を見つける事ができれば……と考えています。
少し余談となりますが、フルカラーで縦に読み進めていくスマートフォンでの閲覧に特化した漫画の提供は、やはりピッコマが一歩抜きんでていると思います。 作品自体は韓国作品が多いですが、日本に配信する際にその内容(人名、地名)などを変更するなど、作品の本質にも影響のあるような大胆なローカライズを実行しています。
従来の(横に読み進む紙媒体での印刷を基本とした)漫画も、続々とスマートフォンアプリに掲載されるようになってきてますが、文字が小さかったり、モノクロであったり。紙からスマートフォンアプリへの『移植』でしかないのだな、と感じてしまいます。
作品の魅力は色の有無や媒体がすべてではありませんが、新しい時代と新しいメディアにあわせたコンテンツを迅速に提供できるか……といった面では、漫画・アニメ大国と呼ばれていた日本も、少し遅れをとっているのではないかな、と感じてしまいます。