2022年の8月にAmazonオリジナルとしてプライム・ビデオで配信開始された映画『サマリタン(原題:Samaritan)』は、誰もが知るシルベスター・スタローンが主演を務めるスーパーヒーロー映画。
昨今のAmazon STUDIOプロデュース作品の充実度には目を見張るものがありますが、本作もなかなかどうして。 渋みと深みを感じる、それでいて決して地味じゃない。視聴後もしばらくその余韻に浸れる……良い映画でした。
物語のキーとなるネタバレを含むレビューですので、未視聴の方で気になる方は、ぜひ本記事を読む前に視聴される事をおすすめいたいます。 見ようか悩んでいる方で、ネタバレでもいいという方は、以下を読み進めてください。
記事の索引
Amazonオリジナル映画『サマリタン(Samaritan)』レビュー
Amazonプライム・ビデオでプライム会員なら無料で見放題となる作品『サマリタン』は、アメリカイリノイ州マディソン郡にあるグラニット・シティを舞台とした、スーパーヒーロー作品です。
本作では、作中での25年前に存在した双子である、ヒーロー『サマリタン』とヴィラン『ネメシス』の物語を起源としています。 正義と悪、それぞれの立ち位置から対立した2人は、発電所での決戦で共に死亡したと思われており、以後その存在は確認されていませんでした。
そんな現代、主人公である少年サムが近所に住む、ゴミを集めて暮らしているらしき老人ジョー・スミス(シルベスター・スタローン)の異常な能力に気づき、彼こそが過去にこの町で活躍したヒーローであり、決戦を生き残った『サマリタン』なのではないか……と疑いはじめます。

※セリフは当記事担当者の適当な意訳
画像 サマリタン公式Webサイトより
……もちろん彼は超人だった
その老人は、ギャング達を異常な力で退け、その報復に意図的なひき逃げに遭っても自力で回復する……まぎれもない超人でした。
まあ、スタローンですからね。私達視聴者には彼本人が超人であることは周知の事実ですが。
とはいえ、本作中では一見(少し……いや、かなりガタイが良いけど)小汚い労働者の老人。 少年サムの問いかけにも、当のジョー・スミスは否定し続けます。
そんな中、過去にサマリタンと対立したヴィラン『ネメシス』の信奉者である、悪党サイラスがネメシスの武器であるハンマーを入手し、街を混乱に陥れようとします。 街を守らないのか? という少年の問いかけには応えず、英雄サマリタンである事も曖昧に否定し続けるジョー・スミスですが……。
物語の展開は……(ネタバレ注意)

ジョー・スミス(右・超人・スタローン)
画像 サマリタン公式Webサイトより
サイラスの弁によると、一般に『悪人』とされていたネメシスも、資本家や市民を顧みない支配階級に抗う存在であり、貧しい者達にとって希望と救いであったようです。
そして、なんやかんやでサイラスとも対峙する事になるジョー・スミスですが、その中で25年前のネメシスとサマリタンの戦いの詳細と顛末が明らかになります。
実は、ジョー・スミスこそが『ネメシス』であり、サイラスの持つハンマーも彼の作り出した武器であったのです。
しっかり見ると、確かにヒントはあった
本作の一番のトリックである、ジョー・スミス(スタローン)がサマリタンではなくネメシスであったという点は、じっくりと見ていれば予感できる人が多いかもしれません。
少年サムの『サマリタンでしょ!?』という問いに対して、複雑な表情を見せるジョー・スミスの演技も言われてみれば納得できるものですし、ハンマーが怪しい光を放つ時にジョー・スミスが何かを感じたり、逆人ジョー・スミスが力を解放した際にハンマーが共鳴するような描写も存在しました。
また、ジョー・スミス(Joe Smith)という名前自体もSmith(=鍛冶屋)の男という意味を持っていますし、そういえばネメシスが鍛冶でハンマーをで造っているシーンも描かれていました。

画像 Samaritan – Official Trailer | Prime Video より
※なお、作中では暗くてよくわからないが、このシーンでは実際に
スタローンが熱いハンマーを叩いて
撮影したようだ(公式Instagram投稿より)
なるほどよく見ればそういう事か、という伏線や描写も程よく存在しています。
派手さは無い、地味ながら深みのあるストーリー
超人といっても、ジョー・スミスの力は地味。 手から爪が出たりはしないし、空も飛べない、目からビームも出ないし、天候や磁力といった人の手に余るパワーを操る事もできません。
ちょっと力が強くて、頑丈、傷もすごい早さで治る、でもその程度。 マーベルヒーローでいえば、ハルクの地味バージョンといった所でしょうか。

スタローン本人も普通にこれくらい出来るのでは?という静止画ではある
画像 サマリタン公式Webサイトより
そして、敵であるサイラスはカリスマ性のある悪人ではあるが、所詮はただの人間。ギャングのボスといった程度です。 結果としてその戦いは(ネメシスのハンマーを持っているとはいえ)サイラスに勝ち目はほとんどありません。
マーベルヒーローたちの競演するアベンジャーズのようなド派手な戦いは終始皆無。 スタローン作品で比べるなら、ランボーシリーズやエクスペンダブルズの方がよっぽど爆発してるし、人が死んでいます。
さらに、25年前に戦ったというサマリタンとネメシスのビジュアルも超地味。 工業用かな?と思うほど地味な鉄仮面に、黒っぽいアーマー。 対するネメシスも、サマリタンより若干ボロいボディースーツとマスクで、ペイントも手書き風味なものの、ほぼ同じような風貌。

画像 Samaritan – Official Trailer | Prime Video より

太もものプロテクターはちょっとカッコイイが
画像 Samaritan Instagram より
初見でどちらがサマリタンなのか、ネメシスなのか、見分けもつきにくいでしょう。
見分けのつかなさすらも、意図的なのかもしれない
そしてそれすら、サマリタンとネメシスを勘違いさせる為の『しかけのひとつ』でもあったように思えます。
そして、悪人サイラスや少年サムがジョー・スミスをサマリタンと勘違いしていたのと同様に、この町の人々に語り継がれる『サマリタンは正義』『ネメシスは悪人』という評価すらも、なにやら含みがあるように感じました。

画像 Samaritan Instagram より
街やメディアにとって分かりやすい正義を行使するサマリタン。対して子どもの頃のサイラスを魅了したように、貧しい人達の希望であったネメシス。 ふたりが対決し共倒れしてしまう……。 結果として耳障りが良くて都合の良いサマリタンのヒーロー譚だけが25年間語り継がれてきた。 でも、実はそれぞれの立ち位置は違えど、お互い強い意思をもって戦っていた……そんなバックボーンがあるように思えてならないのでした。
本作の最後のシーンで、サムに対してジョー・スミスが語る
『悪事をするのが悪党だけなら倒すのは簡単だろう。だが現実には……誰の心にも善と悪の両方があるんだ』
という言葉からも、そんな深読みをしてしまうのでした。
総合評価
ストーリー | ★★★★(4) 軽い気持ちで見てると、初見では分かりずらい部分もある。 深読みすると、色々と面白い。 |
---|---|
演出 | ★★★(3) 派手な戦闘や、目まぐるしい戦いを期待すると不満かも。悪いわけではないが。 |
キャラクター | ★★★(3) 悪役も、周囲の人々も結構地味。 サマリタンも、ネメシスも、ジョー・スミス(スタローン)も地味。 とはいえそこが良く、バランスがいい作品になっているのだが。 |
スタローン値 | ★★★★★(5) 歳を重ねた肉体派俳優の完成形。哀愁を伴った風貌と未だ衰えない力強さを感じる。 スタローンよ永遠なれ! |
総合評価 | ★★★★(4) いや、地味だけど、良い。 次回作も観たい。 とっととつくってくれさい。お願いします。 |
(最大星5つ/0.5刻み/9段階評価)
関連リンク
あとがき(余談)
本作のレビューとは関係ありませんが、Amazonオリジナル作品のスーパーヒーロー作品といえば、『The Boys(ザ・ボーイズ)』も連想せずにはいられません。
スーパーヒーローの王道がマーベルシリーズであり、その対抗的な位置づけにDC作品があるのだとしたら、Amazonの掲げる作品達は奇策、大穴、新解釈……といったところでしょうか。
The Boysも、既存のスーパーヒーロー作品に対するアンチテーゼ的視点を描き、それに成功した作品でした。 今年(2022年)公開されたシーズン3も大成功。 個人的には次のシリーズも待ち遠しくて仕方がありません。
そんなThe Boysとは方向性は違えど、サマリタンも新しいヒーロー作品のアプローチを、しっかりとした考察を元に入念に企画・検討された作品であり、結果としてうまくいっていると思えます。 できれば、サマリタンの次作が作られる事を期待したいところですが、スタローンの現役期間を考えると、Amazonにはとっとと取り掛かってほしいところ。
そしていつの日か、Amazonプロデュースのヒーローがクロスオーバーする……The Boysの面々とジョー・スミスやついでにティック(The Tick)も……そんな作品の制作もお願いしたい、とも思うのでした。
どう考えてもコメディにしかならなそうだけど。