他ではあまり紹介されないけど観てみると面白い、そんな隠れた名作と呼べるオリジナルアニメ作品紹介する本シリーズ記事の第三弾はボンズ20周年&フライングドッグ10周年記念作品『キャロル&チューズデイ』。人類が火星に移住してから50年、AIが音楽を提供するようになった時代にふたりの少女が”旧世紀”のアナログな音楽で人々の心を掴むまでを描いたサクセスストーリーです。
記事の索引
『キャロル&チューズデイ』 それはまるで、奇跡だった。
『キャロル&チューズデイ(キャロチュー)』は2019年4月から2クール24話で放送されたオリジナルアニメ作品です。現在はBlu-ray/DVD全2巻(各12話収録)が発売中で、NETFLIX、Amazon Prime Video(FOD)などで全話配信中です。

FOD配信ページ より
本作は、世界中のミュージシャンがコンポーザーとして参加していることや、Nordやギブソンといった楽器メーカーとタイアップし、作中に実在の楽器を使用するなど、音楽アニメとしての本気度が話題となりました。こういった作品の内側を知ることで何倍も楽しめる『キャロル&チューズデイ』の魅力を紹介します。
少女たちのサクセスストーリー、そして……
それでは最初に、本作『キャロチュー』の導入ストーリーを紹介します。
舞台は人類が移住を開始してから約50年後の火星。人工知能 (AI) が効率的に音楽を生み出す世界のお話です。田舎町の裕福な家庭に育ったお嬢様 チューズデイ(CV:市ノ瀬加那/Vocal:セレイナ・アン)は、ミュージシャンという夢を叶えるため、愛用しているギブソンのアコースティックギターを抱えて火星の首都アルバシティへと家出を決行します。

公式サイト より
たどり着いたアルバシティの橋の上で、AIに頼らずキーボードひとつで弾き語る少女 キャロル(CV:島袋美由利/Vocal:ナイ・ブリックス)と出会ったチューズデイ。彼女もまた、ミュージシャンを目指す日々を送っていました。

公式サイト より
音楽性の一致で意気投合したふたりはガールズデュオ『キャロル&チューズデイ』を結成し、共同生活を始めるのでした。

公式サイト より
彼女たちの魅力にいち早く気付いたのは、自称敏腕マネージャーの中年男性ガスと、音楽関係者とのつながりを持つフリーのAIプログラマー ロディ。彼らは、キャロル&チューズデイを火星の音楽シーンで成功させるべく、サポートを買って出るのでした。
こうして、ふたりの少女は火星の音楽史に残る”奇跡の7分間“を引き起こすことになるのです。
メタ目線で見ると2倍おいしいキャラクター構成
次に、主人公のふたりを中心に主要キャラクターを紹介します。主人公のひとり、キャロルは褐色の肌を持つ17歳の女の子。元地球からの難民で施設育ちというハードな経歴を持っていて、両親とも生き別れています。持ち前の負けん気と快活な性格でひとり生き抜いてきた彼女は、ミュージシャンになることを夢見てアルバイトをしながら橋の上で歌っていました。

公式サイト より
もうひとりの主人公チューズデイは金髪碧眼で17歳。火星の田舎町ハーセルシティの裕福な家庭に生まれましたが、彼女にとってお嬢様生活は窮屈そのもの。ミュージシャンになるべく、作詞やギターの練習をこっそり続けていました。母・ヴァレリーはハーシェル州の知事で、火星の次期大統領選に出馬する予定ですが、娘の家出が選挙に悪影響を及ぼすかもしれないと危惧しています。

公式サイト より
彼女たちのマネージャー ガスは、豪快な性格で恰幅のいい54歳の男性。過去には自身もミュージシャンとして活動していて、その後は鳴かず飛ばずのプロデュース業の日々。そんな彼は、偶然SNSで見かけたキャロル&チューズデイの楽曲に可能性を見出します。その動画を拡散させたのは、フリーAIプログラマーのロディ。音楽業界の片隅にいた彼もまた、(半ばガスに引き込まれるように)彼女たちに協力するようになります。

公式サイト より
この他にも多くの音楽関係者やミュージシャンが登場する本作ですが、面白いのはその配役。キャロル役の声優には島袋美由利、チューズデイ役には市ノ瀬加那という若手を抜擢。そして、ガス役には大ベテラン 大塚明夫、ロディ役には人気声優入野自由を採用。声優界での4人の立ち位置が作中での関係とも類似しているようにも思えます。

公式サイト より
キャロチューのふたりとしのぎを削ることになるライバル アンジェラ役は上坂すみれが担当し、彼女のプロデューサー タオは神谷浩史。人気のミュージシャンたちには宮野真守、坂本真綾、安元洋貴などのベテラン陣、そして、火星でレジェンドと呼ばれる最高峰のミュージシャン役にはレジェンド級の声優 山寺宏一、林原めぐみが配役されています。
ここまで役どころとマッチしているとなると、(筆者を含めた)声優好きにはニヤニヤが止まらない配役と言わざるを得ません! 『キャロチュー』のキャラクター構成は、メタ的に見ると更に面白い一面を持ち合わせているのです。
世界のどこに持っていっても通じる音楽
本作では、キャラクターの声優(CV=キャラクターボイス)とは別の歌い手(SV=シンガーボイス)が楽曲の歌唱を担当しています。この狙いは、世界に通用する音楽(=ネイティブイングリッシュの歌詞)にしたいという制作のこだわりからで、全世界からオーディションを行い、キャロル(SV ナイ・ブリックス)、チューズデイ(SVセレイナ・アン)、アンジェラ(SVアリサ)という3人の歌い手を選出しました。
音楽面へのこだわりはヴォーカルだけではなくコンポーザー陣にも発揮されています。本作の音楽を担当するのは、世界の音楽シーンで活躍する音楽家 Mocky (モッキー)。楽曲提供者は、ビヨンセやマドンナなどに楽曲提供しているEvan “Kidd” Bogart (エヴァン・”キッド”・ボガート)、数々のCM採用で楽曲を聞かない日は無いNulbarich (ナルバリッチ)を始めとして、Benny Sings (ベニー・シングス)、☆Taku Takahashi(m-flo)など、錚々たるメンバーが名を連ねています。
最高の音楽には最高の演奏シーンを、という思いは視聴者も制作側も同じです。作中の演奏、歌唱シーンの殆どは、実際にスタジオでミュージシャンに演奏してもらい、その様子を撮影したマルチアングルの映像を基にアニメーターが作画するという手の込んだ手法が取られています。この手法により、作中のキャラクターが本当に演奏して歌っているような臨場感が生まれます。(さすが我らのボンズ!!)

公式サイト より
作中でキャロチューの二人が愛用する楽器は、世界的楽器メーカーであるNord(ノード)とGibson(ギブソン)のキーボードとギターです。本作は両社と正式にタイアップしていて、作中でもそれぞれあしらわれたロゴを確認することができます。単なるアニメ作品ではなく、本気の音楽作品であるという制作陣の熱い思いが伝わってきますよね!
音楽マニアの監督と各界の名士たちによる”音楽作品”
1998年の名作アニメ『カウボーイビバップ』や2014年の特殊な技法を数多く盛り込んだアニメ作品『スペース☆ダンディ』と同じく、渡辺信一郎(監督)×ボンズ(アニメ制作)×フライングドッグ(音楽レーベル)というタッグで制作された本作。先述の2作品でも、高品質の音楽が評価されていましたが、それは監督の渡辺信一郎氏が無類の音楽マニアであることが深く影響していたようです。

公式サイト より
「音楽が生まれる瞬間を描きたかった」と語る渡辺監督のこだわりとして、「セリフによる音楽の説明を入れない」「音楽を聴いている人のイメージを映像化しない」という部分に気をつけたとのこと。この事によって視聴者に固定観念を与えずに音楽に自由に触れてもらうことに成功していると感じます。

公式サイト より
さらに、映像面に目を向けると、キャラクター原案に人気漫画家・イラストレーターの窪之内英策氏、火星の世界観デザインは、『マクロス』シリーズなどサテライト作品のデザインワークスに定評のあるロマン・トマ氏&ブリュネ・スタニスラス氏が務め、そのビジュアルをまとめるのが老舗アニメスタジオ ボンズ。本気の音楽作品『キャロチュー』は、最強の布陣で創られています。
キャロル&チューズデイ スタッフ
- 原作: BONES、渡辺信一郎
- 総監督: 渡辺信一郎
- 監督: 堀元宣
- キャラクター原案: 窪之内英策
- キャラクターデザイン: 斎藤恒徳
- メインアニメーター: 伊藤嘉之、紺野直幸
- 世界観デザイン: ロマン・トマ、ブリュネ・スタニスラス
- 音楽: Mocky
- 音楽制作: フライングドッグ、フジパシフィックミュージック
- プロデューサー: 西辺誠、尾崎紀子
- アニメーションプロデューサー: 天野直樹
- アニメーション制作: ボンズ
まとめ: 終着点が明示された作品には名作が多い
「それはまるで奇跡だった。そう、火星の歴史に刻まれることになった奇跡の7分間。これはその原動力となったふたりの少女の物語である。」
—これは、各話のアバンタイトルでのガスの語りです。

Carole & Tuesday: A message from “Voices from Mars” より
序盤から終着点が明示されている作品には名作が多いと筆者は考えていますが、そのことは逆に物語に意外性を持たせる足かせにもなってしまいます。本作も最初に視聴した際は「ふたりのデビューで大喝采を浴びるのかな?」程度に今後の展開を予想していたのですが、いい意味で裏切られてしまいました。
彼女たちにとってデビューは単なる通過点に過ぎず、その後のストーリーこそ本作のキモであったと最終話を観たあとに感じました。大きくネタバレしないように解説すると、デビュー後の彼女たちには、政治的、社会的な問題と自由な音楽という現実世界でも切っては切れない関係性に直面することになります。

Carole & Tuesday: A message from “Voices from Mars” より
本作に政治的、社会的なテーマをデフォルメして盛り込みやすくするために必要だったのが未来の火星と地球の関係という架空の世界だったようです。そして、本作はこのナーバスな問題をキャロチューのサクセスストーリーに絡めることによって、リアルな音楽業界を描くことに成功したと感じています。そしてついに訪れる”奇跡の7分間“。
終着点が分かっているのにそこが中々見えてこない。不安な道中と安心の結末を連続して味わうことによって訪れるかけがえのない感動。ふたりの少女の物語、未視聴の方はぜひこの機会に観てみてください!
関連リンク
- TVアニメ「キャロル&チューズデイ」公式サイト
- TVアニメ「キャロル&チューズデイ」(公式) (@carole_tuesday) / Twitter
- CAROLE & TUESDAY(@caroleandtuesday) • Instagram
- キャロル&チューズデイ-carole&tuesday- | Facebook
- キャロル&チューズデイ – YouTube