ドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』レビュー 作品から垣間見るスパークスの本質
ドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』レビュー 作品から垣間見るスパークスの本質

ドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』レビュー 作品から垣間見るスパークスの本質

評価:3.5 

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世界広しと言えどもスパークス(Sparks)ほど謎なアーティストはいない。活動歴50年、リリースしたアルバム25枚楽曲数345曲……。そんなワーカホリックとも言える実績を残してきたにも関わらず、「どんなバンド?」と問われたとき、長年のファンでさえも何故か答えに窮してしまうという稀有な存在、それが彼らなのだ。

そんな謎の彼らに焦点を当てたドキュメンタリーこそ、映画『スパークス・ブラザーズ』だ。ふたりの人生に初めて迫った、激レア作品である。一体彼らはどのような思いを抱きながら、カオスな活動を続けてきたのか……。これまで明かされることのなかった秘密を白日の下に晒す、革命的な映画となっている。

ドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』にみる彼らの本質

筆者は以前から本作(映画『スパークス・ブラザーズ』)を観たいとは思っていたのだが、そのタイミングを逃していた。ところが、2022年末に(12月17日)Amazonプライム・ビデオで独占配信が始まったのを期に視聴。そしてここで同作を紹介させていただく、という経緯である。

結論から言うと、本作はスパークスの『ファンか』/『そうでないか』で評価が大きく分かれる作品だ。アーティストとしての彼らに興味のない人は観るべきではないと思うし、スパークスを知る人なら絶対に観てもらいたい重要作である。

そもそもスパークスとは?

そんな訳で、映画のレビュー前にスパークスのバイオグラフィーから記さねばなるまい。

スパークスはアメリカ出身の2人組ロックバンドで、ボーカルのラッセン・メイル(Russell Mael)と、キーボードのロン・メイル(Ron Mael)という構成だ。名前からもわかる通り、ふたりは実の兄弟。ラッセンが兄、ロンが弟だ。

彼らは大の日本好きで、2022年には『SUMMER SONIC』を含めプライベートでも来日。自宅にはコップのフチ子さんや鉄腕アトムなど、様々なジャパニーズアイテムもあるそうだ。

そんなスパークスが唯一無二とされる所以は、何よりその稀有なサウンドメイクにある。『スパークス・ブラザーズ』予告動画で使用されている楽曲で言えば、まずは代表曲の“This Town Ain’t Big Enough For Both Of Us”。

【4月8日(金)公開】映画『スパークス・ブラザーズ』予告編
【4月8日(金)公開】映画『スパークス・ブラザーズ』予告編

この楽曲ではピアノの綺麗な旋律に気持ちを委ねていると突然サウンドが止まり、バキューンと鳴る銃撃音で現実に戻される。

Sparks – This Town Ain't Big Enough For Both Of Us
Sparks – This Town Ain’t Big Enough For Both Of Us

かたや“All That”では何重にも重ねられたボーカルが壮大な雰囲気を形作り、素直にウルッと来る。他にもパンクやジャズ、エレクトロといった雑多なサウンドをアルバム内で何度も変更する。結果としてスパークスは、どこに軸を置いているのか分からない謎のジャンルレスバンドとしての印象を受ける。

Sparks – All That (Live in Isolation)
Sparks – All That (Live in Isolation)

アーティストがその真髄を発揮するライブパフォーマンスの面でも、スパークスの存在は強烈だ。ライブでは基本的にサポートメンバーを加えた6名編成で展開されるのだが、ボーカルのラッセンはギターなどは持たずに一貫して歌のみで魅せ、対してロンは無表情でキーボードを弾き倒す。ただ演奏の後半に配置されることの多い楽曲“No.1 Song In Heaven”では一転。椅子から立ち上がったロンが笑顔で奇妙なダンスを繰り広げる。

Sparks – The No. 1 Song In Heaven (Common People Oxford, May 2018)
Sparks – The Number One Song in Heaven

映画『スパークス・ブラザーズ』レビュー

では映画『スパークス・ブラザーズ』は、鑑賞者にどのような知見を与えてくれるのだろうか。大前提として、この映画はいわゆる一般層へのエンタメ要素を度外視していることは理解しておきたい。

画像 Amazonプライムビデオ スパークス・ブラザーズ より
画像 Amazonプライムビデオ
スパークス・ブラザーズ より

『元々スパークスのファン』、もしくは『スパークスに興味がある』という人たちにのみ向けられたこの作品は、スパークスに興味のない人が集中して見たところで「よく分からなかった」との感想を抱くのが関の山。それほどニッチな作品なのだ。

ただスパークスを少しでも知る人にとって、この映画は最高の情報源になり得る。幼少期の体験、音楽を始めたきっかけ、活動中に感じていた悩みなどなど……。長年隠されてきたバックグラウンドを深掘りしつつ、音楽性に結び付ける形でふたりの思い出の扉を引き出しているのは、本当に貴重。

中でも印象的なものを挙げるとすれば、彼らの音楽活動は『映画鑑賞』の共通の趣味が土台にあったことだろうか。当時の彼らはかなりの映画オタクだったそうで、西部劇や戦争映画に傾倒。そこから音楽に移行するのだけれど、ロンいわく「両親は時間に適当で、よく映画の途中から観て、始まりはどうだったかと想像した。……僕らの曲の進行の荒さはある意味それが、きっかけかもしれない」とのこと。

彼らの原体験と音楽が結び付いて、妙に納得したのがこのシーンだった。

その他、我々ファン的にもハッとさせられる発言も多い。……先述の通り、スパークスは曲調を著しく変化させたり、稀有なパフォーマンスで音楽番組に出演した。そのためファンなら一度は、今の表現で言うところの「バズって売れようとしているのでは?」と思ったことだろうが、どうやら彼らは商業的策略とは無縁だったことがこの映画では分かる。そう。全ては音楽を第一に考えた結果たまたま話題になってしまったという、完全に一貫したスタイルだったのである。また話題性ばかりが先行するスパークス評に関して、否定的に考えていたのもラッセンとロン。視聴率のためにエンタメに昇華させようとするメディア側と、自分たちの音楽を信じて活動してきたスパークス側、互いの意見の違いを明確に示す一幕は彼らの熱量を強く感じさせてくれる。

他のバンドやアーティスト、スタッフの視点から見る『スパークス』

物事というのは全般的に、それらに近しい存在の意見を聞くのが最も信憑性が高いものとなる。今作ではBECK(ベック)レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーといった大物アーティストの他、共に作品を作り上げてきた音楽プロデューサー、果ては長年のファンまでもが一挙に集められたインタビュー映像が流れる。これが謎に包まれたスパークスの客観的意見として、大きな役割を果たしている。

取り分け注目すべきは、やはり同じ釜の飯を食ったバンド側の視点だろう。とある関係者は「自分のアートを追求し、それを愛せば満足だ」とスパークスの非商業性を再確認し、レッチリのフリーは「服を与えるバンドではなく、ミシンを与えて服を作らせるバンド」と独特の表現で称えている。我々リスナーが思うスパークスと、実際に近くで関わって見たスパークス。それはあまりにリアルに「そうだったんだ!」と心を射抜く力がある。

個人的に腑に落ちたのは、ベックが語った「蒔いた多くの種やアイデアが、別の場所で育ち子孫を作り出すバンド」という表現。確かにスパークスは一気に跳ねることはなかったバンドだ。ただその結果表には出ないまでも、ゆっくり着実に広がった彼らの音楽は様々なアーティストに影響を与え続けている……。ベックはその事実を、映画という媒体で断言したのである。

そして断言するが、もしも上記のベックの答えをラッセンとロンに伝えたとして、彼らはNOと返すはずだ。「僕らはそんな大したバンドじゃないよ」とか、おそらくそうした答えになる。どこまでも謙虚で、その実音楽シーンを変えている存在。それがスパークスである。

おわりに

ここまで鼻息荒く記してきたように、『スパークス・ブラザーズ』は「スパークスはどんなバンドなの?」という多くの疑問に、真っ向から答えるドキュメンタリー映画だ。この映画を観れば楽曲を聴き返したくなるし、ライブに行ってみようとも強く思うはず。元々コアなファンが多かったスパークスのことだ。今は劇場に足を運ばなくとも、オンラインで動画を視聴できる。筆者はAmazonプライム・ビデオでの配信を期に観る事ができたが、あまりにニッチな着眼点で送るこの映画を実際に鑑賞する人は、音楽ファンの中でもごく少数かもしれない。そうではない(熱心な音楽ファンでは無い)人々の元まで届くことはなかなかない作品だと思う。

……でも多分、それでいいのだ。

あくまでマイペースに、それでいて試行錯誤を繰り返してきた無冠のロック兄弟。「よく分からないバンド」のイメージが未だ根強い中、この作品で少しだけ彼らの人間味は明らかになるはず。そして映画の最後で誰もが予想しなかった『衝撃的な事実』が明かされる点も含めて、我々はずっと彼らの手の上で翻弄されてきたのだと、ハッとさせられる作品でもあった。

彼らと、その音楽、そしてこの映画を少しでも気になっている人は、公開が終了するまでにぜひ鑑賞をすべきだろう。

ストーリー ★★★(3)
ドキュメンタリー映画ならではの作りのため、物語的な起伏はほぼ皆無。過去を追体験するスタイルは仕方ないまでも、その代わりスパークスファンには圧倒的に刺さる作品。劇中の情報量の多さに耐えられるのはファンだけ、という強気な意欲作。
キャラクター ★★★★(4)
ラッセンとメイル、このふたりの謎に包まれたキャラクターが私生活を通して明るみに出る作りは◯。50年間の活動でミステリアスを貫いていたふたりならではの情報は、きっと「おお!」となるはず。
エンタメ性 ★★★(3)
アルバムごとに作風・当時の状況を明らかにする流れは面白い。ただ似通ったテンポで続くため、冗長に感じる可能性も大。これに関しては『どれだけスパークスを元々知っているか』に委ねられると思われる。
感動 ★★★(3)
こちらもスパークスの情報所有度に左右される。泣けるシーンは皆無なれど、音源を何度も聴いたり彼らを追ってきた人には嬉しい作品。
総合評価 ★★★☆(3.5)
繰り返すが、『スパークスファン』か『そうでないか』で評価が大きく二分されるのが今作。彼らに全く興味のない人は観るべきではないと思う反面、スパークスを知る人には絶対に観てもらいたい重要作でもあるので、まずは楽曲なりラッセン、ロンのふたりなりを知ることからのスタートするのが良いかと。
映画スパークス・ブラザーズのレビュー
(最大星5つ/0.5刻み/9段階評価)

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島根県在住、会社員兼音楽ライター。rockinon.com、KAI-YOU.netなどに音楽関係の記事を中心に執筆。毎日浴びるほど酒を飲みます。

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