アニメのテーマ曲を語ろう 2023年春アニメ編 『アイドル』、『斜陽』、『W●RK』、『愛の歌』、『おどる ひかり』
アニメのテーマ曲を語ろう 2023年春アニメ編 『アイドル』、『斜陽』、『W●RK』、『愛の歌』、『おどる ひかり』

アニメOP/ED曲ピックアップ 2023年春アニメ編 『アイドル』、『斜陽』、『W●RK』、『愛の歌』、『おどる ひかり』

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多くのファンを生み出し続ける日本のアニメカルチャー。中でも今期から始まった通称『春アニメ』は大豊作との呼び声が高く、毎週多くのファンが「観る時間が足りない!」と嬉しい悲鳴を上げる今日この頃である。さて、そんなアニメに欠かせないのが、必ず本編前後に流れるオープニング曲とエンディング曲の存在だろう。

そこで当記事では2023年の4月から放映が開始した春アニメから、特にアーティストとアニメの親和性の高い、注目の楽曲をピックアップしてご紹介する。歌詞やサウンドといった視点からその魅力を考えてみた。

アニメのテーマ曲を語ろう 2023年春アニメ編

『アイドル』 YOASOBI ( 【推しの子】 オープニング曲)

原作:赤坂アカ(『かぐや様は告らせたい』など)と作画:横槍メンゴ(『クズの本懐』など)によるマンガ作品のアニメ化『【推しの子】』。第1話はなんと異例の90分拡大版として放送され、話題の面でもクオリティの面でも今期最も注目すべきアニメのひとつといっても過言ではない。

主人公が、自身の推していたアイドルの子供として転生。流れに身を任せるうちにアイドル・芸能界の表と裏を直視してしまう……という本作。観ていて、感情の浮き沈みや激しい展開にぐいぐい引っ張られていく作品だが、オープニングテーマ『アイドル』も同様に緩急の激しい楽曲だ。

YOASOBI「アイドル」 Official Music Video
YOASOBI「アイドル」 Official Music Video

イントロでは語尾を上げる印象的な語りが入るが、メロディが始まると踊れるポップソングという印象のアップテンポなサウンド。サビでは「オイ! オイ!」というコールまで入っている。(この声はヲタクダンサーチームREAL AKIBA BOYZが担当)

公式MVは公開約1ヶ月で1億回再生(!)と、音楽シーンの記録を塗り替えたバズを見せ、TikTok動画でもBGMに使われるなど早くもネットミーム化。作品の魅力はもちろんのこと、YOASOBIのコンポーザーであるAyase氏が【推しの子】と真摯に向き合った結果なのだろう。

……しかして、その歌詞を読み解くと『アイドル』という存在が《嘘か本当か知り得ない/そんな言葉にまた一人堕ちる/また好きにさせる》であると示しつつ、インタールードの語りでは途中で転調しよりダークな内容が吐露される……。この衝撃的な展開すらも【推しの子】の主題歌に相応しいとしか言いようがない。その他にも歌詞を紐解くとよりカオスなメッセージも秘められている……という意味でも、大きな気付きを与えてくれる。

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『斜陽』 ヨルシカ(僕の心のヤバイやつ オープニング曲)

続いては、SNSでも話題沸騰を続けている人気マンガ原作『僕の心のヤバイやつ』、通称『僕ヤバ』のアニメだ。劣等感を抱きながら日陰で過ごす市川と、学校イチの美人で女優業も行う山田との淡い恋模様を描いたラブコメディ。

本編の素晴らしさについては以前寄稿した別記事を読んでいただきたいところだが、ひと言でまとめるならば『とりとめのない日々から、少しずつ縮まっていく距離を描く』という構成が抜群の作品なのである。両思いなのになかなか動けない両者の描写に「早くくっついてくれー!」とやきもきしたりもするけれど、同時に「この心理状態こそが恋愛だよなあ」とも思ったり。

そしてそのアニメ・オープニング曲であるヨルシカによる『斜陽』は、劣等感の塊であった主人公・市川が、山田と出会って日々が色付いていく様子を反映したかのような楽曲になっている。

ヨルシカ – 斜陽
ヨルシカ – 斜陽

爽やかなサウンドにのせて歌われる《もう少しで 僕は僕を一つは愛せたのに/斜陽に気付けば目も開かぬまま/静かな夕凪の中》というサビの歌詞。もし山田と出会わなければクラスの隅で、ある種独善的に生きることもできたが、山田の重要性に気付いたために、穏やかな現実に変化した……。本作を文学的に体現した歌詞のように感じとる事ができないだろうか。

現在放送中のアニメでは、まだ2人の関係は進展中。片や原作では今や2人の距離はグッと縮まり、互いが求めた関係性に変化している。市川にとっての『斜陽』だった山田が、次第に自身を明るく照らしてくれる『太陽』になっていく様を、ぜひともこの主題歌と共に見届けてもらいたい。

『W●RK』 millennium parade × 椎名林檎(地獄楽 オープニング曲)

死罪人でる主人公 画眉丸(がびまる)が、無罪放免になることを目的に、とある島で死闘を繰り広げるという本作。

そんな『地獄楽』の主題歌を担当したのは、King Gnuとしても活動する常田大希のソロプロジェクト millennium paradeと、日本が誇る歌姫こと椎名林檎。原作の舞台が江戸時代末期という難しい設定なので「どんな曲が出来るんだろう?」と期待してはいたのだが、いやはや。結果としてお互いの魅力が完璧に活かされた曲になっていた。

先述の通り『死罪人の主人公が生還を目指して戦う』という独特の展開ゆえに、主題歌には『激しさ』と『深み』という要素が求められたように思う。そして彼らは、重厚な打ち込みをベースに、複雑な展開や、ボーカルに拡声器を介すなどトリッキーな楽曲を提供している。

millennium parade × 椎名林檎 – W●RK
millennium parade × 椎名林檎 – W●RK

歌詞の面でも原作をイメージせずにはいられない。ストーリーが進むにつれて思わず「お!この歌詞はこの場面のことだな!」なんて思えてしまう。また、難解な言葉の数々には江戸時代らしさも感じる。今年の音楽シーン全体を見ても新たな風を吹き込んだ1曲と言えるのではないだろうか。

『愛の歌』藤川千愛(マイホームヒーロー オープニング曲)

「47年間、一度も刑法を犯さずに生きてきた。だけど、今日から殺人鬼だ。ああ……」。

そんなあらすじだけで、ここまで引き込まれる作品がかつてあっただろうか。青年誌にて連載中の超異色漫画がアニメ化すると聞いたとき、「これアニメに出来るの!?」と笑ってしまったのは、きっと筆者だけではないだろう。

少しだけ解説すると『マイホームヒーロー』は普通の家庭で暮らすサラリーマンがある日突然殺人を犯し、その隠蔽工作に奔走するというストーリー。そんな今期アニメの中でも屈指の問題作に命を吹き込む主題歌として抜擢されたのは、新進気鋭のシンガーソングライター藤川千愛(ふじかわ ちあい)だ。

アニメ公式サイトによると、彼女も原作の大ファンであるとのこと(アニメ『マイホームヒーロー』公式サイト MUSICページ)。そんな彼女によって提供された『愛の歌』で注目したいのは、やはりその歌詞だ。

愛の歌/藤川千愛 TVアニメ『マイホームヒーロー』オープニングテーマ

言うまでもなく『殺人』というのは過激なテーマだ。例えば、この記事を読んでいるあなたが誰かを殺そうとしたとする。恨み?怒り?……そこには様々な理由があったとしても『殺人を合理化する100%納得のいく答え』は出ないように思う。

そこでこの楽曲では、殺人も、逃亡も、全ては愛によるものだと結論付けたのである。ネタバレになるので詳細は伏せるが、確かにアニメ本編を観ると、この物語は最終的には深い愛に帰結することが分かる。だからこそ彼女の綴った歌詞は心を打ち、ここまでアニメ作品とマッチする楽曲になったのではないだろうか。歌詞を読み、あらためて楽曲を聴けば思わず涙腺が緩んでしまう。そんな経験はとても新鮮だった。

『おどる ひかり』 Cody・Lee (李) (江戸前エルフ エンディング曲)

東京で400年以上の歴史を刻む神社の御神体は、今や現代の現代文明とオタク文化に染まり、ぐうたらな毎日を送るエルフだった……。エルフとJK巫女、更には周囲で巻き起こる物事で盛り上がる、一風変わったドタバタアニメが『江戸前エルフ』だ。

物語の大きな括りとしてはコメディ。そのため基本的にはボケてツッコまれて……という流れで展開していくのだが、涙腺に訴え掛ける場面もあり、物語上の緩急を生み出している。

そんな本作のエンディングテーマ『おどる ひかり』は、アニメ全体の透明感のある世界観と、物語後半で紡がれる内容をも表した楽曲になっている。

バカバカしく楽しい毎日と、いずれ訪れる儚い未来、この2つを『高耳神社』発の出来事として、あえて抽象的に表現したミドルチューン。気持ちをグッと高めるのがオープニングテーマとするならば、アニメのエンディングテーマは少し落ち着いて作品全体を俯瞰するような曲が採用されることが多い。

その傾向はこの『おどる ひかり』についても同様ではあるのだが、なぜか耳を惹きつけるのだ。

Cody・Lee(李) – おどる ひかり(MusicVideo)
Cody・Lee(李) – おどる ひかり(MusicVideo)

それはこの楽曲が世界観と完全にリンクしたものになっているから……かもしれない。

アニメの風景が、この曲の一節一節に込められた歌詞や、ツインボーカルならではの印象、夏休みの終わりのような寂しげなサウンド、そして没入してしまう余韻がこの楽曲にはある。珠玉のポップソングだ。

おわりに

アニメソングというと、伝統的なアニメ作品のように作曲家によってアニメのために作曲された曲のほか、既に活躍しているアーティストがタイアップとして楽曲を提供する場合や、アニメ製作に寄せて作品の世界観を踏襲して曲をアーティストにオーダーするケースも増えてきた。

いずれにせよ、毎話放映される度に耳にし、作品の一部として好きになっていく魅力がアニメのOP、ED曲にはある。そしてアニメの放映が終了しても、楽曲を聴く事でアニメを思い出し、また観たくなる……。特に世間的な注目度が重視される昨今の音楽シーンにおいて、アニメのタイアップはヒットへの最短距離のひとつであるのは確実だ。

ただ、それは制作者サイドが「このアーティストを起用しよう!」と動き、アーティスト側も文字通り「死ぬ気で作ってやる!」と向き合うからこそ生まれる爆発だろう。それこそYOASOBIのAyase、藤川千愛のコメントにも表れているように、アーティスト側はアニメのタイアップを受ける上で作品を理解し、表現している。

では楽曲を聴く我々はと言うと、その恩恵を100%に受けられるとても良い立場にいる。

『①アニメを楽しむ→②主題歌にハマる③歌詞の内容を読み込んで、もっともっと好きになる!』という好循環を楽しめるのは、リスナーだけに与えられた特権だ。……もちろんこの①〜③までの順番は逆になってもOKだが、とにかく。総じてアニメ主題歌は『様々な角度で良さを感じられる魅力』という最強の要素を携えているのである。

今回紹介した作品と楽曲以外にも、今期アニメの数だけ主題歌が存在する。さすがに全ての作品の全ての曲のバックボーンをチェックするのはひと苦労だが、気になる曲があれば、どんなアーティストがどんな想いで提供しているのか……調べてみるのも面白いだろう。

アニメのテーマ曲を語ろう 2023年春アニメ編 『アイドル』、『斜陽』、『W●RK』、『愛の歌』、『おどる ひかり』

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キタガワ

島根県在住、会社員兼音楽ライター。rockinon.com、KAI-YOU.netなどに音楽関係の記事を中心に執筆。毎日浴びるほど酒を飲みます。

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