16~17世紀に活躍した、もっとも偉大な作家といわれる劇作家/詩人であるウィリアム・シェイクスピア。
かの天才シェイクスピアは、後の創作物に多大な影響を与えた鋭い人間観に基づく数々の普遍的名作を残しており、直接的・間接的に多数の作品が映画化されています。今回は彼の作品を再現、または元にしたといわれる作品を紹介します!
Index
シェイクスピアを原作として映画化した作品
まずは、シェイクスピアの作品を直接的な原作として扱った比較的新しい映画をご紹介しましょう。
キング(2019年)
シェイクスピアの『ヘンリー四世 第1部』、『ヘンリー四世 第2部』、『ヘンリー五世』を原作にした歴史超大作。15世紀のイングランド、父王ヘンリー4世の急死により、それまで気楽に暮らしていたハル王子が、ヘンリー5世となって様々な派閥争いや、敵国との争いに巻き込まれて苦悩するさまを描いています。
旬の俳優ティモシー・シャラメがただの青年だった状態から、王としての自覚をもって覚醒していく成長譚でもありますが、それ以上にげんなりするような陰惨な戦争、権力争いが暗い画面でじっくりじっとりと描かれ、いい意味で疲れる作品です。
華麗な剣技などまるでなく、ひたすら相手と削りあうだけの泥と血にまみれた殺し合いの描写はすさまじく、中世の野蛮さをそのまま描いていて興味深い点です。ラストも原作の非情さを再現し、争いのむなしさを感じさせます。
マクベス(2021年)
2021年に『ファーゴ』『ノーカントリー』で知られるコーエン兄弟の兄・イーサンが、陰影の濃い幻想的なモノクロ映像で『マクベス』に挑んでいます。
原作とほとんど話は同じで、「この悲しみに言葉を持たせよ!」といった、戯曲でしかありえないセリフもそのまま引用されていますが、キャスティングは現代的でマクベス役は黒人俳優筆頭格デンゼル・ワシントンが演じ、夫人はイーサンの妻フランシス・マクドーマンドが演じています。その他人種も多様ですが、それでも違和感なく見れてしまうくらい『マクベス』という悲劇の普遍性のすごさも感じました。
本来大それたことはできないはずの男が、有害な男性性にとらわれ、人の道を外れてまで無理な立身出世を狙って破滅に向っていくさまは、その他にいろんな例を思い浮かべるのではないでしょうか。1シーン1シーンが絵画のような美しさと独特な構図の画面は、基本的に抽象的で、中世の話のはずなのにもっと根本的ないつの時代も変わらない人間の愚かさを映し出しているようにも思えます。
マクベス夫人の狂気や、キャスリン・ハンター演じる魔女のビジュアルやしわがれ声の禍々しさなどもホラー映画的みどころとなっています。
シェイクスピアを元にアレンジした映画作品
蜘蛛巣城(1957年)
シェイクスピア4大悲劇のひとつ『マクベス』を、戦国時代の権力争いの物語に翻案した世界的巨匠黒澤明によるホラー時代劇です。
自分が領主になれるチャンスを知ったマクベスにあたる武将 鷲津武時が、自ら血塗られた玉座に座り、その後身を持ち崩していく展開などは、裏切りだらけだった日本の戦国時代の物語にマッチしており、陰影の濃いモノクロ映像も相まって実に恐ろしくてむなしい栄枯盛衰物語になっています。
武時役の三船敏郎の名演はもちろん、マクベス夫人役にあたる山田五十鈴の能面のような顔での禁断のささやき、そして移動するときの衣擦れの音もトラウマ級で、ホラー風味の作品でも黒澤監督の腕が光ります。ラストの本物の弓矢を使った(黒澤と三船ののちの決別の一因)ド派手な破滅描写まで、一瞬たりとも気の抜けない堂々たるシェイクスピア映画です。日本の伝統芸能『能』を意識した、引きの絵の多い映像美にも注目してみてください。
禁断の惑星(原題:Forbidden Planet 1956年)
権力争いに敗れ、絶海の孤島に愛娘と暮らすかつてのミラノ大公プロスペローが、未知の怪物の力を使って島を訪れた仇敵たちに復讐するシェイクスピアの恐ろしい悲劇『テンペスト』を、SFに置き換えた古典的名作です。
『2001年宇宙の旅』(1968年)よりも以前、まだSF映画への評価が低い1956年の公開作品。 今見てもアッと驚くことのできる特撮の粋を尽くした映像と、シェイクスピアの名作を土台にした重厚な脚本でぐいぐいと物語を作り上げています。
宇宙の辺境の惑星に住んでいたモービアス博士の心の狂気が具現化した、『イドの怪物』は描写としても設定としても新しいですし、劇中に出てくるお手伝いロボット・ロビーはのちに手塚治虫の名作『火の鳥』に出てくるロビー・ザ・ロボットの元ネタになるなど、SF映画の金字塔のひとつとして今も愛されています。
ウエストサイド物語(原題:West Side Story )
2021年にスピルバーグ監督の手でリメイクもされた超有名名作ミュージカル、こちらはシェイクスピア作品の中でもっとも有名かつ分かりやすく親しみやすい傑作『ロミオとジュリエット』が元ネタです。
見ればわかりやすいのですが、ニューヨークのダウン・タウン、ウエスト・サイドを舞台に、対立する移民の不良グループのリーダーの妹と元リーダーが恋に落ちてしまい、それ故に数々の悲劇が起きてしまうという展開はまんま『ロミオとジュリエット』です。
しかし、劇中の曲はもちろんオリジナルで、原作のベランダ越しに語り合う名場面もアメリカによくある団地の間の吹き抜けのアパートの階段になっていて、あくまでもニューヨークのストリートらしい、若者たちの等身大の物語になっています。
移民の国、そして格差の国アメリカを批評する内容にもなっており、60年隔ててオリジナルとリメイクを見比べて、変わっている点、変わっていない点を考えてみると、さまざまな発見があるでしょう。
乱(1985年)
モノクロからカラーに移行した晩年の黒澤明が、『蜘蛛巣城』から28年ぶりに、今度は同じくシェイクスピアの『リア王』を戦国時代に翻案した歴史超大作です。
かつての名君が老いによって疑心暗鬼に囚われ、娘も信用できずどんどん滅びに向かっていく様はまさに悲劇であり、こちらも戦国時代と見事にシンクロしています。
当時75歳で世界的レジェンド監督となっていた黒澤明が、構想9年、製作費26億円をかけ、こだわりにこだわって作った巨大な城のオープンセットなどは、度肝を抜かれてしまいます。
世界的評価も高く、第58回米アカデミー賞では監督賞を含む4部門にノミネートされました。
ライオンキング(原題:The Lion King 1994年)
ディズニーの人気作品『ライオンキング』も、実はシェイクスピアの『ハムレット』が元ネタといわれています。
『ハムレット』は『デンマークの王子ハムレット(シンバ)が、父王(ムファサ)を殺して母親(サラビ)を寝取った叔父(スカー)に紆余曲折を経て復讐する』という、『ライオンキング』そのままなストーリーですが、フィクションだけでなく実際の権力争いでもよくあることなので、そこまで違和感はないかもしれません。
2017年に話題になったインド映画『バーフバリ』2部作も、『ハムレット』を連想させる貴種流離譚であり、『ライオンキング』にも似ているといわれていました。
とはいえ、ディズニーらしく、シェイクスピア作品の重苦しさは極力減らして、ミーアキャットのティモンとイボイノシシのプンヴァによる陽気なミュージカルを挟んだりと、当然ながらファミリーで楽しめる内容です。『ハムレット』の悲劇要素を極力減らし、エンタメに仕上げた作品と言えるでしょう。
まとめ
当記事では、様々な視点で『シェイクスピア映画』を紹介しました。
どの作品も原作を知らずとも楽しめますが、自分の心の奥底にある欲望や悩みが映し出される……誰もが他人事でいられない物語です。
これらの映画を通して、シェイクスピアの作品の魅力と普遍性のより深い理解につながるかもしれません。