小林聡美演じる”主人公に隕石がぶつかるヒューマンドラマ”映画『ツユクサ』が2022年4/29(金)に公開されます。
……なんだか滅茶苦茶ディザスターな字面ですが、本作はどこかファンタジーのようなストーリーでありながら、あなたの人生にも起こりうるかもしれない……そんな幸せを描いた、心がほっこりする作品です。
本作を公開に先駆け、マスコミ向けの試写会へ参加してきましたのでネタバレしない範囲で作品の魅力をご紹介したいと思います。
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映画『ツユクサ』試写会レビュー
幸せになることをそっと応援してくれるホッコリ良作!
海の見える小さな田舎町を舞台にした、大人のおとぎ話である本作。1億分の1の確率で隕石にぶつかった女性を中心に、人々の幸せとの向き合い方を描いています。
主演を務めるのは『かもめ食堂』(2005)『めがね』(2007)のほか、ドキュメンタリー映画『犬に名前をつける日』(2015)で主演を務める小林聡美。明るく気さくな主人公・芙美(ふみ)を演じており、衣装や何気ない仕草も非常にはまり役となっています!
そんな芙美の相手役・吾郎を演じるのは、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』や、映画『ヒキタさん!ご懐妊ですよ』(2019)に出演する松重豊。草笛が得意な警備員であり、ちょっと不思議な性格の人物を演じています。
ほかにも、年の離れた芙美の親友である少年・航平を『人魚の眠る家』(2018)の斎藤汰鷹、芙美の職場仲間にはドラマ『SUPER RICH』の江口のりこや、映画『閉鎖病棟 −それぞれの朝−』(2019)の平岩紙らが脇を固めます。
そして本作の監督を務めるのは『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』で、第43回日本アカデミー賞の優秀監督賞と優秀脚本賞を受賞した経歴を持つ平山秀幸。
脚本は『やじきた道中 てれすこ』(2007)以来の平山監督との再タッグになった安倍照雄が執筆。本作は同氏が10年以上あたためてきたオリジナルストーリーです。
タイトル | ツユクサ |
公開日 | 2022年4月29日 |
監督 | 平山秀幸 |
脚本 | 安倍照雄 |
出演 | 小林聡美、平岩紙、斎藤汰鷹、江口のりこ、渋川清彦、泉谷しげる、ベンガル、松重豊 |
制作 | 日本(2022年) |
公式Web、関連リンク | https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp/ |
映画『ツユクサ』あらすじ
とある小さな田舎町で暮らす芙美(ふみ)。
https://tsuyukusa-movie.jp/
気の合う職場の友人たちとほっこり時間を過ごしたり、うんと年の離れた親友の少年と遊びに出かけたり、ある日、隕石に遭遇するというあり得ない出来事を経験したり。そんなふうに日々の生活を楽しく送るなかで、ときおり見え隠れする芙美の哀しみ。彼女がひとりで暮らしていることには理由があって、その理由には“ある哀しみ”があって、そして草笛をきっかけに出会った男性と恋の予感も訪れて……。
まるでファンタジーだけど現実的? 大人のおとぎ話とは
「隕石が当たるなんて…そんなアホな話…」と思いたくなるような導入ですが、本作中では1億分の1の確率で起きる出来事と語られます。
冷静に考えてみると、自分が誰かひとりと出会う確率は、日本の人口だけでおよそ1億2000万人分の1……隕石にぶつかるよりも奇跡的な確率なのです。つまり日常の出来事も、奇跡的な可能性を秘めていることを教えてくれます。
それに、もしも隕石にぶつかった奇跡が起きたとして、それはラッキーなことかといえば必ずしもそうとは限りません。その証拠に、航平が調べた隕石にぶつかった実在の人物・アン・エリザベス・ホッジスの顛末(※)は決して幸せなものではありませんでした。
本作は、小さな田舎町に隕石が落ちることも、男女が出会って恋に落ちることも、同じくらい……奇跡的な確率で起きた出来事なのかもしれないと実感させてくれる作品です。
※参考
大人と子どもの違いって何だろう?
『ツユクサ』は大人の恋模様だけでなく、年の離れた友情もテーマになっています。芙美と航平は親子に近い年齢差ですが、2人はお互い親友として接しています。一緒に落ちた隕石を探したり、航平とクラスメイトの関係の相談に乗ったり…。年上としてアドバイスすることはあっても、基本的に2人の関係は平等です。
この2人を見ていると、ふと「大人と子どもの違いってなんだろう」という疑問がよぎります。
年齢や見た目といった違いはありますが、芙美と航平は同じような悩みや問題にぶつかっています。印象的だったのは、その問題から逃避する方法として、航平は宇宙に興味を持ち、芙美は大人ならではの”あるもの”を使っていました。
大人は辛いことがあったとき、お金を使って負担を軽減することができます。一方で、子どもはそうした解決方法ができません。ましてや身近な家族や友人との間で問題を抱えていれば、相談することも難しくなります。
そんなとき、芙美のような”同じく悩みを持つ親友“がいるのはなんと心強いことか。恋愛だけでなく友情にも年齢は関係ないし、お互いの年齢が違うからこそ、気づけることもあるのです。
小さな町の穏やかな風景を切り取った”間”が良い
本作は海が見える小さな田舎町が舞台です。田舎を舞台にした作品には、その閉塞感を訴えるネガティブな作品も多くありますが、『ツユクサ』はむしろ逆。海の見える田舎を舞台にしたことで、開放感あるロケーションとなっています。そして、時おり挟まれる独特な間が心地よい作品でもあります。
芙美たちが勤務先で行うラジオ体操や、灯台のそばでお弁当を食べるシーン。航平の父(渋川清彦)が勤める造船所の圧倒的な存在感。ストーリーと直接関係がなくても、その土地ならではの風景の”間”は観ていて心地よいです。(そしてこれらの風景と芙美のキャラクターがとてもあっている!)
もちろん、この土地に暮らす人にとって娯楽は少なく、人間関係が限られているのもまた事実。変な噂は牛の交尾よりも早く広まる…なんてこともあります。しかし本作はそこを逆手に取っているのです。どんな場所にいても、誰とかかわっていても、幸せになることをためらう必要はないと教えてくれます。
肯定的なイメージをより与えるために、素敵な風景や独特の間が心地よい演出になっているのかもしれません。
ロケーションが最高すぎる件
『ツユクサ』の舞台はどこなのか明言されていませんが、公式サイトの特別協賛を見てみると西伊豆町と書かれています。上記でも解説した通り、海が見渡せる非常に魅力的なロケーションが最高に良く、コロナが落ち着いたらぜひ訪れてみたい場所です。
特に作中で登場する「赤い灯台のそばでお昼休憩をするシーン」がうらやましすぎて、自力でグーグルマップから場所を探し出しました。
映画のシンボルにもなっている灯台は「宇久須港防波堤灯」で間違いなさそうです。
ちなみに芙美たちの勤め先である『タツネ株式会社』は実在する浴用ボディタオルの製造メーカーです。ただ同社の所在地は栃木県なので、ショールームをはじめ会社のシーンは別撮りでしょうか。ワンチャン、あのロケーションに会社があったら転職もいいなあと思ったのに……。(どんだけ弁当食いたいんだ)
映画『ツユクサ』まとめと総合評価
非常に穏やかな時間と人間ドラマが流れる映画『ツユクサ』は、主人公たちと同年代の人にぜひ見てほしいです!
また、毎日楽しく生きたいけど、周囲の環境や過去の出来事によって上手くいかない…と悩む人にも刺さるメッセージが込められていました。
本筋とは反れますが登場シーンの8割が太極拳をしているという、工場長役のベンガルさんの存在も気になりました(笑)。
ストーリー | ★★★★(4) 激しい起伏がない分、のんびりしたストーリーが楽しめます。それでいてメッセージ性もしっかり持っているため「大人のおとぎ話」とは言い得て妙だなと思いました。 |
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映像 | ★★★★(4) とにかくロケ地が最高。田舎で暮らすなら、こんな場所がいいなあ…と思わせる風景が楽しめます。 |
音楽 | ★★★(3) 意外と劇伴が流れる頻度は控えめな印象。 |
難解さ | ★★(2) 「大人の~」とは言っていますが、ストーリー自体は非常にシンプルかつストレートでした。 |
総合評価 | ★★★★(4) 登場人物の年齢層がやや高いため、若者には刺さりづらいかもしれませんが、同世代の人にはぜひ見てほしい作品。個人的には、自分の母と小林聡美が同い年だったこともあり、子ども世代(20代~30代)が見ると、新鮮な発見もあって面白いかもしれません。自分は「母親が恋愛したらこんな感じなのか?」とこそばゆい感情で観ていました(笑) |
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