The Clash(クラッシュ)やDead Kennedys(デッド・ケネディーズ)、Green Day(グリーン・デイ)のカバーが有名なロックンロールの名曲『I fought the law ( アイ・フォート・ザ・ロー)』。
オリジナルはアメリカのバンドThe Crickets(ザ・クリケッツ)が1960年に発表した楽曲で、作曲者は後にクリケッツメンバーともなるソニーカーティス(Sonny Curtis)。
その後、ボビー・フラー・フォー(Bobby Fuller Four)が1965年にカバーし、同曲は一躍有名になりました。 ちなみにボビーは22歳で夭逝している伝説のロッカーです。
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I fought the law( アイ・フォート・ザ・ロー)
今回は クリケッツやボビーの話は置いておいて、I fought the lawをカバーしたクラッシュと、カバーしつつもサビの歌詞を変えているデッド・ケネディーズ版、それぞれの比較と、筆者なりの思いを書こうと思います。(ちなみにグリーン・デイのカバーはクラッシュ版のアレンジを踏襲しているようです)。
クラッシュ版 『I fought the law』
1977年に発売した、「くだらないルールなど破れ」「オカミになんか頼るな」「偉そうな奴にコントロールされるな」といったメッセージソングが多いクラッシュの1stアルバム『The Clash』。
続く、2ndアルバム『Give ‘Em Enough Rope』のレコーディングでサンフランシスコを訪れた際、ジュークボックスから流れるボビー版『I fought the law』を聴いたクラッシュのメンバーは、この曲に衝撃をうけます。そして、イギリスへの帰国後は同曲のカバーをライブで演奏し、1979年に発売した2nd EP『コスト・オブ・リヴィング(The Cost of Living)』にも収録するに至ります。
※なお、1979年にアメリカで発売されたクラッシュの1stアルバムにはこの『I fought the law』が収録されています。
その後、 クラッシュの代表曲と言っても過言ではないほどに有名になった『I fought the law』は、カバーではありながらしっくりと彼らのの世界感と融合していったように思えます。
我々の人生は、親、学校、会社、社会、法律、常識など自分より大きいものに抑圧されています。それらすべては良し悪しあり、悪い物=間違ったものとは戦わなければならない時もあるのですが、多くの場合、勝つのは自分より大きいもの……特に『法律』には決して勝てない。
直木賞作家である色川武大氏(別名・阿佐田哲也)は、 文学を 「自分より大きいものと戦って、負ける過程を描くもの」と、定義づけています。
そして、クラッシュが歌う
「I fought the law and the law won (俺は法と戦ったけど、法律が勝った)」
というフレーズは、世の中の現実と不条理さを表していて、Punkという衝動的な音楽性の中にあっても、文学的な情緒が漂うように感じるのです。
デッド・ケネディーズ版 『I fought the law』
一方でクラッシュよりも何年か後、1987年になってからリリースされたデッド・ケネディーズによる『I fought the law』はこんな感じです。
楽曲はザ・クリケッツやボビー版を踏襲しつつも、彼ららしくアレンジされています。そして歌詞はオリジナルと大きく異なっていて……
「I fought the law and I won (俺は法律と戦って、勝った)」
と自分が法律に勝利してしまっているのです。これはどういうことなのでしょうか。
一説には、ボーカルのジェロ・ビアフラは1979年にサンフランシスコ市長選挙に立候補し、結果落選するも3位でした。ひとりのパンクスが市長選挙に出馬して10人以上候補者がいた中での3位。これは事実上の金星、勝利とも言えるかも知れません。
その他にもデッド・ケネディーズは、ジャケの猥褻表現云々と、民事裁判なども多く、それら裁判に勝ったタイミングと、選挙にも勝ったということで、『I fought the law』のカバーがビアフラのアイディアとして浮かんで、リリースされたとも考えられます。
「自分は勝った」
……デッド・ケネディーズによるアメリカンジョークとブラックユーモア (※) が彼らの『I fought the law』には詰まっているようです。
※とはいえ、Dan Whiteによる、George Moscone、Harvey Bernard Milkの殺人に関する痛烈な批判としてこのカバーを作ったともされています。
二つのカバーに感じる、世界観
『I fought the law』はスリーコードの名曲で、メロディと言葉の乗せ方のリズムと、歌詞のシンプルささが絶妙です。
そしてこの曲の本来の歌詞は一言で言えば「俺は金が必要で、銀行強盗したけれど捕まった」という身も蓋もない内容なのですが、それをカバーするバンドによって、その世界観は大きく変わってくるような気がします。
……どこか物悲しくて最後は法に負けてしまう悲痛を歌う純文学的なクラッシュと、アメリカ西海岸のバンドらしく、替え歌にして『勝った』と言い放ってしまうデッド・ケネディーズ。同じパンクバンドによるカバーでも、雰囲気の異なる楽曲。
読者諸氏にとっては、どちらがしっくり来るものだったでしょうか。
同曲は、他にも様々なアーティストによって、カバーされていますので、興味のある方はYoutubeなどで深堀りしてみるのもよいのではないでしょうか。
色々なアーティストによる『I fought the law』
I fought the lawはクラッシュ、デッケネ以外にも様々なバンドがカバーしています。大きくわけると原曲準拠と、クラッシュアレンジに準拠したものと分けられるように思えますが、レゲエアレンジや、独自の解釈でカバーしたものなどもあります。
Youtubeで確認できるものをピックアップしてみましたので、興味のある方は聴き比べて見てください。