毎年必ず新作が制作されるナチス・ドイツを題材にした映画。ドイツとの戦争や、関連する暗い歴史を描いた作品から『ナチス月から攻めてきた!(※)』といった正気を疑うような設定の作品まで、もはや数えきれないほどの映画が制作・公開されてきました。
そんな映画界の中でも確固たるジャンルを築いているナチス映画が、この年末に『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実』(2021年11月9日公開)と『ナチス・バスターズ』( 2021年 12月3日公開)の2作品&2カ月連続で放映されます。
両作品ともロシアとナチスドイツとの死闘を描いた作品ですが、結構テイストの異なる映画ですよ!
Index
大迫力のハードな戦争映画
『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実』

タイトル | 1941 モスクワ攻防戦80年目の真実(原題:THE LAST FRONTIER) |
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公開日 | 2021年11月19日 |
監督 | バディム・シメリェフ |
脚本 | バディム・シメリェフ イゴール・ウゴルニコフ |
出演 |
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制作 | ロシア(2020年) |
公式Web、関連リンク | 『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実』公式サイト |
あらすじ
1941年10月。ソ連に侵攻したドイツ軍はモスクワを目指し進撃。首都が陥落を阻止するため、兵力不足のソ連軍は増援部隊が到着するまで敵を食い止めるために、訓練中の学生兵を戦場に送ることに。ポドリスク兵学校士官候補生の砲台手・ラヴロフやその親友ディミトリ、彼らを慕う看護師のマーシャたち3,500名は戦線に送り込まれた。しかしそこは、実践を積んでいない若者たちにとって地獄のような戦地だった。
本作はナチスドイツが初めて大敗したといわれる『モスクワ攻防戦』を題材にした壮大な戦争映画。歴史的にあまり知られていない戦いですが、モスクワを守るために若い士官候補生たちが命を懸けて戦います。
大味なアクションが見どころであると同時に、リアリティを追求するためにロケ地に村や橋、さらには人口の川を作ってまで当時の戦場を再現。ついには戦車や大砲などの兵器も、博物館にある本物を撮影に使うガチっぷり。ミリタリーファンも唸る世界観は必見です。
ポスタービジュアルで侮ることなかれ……圧倒的爆撃シーンがすごい
本作のポスタービジュアルを見ると、ビデオスルー(映画館で上映されずDVDがリリースされる作品こと)な雰囲気が感じ取れますが……
実際の内容は全くB級ではありません。むしろ先に書いたように、史実を再現するリアルな世界観、戦闘シーンを見ることができるしっかりと作られた戦争映画です。
戦線に向かう道中の奇襲をワンカットで描くなど、ナチスドイツは何度も奇襲を仕掛けてくるため緊張感が続き、その攻め方も息つく暇を与えないレベル。爆撃シーンはロシアの陣地が見えなくなるほど凄まじく、圧倒的な戦力の差に圧巻。文字通り、開いた口が塞がらないほどの状況に驚愕しました。果たして彼らはどのようにしてモスクワを守り切ったのか、終始気になってしまいます。
個人的には主人公が砲台手というのもユニークな設定だと感じました。これまでの戦争映画の主人公というと『1917 命をかけた伝令』(2019)のように戦地を駆け巡る歩兵や『アメリカン・スナイパー』(2014)の狙撃手、『ダンケルク』(2017)の飛行部隊といった兵科で描かれるケースが多かったように思えます。
とはいえ、本作での砲台手も貫通弾で戦車を破壊するなど、敵の主戦力を潰す彼らの活躍が他の兵士たちの生還に大きく関わってくるのが伝わるように描かれています。あまりフォーカスされる事のない砲台手の活躍を楽しめるという面でも貴重な戦争映画かもしれません。
未来ある若者が次々と散っていく…兵士たちの最期を力強く描く
本作が他のナチス映画と異なる点は、登場する殆どの兵士がまだ若者という点です。20歳前後で実戦経験のない約3,500人の士官候補生が、圧倒的力を持つナチスドイツが攻め込む戦線に送り込まれる。字面からしてかなりの地獄絵図。
当時の若者は既に家庭を持っている者も多く、子どもの成長を見られないまま死んでいく者、恋人を残して戦場で散っていくもの、さらには恋人も衛生兵として戦場に送り込まれるカップルなど……。
若者目線での戦争の残酷さも描かれています。しかしそれをセンチメンタルに表現するのではなく、最期まで兵士として誇りを持って戦い続ける姿を描いた力強い演出を楽しめました。無論、本作は戦争を美化する映画ではありません。名を残すことなく死んでいった若き兵士たちを追悼する意味が込められた作品でもありました。
長めの作品ですが、大迫力の空爆シーンやハードなストーリなど見どころも多く、ダレる事なくしっかり楽しめる良作ですよ。
ストーリー | ★★★(3.5) 若者が大勢死ぬハードなストーリー展開 |
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映像 | ★★★★★(5) 圧巻の空爆シーンは必見! |
音楽 | ★★★(3) 特に特筆する点はなし。 |
構成 | ★★★★(4) やや長めの作品ですが、緊張感ある展開が続くのでダレることなく鑑賞できます。 |
総合評価 | ★★★★(4) 映像・音響含め、ぜひ劇場で見てほしい作品 |
(最大星5つ/0.5刻み/9段階評価)
ナチスドイツを地獄に送れ!
『ナチス・バスターズ』

タイトル | ナチス・バスターズ(原題:RED GHOST) |
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公開日 | 2021年12月3日 |
監督 | アンドレイ・ボガティレフ |
脚本 | アンドレイ・ボガティレフ ブヤチェスラフ・シクハリフ パベル・アブラメンコフ |
出演 |
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制作 | ロシア(2020年) |
公式Web、関連リンク | 『ナチス・バスターズ』公式サイト |
あらすじ
1941年の冬。ソ連に侵攻したドイツ軍兵士たちは「赤い亡霊」と呼ばれる凄腕のロシアンスナイパーを恐れていた。その頃、部隊とはぐれた5人のソ連兵たちは誰もいない村で休息を取るが、ブラウン大尉率いるドイツ軍部隊が村に現れ、味方の一人が捕まってしまう。人数的に不利な中でも戦闘を続けるソ連兵たちだが、突如次々とドイツ兵が射殺される。その銃弾は噂されていた「赤い亡霊」が放ったものだったーー。
前述の『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実』が壮大なスケールな作風の戦争映画なのに対し、こちらの『ナチス・バスターズ』は1人の謎めいた英雄にフォーカスを当てた、コンパクトな作品。『1941』の上映時間が142分に対し、『ナチス・バスターズ』は90分ほどとなっています。
謎めいた英雄『赤い亡霊』と、はぐれソ連兵の活躍を描く

画像 公式予告のスクリーンショット
(C) ABC, Ltd. (C) Russian World Vision, LLC All rights reserved.2020
本作も前述した『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実』と同じ年代を描いたロシアvsドイツの戦争映画。
作中のメインテーマである『赤い亡霊』については実名も明かされなければ、ほとんどセリフもありません。一見100%フィクションのように思えるその存在ですが、多くの元兵士やその子孫から取材をし生み出されたキャラクターだそうです。
前半は部隊とはぐれたソ連兵の目線が中心で、話は若干もたっとした感じで進みます。ところが後半、『赤い亡霊』が加勢し寒村で繰り広げられる激しい戦闘パートは必見。状況はどんどんカオスめいていき、兵士たちの異様なテンションにも引き込まれていきます。
顔を殴られて顎が外れた仲間に、思いっきりグーパンチで直す荒療治には思わず笑ってしまいましたが(笑)。
『赤い亡霊』の戦う姿もカッコ良いのですが、より魅力的なのは彼の意志の受け継がれ方。ロシアの英雄の志がどのように受け継がれていくのか、という点も注目です。
『ポーラー 狙われた暗殺者』のマッツ超え? 全裸で雪原を駆け抜ける悪役を推したい
本作『ナチス・バスターズ』には明確なヒールが存在します。部下からも『別名:処刑人』と呼ばれるその男の名はブラウン大尉。部下にはメチャクチャパワハラをしておいて、自分は勝手に入り込んだ民家でサウナをキメるという典型的なオラオラ上司。そのくせイケメンで妙に物腰柔らかい態度を取ったりするので、つかみどころのないサイコパスでもありました。とはいえ、筆者はこの男を全力で推したい…!
敵対勢力のヒールという事で、当然『赤い亡霊』を殺そうとする存在なのですが、サウナを楽しんでいる隙に赤い亡霊に狙撃され素っ裸で敵から逃げる羽目に……。
設定や背景がやや分かりにくい本作ですが、そんな目に遭ったブラウン大尉の『赤い亡霊』に対する殺意だけは単純明快なのがとても面白い。シリアスな状況で全裸のまま逃げ出すことになり、観客にはモザイク処理を晒すと、急場をしのいだ衣装でプライドもめちゃくちゃ傷ついた様子。
似たシチュエーションでは、極寒の場所で全裸のまま敵と対峙する映画『ポーラー 狙われた暗殺者』(2019)を思い出しますが、マッツ・ミケルセンでさえ、ここまで全裸で走り回っていませんでした。(彼の場合、全裸の理由はサウナではなく“お楽しみ”だったことが原因ですが)
珍妙な点でまさかの“マッツ超え”を果たしたブラウン大尉の活躍(?)は必見。重ね重ね推したいキャラです。
本作はナチス映画とはいえ、ヒトラー云々といった小難しい要素や、政治的要因といった背景も考えずに見られる作品ですよ。
ストーリー | ★★★(3) 非常にシンプルなストーリーだが、背景や設定がやや分かりにくいかも。 |
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映像 | ★★★★(4) 寒村で巻き起こるカオスなバトル展開が見どころ! |
音楽 | ★★★(3) ナチス映画だけど、どこか西部劇を彷彿とさせるテーマソングが印象的。 |
構成 | ★★★(3.5) 英雄の意志が受け継がれていく様子がアツい |
総合評価 | ★★★(3.5) ブラウン大尉の飾りっ気のない殺意(物理)を堪能しよう! |
(最大星5つ/0.5刻み/9段階評価)
まとめ
今回は、同じ1941年の舞台を描いた映画作品『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実(2021年11月9日公開)』と、『ナチス・バスターズ(2021年12月3日公開)』をご紹介しました。
公開日が近い時期に、雰囲気の違うナチスドイツをテーマにした映画が公開されるというのも珍しいと思います。折角ですので、双方を映画館で見比べて、映画というエンターテインメントの表現の幅を楽しめる絶好の機会かもしれません。
さらに勢いをつけて、年末年始は各種VODサービスでナチス映画を見まくるというのもというのも面白いかもしれませんよ。