コロナ禍になって再び注目を集めた映画『コンテイジョン(原題 Contagion)』をご存じでしょうか?
致死率の高い未知のウイルスによるパンデミックを描き、世界が恐怖に飲み込まれていく様子を描いた本作は2011年に公開され、当時もそのリアルな内容は衝撃的で多方面で評価されました。
そして、世界的な新型コロナウィルスのまん延により、生活スタイルや環境が大きくかわった今になって、この作品があらためて評価・注目される事になりました。
Index
映画『コンテイジョン』とは
映画『コンテイジョン』は 2011年に公開された映画ですが、作中で描かれたパンデミックの様子は、2021年現在も世界中にまん延している現実世界のコロナ禍と多くの共通点がある事で再注目されました。
その類似点の多さに「映画がパンデミックになった世界を予見している」とさえも言われ、本作に出演するケイト・ウィンスレットやマット・デイモンなどが、新型コロナウイルス感染拡大の防止に関するメッセージ発したことも話題となりました。
現在、日本でも徐々にワクチン接種が始まりましたが、改めてコロナ禍から1年経過した今、『コンテイジョン』は世界の変貌をどこまで予見したのでしょうか?
映画とコロナ禍の共通点を再度探し出すと同時に、1年以上経過した今だからこそ感じる興味深い点などを見ていきたいと思います。
タイトル | コンテイジョン(原題 Contagion) |
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公開日 | 2011年11月12日(アメリカ 2011年9月9日) |
監督 | スティーブン・ソダーバーグ |
出演 |
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制作 | アメリカ(2011年) |
映画『コンテイジョン』概要
「トラフィック」「オーシャンズ11」のスティーブン・ソダーバーグ監督が、マリオン・コティヤール、マット・デイモン、ジュード・ロウ、ケイト・ウィンスレットら豪華キャストを迎え、地球規模で新種のウイルスが感染拡大していく恐怖を描いたサスペンス大作。接触感染により数日で命を落とすという強力な新種ウイルスが香港で発生。感染は瞬く間に世界中に拡大していく。見えないウイルスの脅威に人々はパニックに襲われ、その恐怖の中で生き残るための道を探っていく。
映画.com コンティジョン 紹介ページより
映画『コンテイジョン』では、ウイルスによって脅かされる世界の様子をはじめ、感染防止対策からワクチン供給までの流れなども描き、ウイルスと戦い翻弄される人々をサスペンスフルに描いています。
映画『コンテイジョン』と、実社会のコロナ渦の共通点
作中では、政府の対策や、ワクチンが開発されるまでの経緯や期間ひついても描いており、これらが「コロナ禍を予見した映画」と評される理由にもなっています。
そこで、まず映画『コンテイジョン』と現在までのコロナ禍における共通点を思いつく限り挙げてみました。
- 作中はクリスマスシーズン。クリスマス商戦など経済状況を気にするセリフが登場する。
- 「週末は感染者の正確な数字が出ない」という言及
- 緊急の隔離病棟にスタジアムなど広い施設を確保する
- ワクチン開発から治験、接種までの期間がコロナと同じくらい(おおよそ1年)
- 感染経路の追求・調査が綿密
(例:監視カメラなどを確認し、濃厚接触者を洗い出す。感染したミアーズ医師が、ホテルの部屋に入った従業員を把握しようとする) - 消費者による買い占めが起こる
(映画ではレンギョウという薬草が効くという情報が流れ、これの買いしめ、暴動が起きる) - 陰謀論や信頼性の乏しい情報の流布
(フリー記者が「政府のワクチンを接種するな」とブログで発信するなど)
政府の対応という面ではウイルスの拡大を防止する対策として、ソーシャルディスタンスをはじめ、州をまたぐ移動を禁止するなど(道路を封鎖するなど徹底的)、現在のコロナ禍でもほぼ同じ対策をしています。皮肉にも、ソーシャルディスタンスや外出自粛を徹底しているのは(娘を守るためとはいえ)免疫を持つという主人公マット・デイモンくらいでしたが……。
人々や社会の動向という面では、買い占めによるスーパーへの強盗や略奪が多発し、街は世紀末のごとく殺伐となります。特にフリー記者のアラン・クラムウィディ(ジュード・ロウ)が、自身のブログで「ウイルスにはレンギョウが効果的」という情報を流したことで、スーパーにはレンギョウ製品を買い占めるために大勢の人が押し寄せます。
日本の実社会でもマスクやトイレットペーパーの買い占めなど、暴動こそ起きないものの、不確かな情報に踊らされた様子は同じでした。
……余談ですが、筆者はマスクが不足していた時期に、置き配指定のアマゾン荷物の箱を開けられたことがありました。中身はペットのおもちゃだったため事なきを得ましたが、なかなか気味悪い思いをしたものです。
約1年経った今だからこそ、興味深く感じること
映画『コンテイジョン』では、最初の感染者ベス・エムホフ(グウィネス・パルトロー)と濃厚接触した男性がマスクをせずにバスに乗車する場面が描かれます。
感染経路を突き止めるミアーズ医師(ケイト・ウィンスレット)たちが濃厚接触者として男性を突き止めたときには時すでに遅し。意識がもうろうとする中、男はバスを降りてしまいました。
規模は違えど、このエピソードはクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』にて感染が起き、これを隔離……というあの頃の状況を想起しました。
とはいえ、新型コロナウィルスと比べて、作中のウイルスは非常に致死率が高いため、乗客も免疫が無ければ助かりません。 感染拡大防止とはいえ、バスを完全隔離すれば乗客の多くはそのまま死んでしまうでしょう。 (……とはいえ、作品内ではバスに同乗していた利用客について描かれていません)
映画で描かれた『ワクチン争奪戦』
もうひとつ気になる点はワクチンにまつわるエピソード。
実際のコロナ禍でも国家間におけるワクチン確保は重要な要素のひとつです。開発機関・企業がワクチンを開発する一方で、どの国がそのワクチンを手にするのか、その順番はどうなるのか。 そして供給がいつになるかわからない国が、予定していた国とは別の国からワクチンを購入するなど、ワクチンにまつわる大きなビジネスが生まれるような状況になっています。
映画『コンテイジョン』でも後半はワクチン争奪戦を中心に描いており、製薬会社が利益を得るために行動を始め、さらには一般市民における『ワクチン暴動』も勃発。
CDC(疾病予防管理センター)のエリス・チーヴァー医師(ローレンス・フィッシュバーン)の自宅はワクチンがあると思われ襲撃を受けたり、WHOから派遣された疫学者レオノーラ・オランテス医師(マリオン・コティヤール)が、香港のスタッフにワクチン入手のための人質として誘拐されたりといったエピソードが描かれています。
これらはさすがに実社会よりも物騒な展開ですが、コロナの脅威が今以上に恐ろしいものなら、同じ事件や陰謀が起きたかもしれません。(もちろん、私たちが知らないだけで、こういった事が起きていないとは言い切れませんが……)
しかし冷静に考えてみれば、給付金の不正受給や、コロナ自粛により抑圧された人が怒りに任せて罪を犯すケースは幾度となく報道されました。 ワクチン争奪戦のパートは大げさなように見えて、実世界でもパンデミックに関連した犯罪は起きていることを再確認させてくれます。
現在だからこそ感じる作中の“違和感”
コロナ禍における多くの状況を予見しているという反面、実際に類似した状況になった私たちが、今だからこそ感じる作品の違和感もあります。
作中ではワクチン接種者が一目でわかるように、バーコードのようなタグのついたブレスレットを付けています。ワクチン接種者を識別することはもちろん、このタグを読み込ませないと、ショッピングモールといった施設に入ることもできません。
一見便利に見えるこのタグですが、仮にも暴動や略奪の起きている社会で「私はワクチン接種者です」とわかるようにするのは、また別の脅威にさらされる可能性も感じます。タグの作りも簡素なため、接種者からタグだけを奪うような事件も起きそうです。
その点、実社会では『ワクチンパスポート』が発行され、国外へ行く際にはこのパスポートを提示するような対策を取っています。ゆくゆくは電子化もするそうなので、この点は『コンテイジョン』よりも良案だと感じました。
一方で、ウイルスの影響を受けた人々や、業界が苦しい現状を乗り越えるドラマ要素はあまり見られません。
あくまでウイルスの脅威をスピーディかつスリリングに描くことに注力しているためでしょう。 だからこそ、主人公の娘がステイホームを強いられる中で放った『私は春だけじゃなく夏も失うのね』というセリフにも重みを感じられます。
まとめ
映画『コンテイジョン』は確かにコロナ禍の世界を予見していますが、同時にウイルスに立ち向かいながらも、自分たちの生活を守る人々の姿はあまり描かれていません。
作品のテーマゆえではありますが、今、あらためてみても不安に襲われる展開がたくさんあり、実社会が作中のようにならずに済んでよかったと、改めて感じました。
コロナ渦が終息し『人々がパンデミック後の世界で、どのように立ち直っていくのか』という点にフォーカスしたドラマやドキュメンタリーが制作され、私たちを勇気づけてくれる日が来るのを願わずにはいられません。 本作の監督であるスティーヴン・ソダ―バーグが、『コンテイジョン』のアンサー作品などを制作してくれたらな……なんて淡い期待も抱いてしまうのでした。
ストーリー | ★★★★(4) テンポ良く世界がパンデミックに陥ります |
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映像 | ★★★(3) 過度な演出はなく、リアルなタッチ |
音楽 | ★★★★(4) クリフ・マルティネスのスコアが良い |
構成 | ★★★★(4) 今だからこそ、公開時よりも真に迫る内容として観る事ができる |
総合評価 | ★★★★(4) 再評価も納得の完成度 |
(最大星5つ/0.5刻み/10段階評価)