新型コロナウイルスの感染拡大と、それに伴う生活環境の変化は、その規模の差こそあれ世界中で続いています。 そして筆者の住む2021年5月現在のドイツ国内はロックダウン施策が継続中であり、国民の行動・活動には一定の制限が課されています。
そこで当記事では、12年ほどドイツに住み続けている筆者が、COVID-19の影響によって社会がどのように変わっていったのかをリポートしてみたいと思います。
当記事に掲載している諸情報は十分に精査・確認をおこない掲載するようつともえておりますが、その内容は執筆者が見たひとつの側面であるという点をご理解のうえご一読ください。
Index
ドイツの国内の状況 規制・ロックダウンはこれまで2回
2020年初頭の状況
2021年5月までに、ドイツにおける新型コロナウイルスの感染拡大期は大きく3回ありました。
いわゆる第一波は2020年3月下旬から5月上旬にかけて。ドイツ国内では2020年1月27日に初の感染者が確認されましたが、日本ではちょうどダイヤモンド・プリンセス号での感染が話題になっていた頃です。
この頃はまだ、中国と行き来のある人や、中国企業と関係している人に感染の傾向が見られるといった程度の情報がではじめた程度で、あまりパニックにはなっていませんでした。
しかし、一部地方自治体での局所的感染爆発とスキーリゾートでの感染拡大が発覚すると、ドイツ国内全土に『恐ろしい感染症』であるという認識が一般化し、パンデミックへの危機感も高まりました。
そして、2020年2月28日にドイツ政府の感染症研究機関『ロベルトコッホ国立感染症研究所(略称:RKI)』が、初めてパンデミックに言及します。
ドイツのCOVID-19に関するロベルトコッホ研究所の記者会見(2020/02/28 ライブ配信 アーカイブ)
実際にその後、3月にはドイツ国内のすべての州で新規感染者が確認される事になります。
第一次ロックダウン 2020年3月~6月まで
RKIのパンデミック警告以降、ドイツ連邦政府は対策会合を重ねました。実質的に新型コロナウイルス関連政策を主導立案しているのは、メルケル首相を筆頭に7名の閣僚で構成されるコロナ対策会議です。
立案された政策は閣議でも検討され、閣僚と全州知事が参加する『コロナサミット』で決定されます。これまでのロックダウンや規制事項は、全てコロナサミット後の記者会見で発表されました。
コロナサミットは2月から3月にかけて、マスクの着用義務、感染が発覚した場合の14日間の隔離措置(Quarantene)などを矢継ぎ早に制定していきました。そして3月25日、初めて「ロックダウン」について決定しました。この時点で初めて……
- 複数の人間での会合・集会の抑制
- レストランの閉鎖(テイクアウトは可)
- スーパー、ドラッグストア、薬局など必要最小限の業種以外の店舗の閉鎖
- イベントの中止
- AHAルール(AHA-Regeln)の制定
- Abstand halten=最低1.5m、人との距離を保つこと
- Hygienemaßnahmen=衛生規則の遵守
- Alltagsmasken tragen=毎日のマスクを着用
などがドイツの全土に行われました。

Abstand=距離を保つこと、
Hygiene=衛生、
Alltag mit Maske=マスクの日常使用

Lüften=換気、
App benutzen=アプリの使用、
を追加した AHA+A+L なども提唱される。
画僧:Wikipedia(ドイツ)AHA-Formel より
民主主義下において、政府が緊急事態に対応する際、既存法の効力を上回る力のあるものを強制する際、人権に制限がかかる場合には『非常事態宣言』やそれに類する宣言もしくは特別法が必須となるとされています。 ドイツ政府は感染症対策法制を全国民に適用するという形をとり、ロックダウンを実行に移しました。
なお、ドイツは連邦制を採っています。 連邦政府が決定できるのはあくまでベースの部分のみで、実際の施行にあたっては、各州に最終決定の権限が与えられていました。
実際、店舗営業の制限はまちまちでしたし、いくつかの州ではこのロックダウンに合わせ学校や幼稚園の閉鎖を決めたところもあります。(最終的には全土で閉鎖となりましたが)
当初、このロックダウンは2週間の予定で施行されましたが、第一波の感染拡大はなかなか収まらず、最終的に6月5日に終了するまで(約6週間)続きしました。ただし、AHAルールは継続し、基礎自治体で10万人あたり50人の新規感染者が報告されたら局地的ロックダウンを再発動することなどが申し合わされます。
第二次ロックダウン 2020年10月~現在まで
ドイツにおける第二波の兆候は2020年10月に入ってから見られるようになりました。 10月28日、連邦政府と州知事はコロナサミットを開催し、『クリスマスを無事に祝うこと』を目指し、再度のロックダウン導入を決定します。 これは春に行われたロックダウンよりも緩いものだったので『軽度ロックダウン(Lockdown light)』、『ロックダウン・プチ(Teil-Lockdown)』などと呼称されます。
しかし、やはり1ヶ月で収束できるものではなく、気温が下がるにつれウィルスの威力はさらに猛威をふるいます。イギリス発の変異株が話題になってきたのもこの頃でした。EU~英国間だけでなく、EU域内でも移動に制限が出てきました。
結局2回目のロックダウンは12月に入り、前回と同等……部分的にはそれ以上に強化され、クリスマス当日のホームパーティーを一時的に解禁したのみで、半年以上経った現在(2021年5月)も続いています。
2021年4月に入ると、若年層でも感染が広がっているとして、再度の学校閉鎖、新規感染者が10万人あたり100人発生している地域では、国が強制的に自治体に対し経済活動に規制を入れることができる取り決め『非常ブレーキ(Notbremse)政策』の導入も決まり施行されました。
ワクチン接種は2020年12月26日から始まっています。しかし、接種率は全成人の約37%と、まだまだワクチンによる感染拡大抑制は期待できません。
周辺国の中には、大幅な規制解除に向けた動きもありますが、ドイツにおいては経済への規制は依然続くものと考えられています。
実生活での影響
感染拡大の初期
感染拡大初期(2020年3月~)は、中国や日本など東アジアを中心に感染が発生している事が報じられており、前述のダイヤモンド・プリンセス号についてもセンセーショナルに報じられていました。
ドイツの高齢者にとってクルーズ旅行はとても人気。そこが感染症に対して脆弱だったということにショックを受けた方も多かったのだと思います。
アジア人に対する差別が目立ったのもこの時期でした。暴言や暴力行為もニュースで報じられていたのですが、幸いな事に筆者は1回若者にからかわれた(すれ違う時に笑いながらせき込む真似をされる)程度で、大きな被害はありませんでした。
パンデミックの脅威も報じられていましたが、まだまだ対岸の火事で、イベントも実施されていましたし、複数人でのパーティも一般的。 日常的にマスクをする習慣のないドイツでは、この時期にマスクをしている人は、日本や中国の出身者がほとんどで、筆者がマスクをつけて散歩しているとやや視線を感じるような状況でした。
第一次ロックダウン以降
日本ではまずトイレットペーパーがなくなったようですが、ドイツではじゃがいもがまっ先に無くなり、その後小麦粉、パスタとスーパーの棚から消える商品が増えていきました。
消毒液、ハンドソープ、トイレットペーパー、キッチンペーパーなども同様です。ドイツ語でパニック買いを、なんでも溜め込むハムスターにみたて『ハムスター消費者(Hamsterkäufer)』と言うのですが、このワードがニュースやWebメディアなど至るところで見受けられました。
在庫の状況が戻るのには……じゃがいもやトイレットペーパーはさほど時間がかかりませんでしたが……小麦粉やパスタはしばらくの間『1家庭3袋まで』など制限がかかっていました。
パン屋さんは常に営業していたのですが、ドイツでは小麦粉から家庭でパンを焼くのがちょっとしたブームになったようで、小麦粉のみならず全粒粉やパンのためのミックス粉、ケーキミックスなどあらゆる粉類が不足しました。
販売店舗内への入場制限が始まったのもこの頃です。
ロックダウン中も外出制限までは無く、散歩することはできました。 とはいえ、公園の遊具が使えなくなり、子育てをする家庭としては子どものエネルギーを発散させるのに苦労しました。
また、店舗内・車両内でのマスク着用義務が導入されましたが、入店・乗車時にマスクをつけて退店・降車時に外す……という人がほとんどで、外でもマスクを着けている人は少数。 日本の報道ではマスクのつけはずし方法や、マスクケースについての言及があったのを知っていたので、意識が大きく違うなと、個人的には感じていました。
また、ロックダウン施行の後に、一番変化を実感したのは交通量です。
通りからは車が消え、とても静かになりました。 空の便も同様で筆者の自宅近くには車で30分ほどのところに空港があり、普段は頻繁に飛行機が離着陸していたのですが、ロックダウンが始まる頃から便数が減り、空を見上げても飛行機雲を見つけることは難しくなりました。
2020年の4月以降、スーパーや小売店などで感染対策のため大型のラップでレジを囲うところ、大型のポリカーボネートプレートをカウンターに設置する小売店が急増しました。
またマスクの入手が難しかった当初は、通りの掲示板や壁などに怪しげな『マスク販売のチラシ』も貼られていました。
自然と家の中で過ごすことが多くなり、友人と会うこともほぼ無くなりました。 そんな中、筆者がZoom飲みに初めて挑戦したのは2020年5月のこと。 海外在住者としては日本の懐かしい友人達の顔を気軽に見られるのが嬉しく、その後もコンスタントに参加しています。 これは数少ない良い変化だったと言えるかもしれません。
大きく影響を受けた業界と、新しい施策
ドイツでも他の国と同様に、影響を強く受けたのは飲食業界です。
2020年3月の第一次ロックダウン開始以降、店内での飲食は一貫して認められていません。ロックダウンが解除された夏季はオープンテラスでの飲食のみ認められましたが、2020年10月の第二次ロックダウン以降は再び禁止となりました。
ファストフード系のお店は、比較的スムーズにテイクアウト形態やその場での食品提供に対応できましたが、コース料理を振る舞うような伝統あるレストランは転換がなかなか難しかったようです。
実際、気に入っていた雰囲気のいいお店が、次々と閉店してしまいました。
小売店も、店内にお客を入れることができないため売上不振に陥りました。もともとオンライン=ECサイトを持っていたお店は、そちらでの販売によりチカラをかけています。 実店舗は閉店し、ECの仮倉庫として活用するところも出てきました。
旅行関連も客足が遠のいてしまった業界の1つです。 2020年以降、旅行に関するダイレクトメールや広告の量は格段に増えたのを感じますが、ロックダウン以前のような勢いが戻るのはまだまだ先でしょう。
具体的な生き残り策……テイクアウト&デリバリーや、Click and Meet
そんな経済停滞中のドイツではありますが、それでも各業界とも試行錯誤をして生き残りをかけています。
外食産業に関しては、ファストフード化が顕著。豪勢なメニューよりも単品で素早く提供できることに重きをおいたメニューが、テイクアウト・デリバリーともに目立ってきました。
小売店に関しては、店内への入店制限はもちろんですが、ECサイトがなくてもSNSを活用した予約注文サービス(Click and Collect)と事前に時間指定して入店する予約入店(Click and Meet)が一般的になりつつあります。 入店も販売もできなかったときに比べると、みないろいろ考えて前に進みつつあり、ルールも柔軟なものになってきました。
Click and Meetの例
Click and MeetはQRコードをかざして事前予約のチェックをし、人数と時間指定で入店するようなシステム。
ただし、10万人あたりの新規感染者数が直近7日間の平均で100人を超えた自治体にある店舗ではClick and Meetも実施できず、Click and Collectのみ可能となる。 さらに、直近7日間の平均が150を超えるとClick and Collectも不可となる。 50以下になると、Click and Meetも必要なく、床面積あたりの人数制限と消毒やマスク着用などの感染対策を講じれば開店できるようになる。 (いずれもスーパーや、必需品を扱うお店以外の場合)
事前予約、(混雑していない場合は氏名住所など書きその場での予約も可)で入店可能といった事を解説している
2021年5月 これから
ドイツでも変異株の広がりから、今までは重症化の少なかった若年層でも救急治療室へ搬送される例が多く報告されるようになってきました。
抗体検査やPCR検査の簡易チェック施設は街中至るところにあり、スーパーでも簡易チェックキットが購入可能です。
反面、24~48時間以内の陰性証明の提示を入店の際に求めるという動きも出てきました。 自治体が奨励している例も見受けられます。こうした対処が広まっていくかどうかは注視していきたいと思います。
ドイツにおけるリモートワークの実態
オフィスワーカーは、もともと『権利』としてあったリモートワークが『原則』リモートワークへと様変わりしました。第二次ロックダウン政策下では、ホワイトカラーに関して、もともとの従業員数のうち50%がオフィス勤務の上限とされました。また、集団で勤務する者に関しては週に2回の感染チェックが求められます。
ある統計によると、ホワイトカラーにおいてリモートワークを基本とする勤務者は、新型コロナ以前は4%だったものがコロナ禍以後において最大で27%まで延びました(※1)。 また、自宅勤務とオフィス勤務を使い分けているなど、77%のホワイトカラー勤務者は、現在何らかの形でリモートワークを導入している(※2)と発表されています。
- ※1.2020年と2021年のコロナパンデミックの前と最中にドイツで在宅勤務している従業員の割合
(Anteil der im Homeoffice arbeitenden Beschäftigten in Deutschland vor und während der Corona-Pandemie 2020 und 2021) - ※2.ホームオフィスは恒久的な解決策に(Homeoffice wird zur Dauerlösung)
とはいえ、ドイツにおいては新型コロナの影響前から産休明けや長期入院明け、不測の事態への対応などでリモートワークを労働規約に含めている企業も多くありました。 自身が使った経験がなくても、同僚が実施しているのを見ていたり……と、自宅でのワークスタイルは突如降って湧いたものではなかったという土壌もあり、結果としてリモートワークの導入は比較的容易に受け入れられていたと感じました。
しかし、ロックダウン下においては学校も閉鎖されます。 子供達は外に遊びに行くにも遊び場がありません。 自宅内に家族全員が一緒に生活するというのは、ドイツ人にとってもなかなかない経験だったようで、それによるストレスや虐待、DVといった問題は第一次ロックダウンの際に露呈しました。
また、小さい子供のいるところでは、自宅での業務もままならないことも多かったのでしょう。学校と保育園の再開は早い段階から望まれていました。こうしたことから、ロックダウン解除に先駆けて学校・保育園の再開が行われる例もありました。
一方で大学は一部開放されているエリアはありますが、講義は行われておらず、大部分が閉鎖されたままです。習い事やスポーツクラブも活動中断を余儀なくされています。
今後の生活
筆者の生活は、これまでからいっそう家から動かないものへとなりました。
買い物は週に1度だけ。玄関を出る前から帰宅までマスクはつけっぱなし。 購入した商品はすべてアルコール消毒し、外出時に身につけたものはすべて洗濯機に入れ、シャワーに直行します。
現在筆者の住む街でのワクチン接種率は人口の40%を超えていますが、ドイツ国内で全成人がワクチンを摂取し終わるのはまだ時間がかかりそうです。 また、かかりつけの小児科の話では、子ども向けのワクチンは来年(2022年)以降になる見通しとのこと。
となると、直近での集団免疫の確保は難しいでしょう。また変異株が進化し、ワクチンでも対処不可能となった場合には、ワクチンを打ったからといってまだ安心は出来なさそうに感じています。
まとめ
ドイツにおいても、いつ経済を元通りに動かしていくかが議論されています。これに関してはワクチンの効果がどのように表れてくるのか注視する必要があるのだと思います。
ロックダウンにおける政策は、コロナサミット主導で決定されるため国会での議論は後回しになりがちです。予算計上と検証は国会の役割なのですが、この1年を振り返っても、強権発動に見えるシーンはいくつかありました。 結果としてロックダウン自体に反発する動きも見られます。
また、本記事の趣旨とは若干それますが、日本でのオリンピック開催については、主要なメディアで関連トピックを見かける事はごくまれです。 スポーツ団体は予選や大会を行い出場選手も決まっていますが、オリンピックに関連するニュースは、開催予定の動向、日本世論の反応など、事実をごく中立的な立場でリポートするといったものが多いようです。
筆者の個人的な体感ですが、そもそも平時でも既にワールドカップの人気の方が高く、オリンピック自体に注目している人たちは(ワールドカップと比べて)少ないような気がします。 ……ちなみにハンブルクも2024年のオリンピック開催地に立候補しかかりましたが、住民投票で反対票が勝り招致を断念しています。
以上、日本と同様な面、大きく異なる点などあると思いますが、ドイツ在住の筆者からのリポートでした。