過去に戻って同じ時間や日をやり直すという、タイムスリップ=時間移動(タイムワープ、タイムリープといった名称も)を扱った作品を目にする機会は多いのではないでしょうか。
本来SF的要素の高いテーマですが、当記事ではそんなタイムスリップを扱った漫画の中でも筆者が自信をもっておすすめする『サスペンス漫画』を厳選4作品紹介します。
おすすすめタイム・ループものサスペンス漫画4作ピックアップ
近年では、ミステリーやサスペンスの中に、タイムスリップによって、事件の解決をはかる作品が多くでていきていますが、その日本でのルーツは筒井康隆がの『時をかける少女』(1967年)などでしょうか。
ミステリーやサスペンスで、タイムスリップやタイムワープは反則では? なんて気もしますが、このテーマをうまく使った読み応えのある作品をピックアップしました。
サマータイムレンダ


東京に住んでいる主人公 網代慎平(あじろ・しんぺい)は、幼馴染の小舟潮(こふね・うしお)が死んだと聞かされて、実家に戻ってきました。
彼の実家は、和歌山県にある離島で、日都ヶ島といいます。慎平は幼いころ、両親を亡くしたため、小舟家に引き取られ、潮とその妹の澪(みお)とは、家族として育ったのです。
潮の葬儀の後、慎平は、親友の菱形窓(ひしがた・そう)から、潮は誰かに殺された可能性があると聞かされます。
さらに、島では島民が行方不明になる事件が発生していました。おかしな事が起きる中、慎平は、澪から、潮が生前にもう一人の自分を見たことがあると聞かされました。慎平は澪と一緒に、もう一人の潮について調べようとすると、なんと、もう一人の澪が現れました。そして、彼女は拳銃を持っていたのです。
彼女は、人間に成り済ましている存在で、『影』と呼ばれている怪物でした。 澪に成り済ましている『影』は、澪と慎平に銃を向けて引き金を引き、二人を殺してしまいます。すると、死んだはずの慎平は、島に帰る前の日に戻っていました。
『影』の存在を知った慎平は、家族や仲間を守るために、戦う決意をするのです。
『サマータイムレンダ』の見どころ
本作は、2017年10月に『ジャンプ+』で連載開始するとたちまち人気を博し、2021年2月に完結。 2022年にはアニメ化されている作品です。
一見すると、王道のサスペンスのように思える物語構成ですが、一方で神隠しやドッペルゲンガーなどのオカルトの要素や、人間に成り済ます謎のモンスター『影』を登場させることによって、クトゥルフ神話的な要素を取り入れたホラーサスペンスとなっています。
得体の知れない力を持っている敵に対して、主人公の慎平は、武道の達人でもなければ、特殊能力もない、ただの一般人であり、できる事と言えば、自分自身を俯瞰して情報を整理するという、彼独自の思考方法のみ。この俯瞰という思考方法で、慎平は影の謎を解き明かそうとするのです。
そして、慎平にはもうひとつ力があります。それが自分が殺されると、タイムスリップして、もう一度同じ時間をやり直すことができるという能力ですが、なぜ慎平にそんな力が宿っているのかという点も、本作の謎のひとつ。
敵に対して、まったくと言っていいほど無力な存在である慎平は、この二つの力を利用して、家族や友達を救おうとするのです。
そんな彼の前に、死んだ潮そっくりの影が登場します。影でありながら、慎平に敵意を抱くことがなく、生前の潮と同じような行動をします。彼女が何者で、いかなる目的で慎平の前に現れたのかも、本作の見どころの一つです。
本作は全13巻として完結し、TVアニメシリーズも2022年春から放映されています。 さらに原作の後日談の読切漫画『サマータイムレンダ 2026 未然事故物件』も公開されています。
テセウスの船


『テセウスの船』紹介ページ
主人公の田村心(たむら しん)は、教員志望の若者。彼の父親である佐野文吾(さの ぶんご)は彼は心が生まれる前に、北海道の音臼村にある、音臼小学校のお泊り会で、ジュースに劇薬を混入し、無差別殺人を犯した罪で逮捕されています。
文吾は無罪を主張しましたが、無罪を覆す証拠はなく、刑に服すことになり、家族は姓名を変え、加害者家族として、肩身の狭い思いをして生きていました。心も夢だった小学校の教員をあきらめてしまっていました。
そんな心に、新しい家族ができつつありました。妻の由紀に、赤ん坊が生まれようとしていたのです。しかし、出産と同時に由紀は帰らぬ人となり、激高した由紀の両親は加害者家族の子供ということを理由に、赤ん坊を自分たちで引き取ると言い出しました。
生まれた子供すら自分の手で育てられないことにショックを受けた心は、父親の事件と向き合うことに決め、真実を確かめるべく音臼村に向かう……。 事件のあった音臼小は解体されており、慰霊碑だけがありました。すると、周囲に濃霧が立ち込め、しばらく何も見えない状態となりました。
やがて、徐々に視界がよくなってくると、そこには解体されたはずの音臼小学校が。 心は事件のあった1989年にタイムスリップしたのです。
『テセウスの船』の見どころ
本作は、タイムスリップして、過去に起こった事件の真相を究明するだけでなく、時間逆行ものSFに出てくる、タイムパラドックスもテーマになっています。
本作の主人公である心がタイムスリップするのは、自分が生まれる前の時代(本人はまだ母親のお腹の中にいる)であり、そこにいる自分は何者で、お腹の中にいる心と同一の人物なのかという矛盾が生まれてきます。
※こうした、タイムスリップを扱ったSF作品にでてくる、時間軸の逆行による矛盾を『タイムパラドックス』といいます。
タイトルになっている『テセウスの船』とは、ギリシャ神話においてクレタ島でミノタウロスという怪物を退治した英雄テセウスの船。 彼の功績を称え船を保存するために、劣化した木材をその都度修復して保存することになった結果、いつしかすべての部品が新しいものとなりました。 元の部品がひとつも残っていない船は、かつてのテセウスの船とおなじものと言えるのか? という問題定義が生まれ、この矛盾を、テセウスのパラドックスと言います。
本作では、心が事件を解決する前に、一時的にもとの時代に戻ってしまいます。すると、心が過去に行ったことで、歴史がわずかに変化している事に気づきます。
変化した歴史に戸惑いながらも、過去の時間で父親と接したことで、心は父親の無罪を信じ、真犯人を探そうとしますが、その一方で、タイムスリップしてやり直した歴史は、本当の歴史なのであろうか? という疑問を読者に投げかけることになります。
加害者家族を扱った重厚なサスペンスとしても秀作であり、加害者の家族がいかなる仕打ちを受けるのかを描いています。
そして、真犯人の正体や本作の結末が意外な形になっていることに驚かされます。 犯人の正体を知った心はどうなるのか? また再びタイムスリップをして、歴史を変えるができるのでしょうか?
本作はドラマ化もされており、結末が原作と違っているので、ファンの方は合わせてチェックしてみるのも良いでしょう。
君が獣になる前に


20xx年12月27日。葬儀屋を営んでいる主人公の神崎一(かんざき はじめ)は、妹のように可愛がっていた幼馴染の女性と再開します。彼女の名は希堂琴音(きどう ことね)。女優ととなっていた琴音は神崎との再会を喜び合います。
束の間の再開に昔を思い出し、心を通わせるふたりですが、別れの時に琴音は『私を止められたのはお兄ぃ……あなただけだったのに』という言葉を残します。そしてその後、二人が別れた駅で毒ガスによる無差別テロが発生。
犯行は神崎と別れた直後、琴音によって行われていたのです。
琴音のことで警察から取り調べを受けていた神崎は、一人の女性から連絡先を渡されます。それは、琴音の仕事仲間である芸能関係者達の集まりで、彼らは琴音を無実だと信じていました。
神崎も、彼らと同行することになり、神崎はそのうちの一人、宮ノ森真由(みやのもり まゆ)と組んで事件の真相を暴こうとしますが、仲間たちはひとり、またひとりと、何者かに殺されてしまい、遂には神崎自身も殺されてしまいます。
すると、神崎は、あの運命の12月27日の日に戻ったのです。
『君が獣になる前に』の見どころ
サマータイムレンダ同様、本作のタイムワープは、主人公の死という形で発生します。
本作の特徴は、綺堂琴音と宮ノ森真由という二人のヒロインで物語が構成されているという点。ヒロインであるのと同時に、事件の中心人物である『琴音』と、パートナーとして主人公と行動を共にするヒロインとして琴音の親友である宮ノ森が登場しています。
物語のポイントは、なぜ琴音が無差別殺人を犯すようになったのか? 彼女の背後にいかなる謎が隠されているのか。 一見すると、天真爛漫な性格をしている琴音ですが、実は、彼女自身にも闇が存在しています。
琴音は、少女時代に、両親を何者かに目玉をくりぬかれて殺されていたのです。そして、同じやり方で、琴音の仕事仲間達も次々に殺されていく……。
これらが果たして何を意味しているのか? 琴音の正体は何なのか? そして、神崎と宮ノ森はいかにして真相にたどり着くか。 読み応えあります。
カイロスの猟犬


『カイロスの猟犬』紹介ページ
主人公の幸春道(さいわい はるみち)は通っている高校の文化祭の前日、幼馴染の小鳥遊双葉(たかなし ふたば)に告白するもののあえなく振られてしまいます。 ところが少し時間をおいた後、双葉の方から改めて『一緒に文化祭を回ろう』という返事をもらいます。
先ほどの落胆もどこかへ、有頂天になって双葉と教室に戻りる春道ですが……。
教室に入った二人が見たのは、銃や刀を大量に持ち込んで、同級生を惨殺する担任教師の岡歩夢(おか あゆむ)の姿。 岡は春道の目の前で双葉をライフルで射貫き、春道にも銃口を向けて、引き金を引いたのです。
一年後、辛うじて生き延びた春道は後遺症で入院生活を余儀なくされ、目の前で双葉を殺されたことから、心に深い傷を負っていました。 そんなある日、病室に細長い箱が置いてあるのに気づき中を開けてみると、そこには1枚のメモと鍵が入っていました。
メモ紙には、鍵の名前は『アイオーン鍵』といい、双葉を助けたければ鍵を回せと記載されています。
半信半疑ながら、鍵でうっかりコップに触ってしまいます。すると、春道はコップの中に飲み込まれてしまったのです。 飲み込まれた春道が目を覚ますと、彼は、惨劇が起きる一年前にタイムスリップしたのです。
惨劇を未然に防ぎ、今度こそ双葉を守ろうとする春道でしたが、岡の正体は、『カイロスの猟犬』と呼ばれる者でした。 カイロスとは、クロノス同様、ギリシャ語で時を表す言葉となっています。 (クロノスが客観時間を意味し、カイロスは主観時間を意味する言葉)
彼らの正体は、カイロス時間、すなわち自分が体験している時間をさまよってしまう、時間漂流者(タイムドリフター)だったのです。
そして、カイロスの猟犬は、本作の黒幕と呼ぶべき人物に操られていたのです。
『カイロスの猟犬』の見どころ
最初に登場する悪役であるの岡が、生徒を惨殺する場面は、どことなく貴志祐介の『悪魔の教典』を彷彿させます。 また、冒頭から一見すると、本作はスプラッターなアクションもののような作品に見えますが、れっきとしたサスペンス。
本作でも敵や味方の正体がわからず、読んでいる私達は終始不安を抱かせるような構成になっています。
敵であるカイロスの猟犬は、岡を含めて7人存在し、彼らは、どこにいて、いかなる存在なのかわからないため、春道は対処の方法がわからず苦戦を強いられます。
そして、黒幕の正体も不明であり、春道と双葉は、いつどこで、カイロスの猟犬に襲われるのかわからないのです。
そして、春道をタイムスリップさせた『アイオーンの鍵』も、万能ではなく、最初に戻った時間より前には戻れず、使いすぎれば効力が弱まり、最悪の場合二度と使うことができなくなってしまいます。
本作は、主人公の春道が、与えられたわずかな力を使って、どうやって事態に対処するのか。そして黒幕の目的と、春道にアイオーンの鍵を渡した者の真意が何なのかが、本作の『鍵』となっているのです。
神崎と宮ノ森はどうやって、真相にたどり着くかが本作の見どころです。
まとめ
SF作品のひとつのしかけとして登場する『タイムスリップ』。 一見、万能の力とも思える設定ではありますが、それでも事件や問題を解決するのには一筋縄ではいかない作品を紹介しました。
誰しもあこがれる時間逆行という能力を活かしつつ、時に翻弄されつつ。 いかにして危機を潜り抜けるのかという点も、物語のひとつの構成要素といえるでしょう。