令和改元の折に読んだ皇室関連の本 『内掌典57年の日々』 『明治天皇』 - uzurea.net

令和改元の折に読んだ皇室関連の本 『内掌典57年の日々』 『明治天皇』

令和へ改元に際して読んだ、皇室関係の本。 2冊レビュー

執筆: 藤井洋子 アイコン 藤井洋子

先日、平成から礼和への改元があり、新しい天皇陛下が即位されました。

そんな折に、改めて読み直して面白かった皇室関係の本を2冊ご紹介したいと思います。 どちらも平成に出版された本ですが、今でも入手可能な書店に並んでいる本の中でも特にオススメできるものだと思います。

『皇室の祭祀と生きて 内掌典57年の日々』 髙谷朝子/河出文庫

皇居の中で祭祀に携わる『内掌典(ナイショウテン)※』を務めた女性のいわば自伝です。

※皇室において宮中の祭祀を担当する部門、職務
皇室の祭祀と生きて: 内掌典57年の日々 (河出文庫)

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同書の著者は戦争中の1943年に19歳で皇居に入り、57年も務めたという方なので、読み応えは充分。 内掌典の日々の様子や祭祀のしきたりなどは、なかなか知る機会がないので、読んでいくと驚きの連続です。

徹底して『清さ』を求める

祭祀に関わるだけに、『清いもの』と『清くないもの』の分け方や、徹底して『清さ』を求める事から生まれた日々の習慣はすさまじいものがあります。

清くないとされるもの(自分の下半身など、私達の日常のあらゆるものがこれに該当する)に触れたら、『清め』なくてはならないそうです。 足袋に触っただけで手を洗い、時には塩を使って清めるそうなので、その不自由さといったら半端ではありません。

そして、この『清さ』にも段階があり、最上級の『大清(おおぎよ)』の衣服ともなると、トイレにもそのまま入る事は出来ないので、その都度着替えなくてはなりません。

内掌典の生活 今と昔

神様にはお休みがないので、内掌典も当然のように休みがありませんでした。土曜も日曜も正月休みもなく、本書の筆者は10年ほど帰省をしなかったそうです。

ただしこの点は戦後になって、労働基準法に違反するという事から現在は定期的に休みを取る様になっています。 長期にわたる勤務は『その人の一生を変える事になる』という理由から、現在は4年交代制になっているそうです。

ですので、本書の筆者は御所の昔から受け継がれてきたであろう内掌典のあり方を、そのままに体験した最後の世代と言えるのではないか、と思います。 そういった意味でも、貴重な記録です。

祭祀、儀式を支える人々

日常生活を考えると煩雑さに目眩がしますが、古代の巫女さんはこんな風だったのかも、とも思います。厳格な規律を守り、身を清め、祭祀を続ける毎日。

とはいえ、語られるトーンは飽くまでも穏やかで、季節の移ろいを楽しみ、日々の勤めに励む姿が描かれています。 ……こういう人じゃないと務まらないんだろうなぁ、と、思わずしみじみ。

天皇陛下の退位・即位に際しては、さまざまな式典や祭祀が執り行われましたが、テレビなどで紹介される儀式の裏に、こういった人々が従事している事を知ると、また色々と考えが広がります。

本書は、口述筆記さながらに『~でございます』といった語り調で綴られています。
これはこれで『老齢の品のいい婦人が丁寧に話してくれる』感があって面白いのですが、丁寧語+御所言葉のラッシュとあいまって、読み難いと感じる方もいるかもしれません。

『明治天皇』全4巻 ドナルド・キーン/新潮文庫

日本文学研究で知られるドナルド・キーンが手掛けた初の伝記です。

明治天皇(一) (新潮文庫)

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『ドナルド・キーン自伝』(中公文庫)によると、新しい本のための連載を依頼され、誰かの伝記を書こうと考えた時に、『明治天皇が日本の天皇の中で一番偉大な君主として称賛されているにもかかわらず、英語での彼(明治天皇)の伝記がない』、『日本語で書かれた伝記も、ほとんどないに等しい』事に思い至り、執筆にとりかかったそうです。

明治天皇の公式記録である『明治天皇紀』全13巻を道しるべに書かれたこの伝記は、明治天皇が誕生する少し前から死後の奉葬の式までを丹念に辿ったもので、6万部を超えるヒットとなりました。

誕生に際して行われた祭祀もあれば、明治維新という大きな時代のうねりの中で明治天皇がどんな行動をとったのかも書かれています。

私は歴史にも皇室にも詳しくないので、よく知られている明治天皇の『御真影』は写真ではなく絵画を撮影したものだった事も、この本で知りました。 そんな私の様な認識でも興味深く読める本です。

また、明治天皇は故郷である京都を出て、新しく首都となった東京に暮らした初めての天皇であり、また、天皇の果たすべき役割が大きく変わる時代を生きたのです。

明治天皇は近代国家の元首とならなくてはならず、それまでの天皇が重要な務めと見做してきた儀式を自ら執り行わない事がある一方、戦時には御在所で暖炉を使うよう勧められても断りました。 『戦地に斯くの如きものや有る(※)』という反論には、東日本大震災の後、計画停電が行われていた時に、皇居では自主的に電気を使わない時間を設けていた、という話を思い出させます。

※念のために書いておくと、『戦地にこのようなもの(=暖炉)があるか(ないだろう)』という程度の意味です。

平成という時代が象徴天皇のあり方を確立した時代だったとすれば、明治は現代に繋がる天皇像の原型を造った時代と言えるかもしれません。 今、改めてそういう目で読むと、色々考えさせられました。

それにしても、よく調べて書かれている事に心から感心します。

道しるべにしたという『明治天皇紀』に加え、同時代人の日記や、歴史書、研究結果の類を引用しつつ、しっかりと読ませるのは流石です。 ……参考文献については第4巻にて記載されているのですが、この参考文献一覧だけで22ページあります。

時にはユーモア(?)も交え綴られる

とはいえ、単なる事実の羅列ではなく、ところどころにクスリと笑えるユーモラスな部分もあります。

例えば、明治天皇(当時は皇子。幼名祐宮)が数えで8歳となった新年の儀式の部分では、こう書かれています。

『祐宮は、初めて樽酒を宮中より賜った。八歳の子供が樽酒をたしなむことになっているのは信じがたいが(後略)』

私は内心、「まぁ、たしなむ事にはなっていないと思うけど……」と思いつつも、ちょっと笑ってしまいました。 これは結納の際にスルメや扇子を贈るようなもので、貰った相手が実際にスルメを食べたり扇子を使ったりするかどうか気にしないものです。

ドナルド・キーンのように日本文化に精通した人が、そんな事を分からないはずはないので、これは彼流のユーモアだと思い、遠慮なく笑いました。

こういった本も電子書籍化してほしい

『明治天皇』全4巻について残念な点は、現時点(2019年6月)でも、電子書籍版が存在しません。

本文には天皇に関する用語が頻出しますが、天皇に関する事柄でしか使わない言葉が沢山あって、これがまた難しいのです。

例えば、文中に何度も出てくる『宸翰(しんかん)』という言葉があります。
『天皇は誰々に宸翰を賜った、その内容は~云々』という文章なので、前後を見るに、手紙か文書の類であろうと見当が付きますが、正確な意味は分かりません。そこで辞書を引くと『しん‐かん〔宸翰〕天子の自筆の文書。宸筆。親翰。』と出ており、これで初めて正確な意味が分かるのです。

更に調べると、この『宸翰』の『宸』は、辞書によると『天子の住まい。また、天子に関する物事に冠する語。』だそうです。

これが分かると、次に『宸襟(しんきん)』という言葉が出た時に、『“宸”は天皇、“襟”は、“襟を開く(=心を開く)”というから、気持ちとか心だろう。という事は、“宸襟”なら“天皇の気持ち”という意味かな』と見当が付きます。勿論、この場合も念のため辞書で確認するのですが。

自分の教養のなさを棚に上げて言いますが、これが結構大変です。 もし電子書籍であれば、本文中に出てきた『何だか分からない言葉』をすぐに辞書検索できるのに……と何度思ったか。

この手間を掛けて読む価値がある本かと問われれば、私の答えはゆるぎなくイエスです。 しかしながら、やはり一日も早い電子書籍版の発行を願ってやみません。

令和へ改元に際して読んだ、皇室関係の本。 2冊レビュー

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