新型コロナウィルスの影響によって世界中で生活環境が劇的に変化して1年以上が経ち、今でにも増して私たちは新しい生き方、働き方を模索していく必要があるのかもしれません。
そんな中ではありますが、人の作り出した作品……先人の知恵ともいえる(?)、『フィクションから学べることもあるのではないか』というテーマで、ウィルスや感染症が広がる様子や、そんな渦中を描いた『パンデミック』映画を3作品。 そして、既に大きく価値観が変わってしまった未来……『ディストピア』を描いた3作品をピックアップしてみました。
こんな今だからこそ、新しい着眼点で作品を楽しめる……かもしれません。
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新しい気付きがある? パンデミック映画3作品
コロナ禍によって最も注目を集めた映画と言えば、スティーヴン・ソダ―バーグ監督の『コンテイジョン(※)』でしょう。コロナ以上に凶悪なウイルスによるパンデミックは、人々の生活がどのように脅かされるかを克明に描き、「コロナ禍の現在を予見している」と話題を呼びました。
※コンテイジョンについては、別の記事にてご紹介していますので、こちらをご覧ください。
今回は『コンテイジョン』のように大規模な作品ではありませんが、独自の目線でパンデミックとなった社会や人間ドラマを描いた映画をピックアップしました。
怖いのは感染経路? 『キャビン・フィーバー』(2003年)
ホラー映画監督でおなじみのイーライ・ロス監督による商業デビュー作『キャビン・フィーバー(原題: CABIN FEVER)』。監督自身が皮膚病にかかった経験を反映したというホラー映画。
タイトル | キャビン・フィーバー(原題: CABIN FEVER) |
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公開日 | 2003年(アメリカ) |
監督 | イーライ・ロス |
出演 |
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配給 | ライオンズゲート(アメリカ) アートポート(日本) |
制作 | アメリカ |
『田舎の山奥で乱痴気騒ぎをしに来た若者達』というホラー映画定番の導入の本作。 彼らが自業自得で自滅していく流れかな? と思いきや……。
本作では、登場人物達のずさんで無責任な行動によってウイルスが広まっていく……という過程を生々しく描いています。 無自覚に感染の拡大につながる行動をしていないか、と自身を顧みる切っ掛けになるかもしれません。


画像 キャビン・フィーバー YouTube ムービー プレビュー より
余談ですが、個人的にイーライ・ロス監督の持ち味はホラー的演出よりも、痛みを想像してしまうグロテスクな描写にあると思っています。 同監督の別作品『ホステル』(2005年)などでも目を覆い、吐き気を催すようなシーンが印象的でした。
そういった点では、本作『キャビン・フィーバー』でもグロシーンの痛々しさは完成されており、例えば……ただれた皮膚の上をすべる剃刀の演出は、見ていて背筋がゾッとします。 ショッキングな映像が苦手な方には少し厳しいかもしれません、ご注意を。
なお、続編『キャビン・フィーバー2』、前日譚を描く『キャビン・フィーバー ペイシェント・ゼロ』が製作されていますが、いずれも別の監督によって手掛けられており、評価は初代の本作と比べると劣るようです。また、2016年にイーライ・ロス監督自身によって、セルフリメイクされた映画(キャビン・フィーバー 2016年版)も公開されていますが、ここでは2002年版を元にご紹介しています。
それでも人生は続く…… 『パーフェクト・センス』
『名もなき塀の中の王(2013年)』、『最後の追跡(2016年)』などを手掛けた、デヴィット・マッケンジー監督による異色のラブストーリー、2011年の作品です。
タイトル | パーフェクト・センス (原題: Perfect Sense) |
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公開日 | 2011年(イギリス) |
監督 | デヴィッド・マッケンジー |
出演 |
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配給 | セナトールフィルム(イギリス) プレシディオ(日本) |
制作 | イギリス |
世界中の人々が、未知の感染症によって五感を順番に失っていくというパンデミックを描いた映画であり、その最中にあっても芽生える人の愛情や繋がりを描いた作品でもあります。
作中の感染症が特殊なのは、人々はただちに死に至るのではなく段階的に五感を失っていくという点。 まずは嗅覚を失った人が世界中にあふれ、誰もが同じ症状になる。 かろうじてその状況に適用し始めた頃、今度は味覚を失い、聴覚も……。
当然、さまざまな社会的変化が起こりますが、主人公(ユアン・マクレガー)の働くレストランも多大な影響を受けます。
皆が嗅覚を失った後は味付けを強くして料理の提供を続け、より致命的ともいえる味覚を失った後には音や食感を楽しむ為の料理を提供する……。そんな世界の価値観が変わってしまっても人生が続くと信じ、生活や様式を変えて行動する様子は、学び考える点が多くあるかもしれません。
本作はパンデミックをテーマにしていながら、全体として比較的落ち着いたトーンで演出されています。 音楽をピアニストでもあるマックス・リヒター(外部リンク)が手掛けていることもあって、緩やかに滅びゆく静かな世紀末を見事に表現しています。
あえて気になった点を挙げるなら、作中の皆のマスクの付け方がやや適当な事でしょうか(笑)。
……とはいえ、これは現実にコロナウィルスのまん延による現在の状況になったからこそ、気になるようになったのだと言えるのですが。
ウイルスを楽しむ近未来 『アンチヴァイラル』
『ザ・フライ』『裸のランチ』で知られるデビッド・クローネンバーグ監督の長男である、ブランドン・クローネンバーグが初の長編作品を監督した『アンチヴァイラル(原題: Antiviral)』。 パンデミックとは少し逸れる感もありますが、本作はウイルスがビジネス化しているという特殊な世界観のホラー・SF映画です。
衝撃的なシーンが多いので、この手の作品が苦手な方は避けた方がよいでしょう。
タイトル | アンチヴァイラル(原題: Antiviral) |
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公開日 | 2012年(カナダ) |
監督 | ブランドン・クローネンバーグ |
出演 |
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配給 | Alliance Films |
制作 | カナダ |
セレブに憧れ、彼らの身に付けているものや生活を真似する……というのは現実世界でもみられる現象ですが、この映画では『セレブが感染したウイルスを当人から抽出して、摂取する』という歪んだサービスを提供する世界が描かれています。
パンデミックを通してウイルスの価値観が変わり、主人公も超有名セレブが感染したウイルスを摂取し、さらには謎の陰謀に巻き込まれる……。
コロナ渦をにある今、あらめて観ると新たな価値観や社会へと変わっていく可能性について考えさせられました。 作中には、セレブから抽出したウィルスの体験の他にも、さまざまな狂った嗜好・ビジネスが登場します。
とはいえ、『デザイン性の優れたマスク』や、『冷感素材を使ったマスク』など、コロナ渦以前では想像もしなかった新たな潮流は現実世界でも生まれています。
『ウィルスを楽しむビジネス』が求められる世界になる可能性がゼロとは言い切れない……のかもしれません。
変貌した世界を描いたディストピア映画3作品
パンデミックや大災害を受けて価値観のまったく変わってしまった世界を描く作品も多く存在します。
ここでは『ウィルス』とは少し離れて、世界の価値感が完全に変わってしまった『ディストピア』と、そこに登場する『救世主』をテーマにした作品をピックアップして紹介してみましょう。
かなり極端な救世主 『ジャッジ・ドレッド』(2012年)
原作はイギリスのコミック作品。 1995年にアメリカでシルヴェスター・スタローンを主演に制作された同名作品のリブート=イギリス版『ジャッジ・ドレッド(原題: Dredd)』がこの作品。
『ピーチ・ツリー』と呼ばれる超高層ビルを舞台に、麻薬組織と激しい戦闘を繰り広げるアクション映画。
タイトル | ジャッジ・ドレッド(原題: Dredd) |
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公開日 | 2012年(イギリス) |
監督 | ピート・トラヴィス |
出演 |
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配給 | ライオンズゲート |
制作 | イギリス |
本作の脚本は『エクス・マキナ』『アナイアレイション -全滅領域-』で知られるアレックス・ガーランドが担当。
核戦争の影響で荒廃した『メガシティ#1』では、抑圧された一部の市民が武器を手に暴徒化するなど、『暴力が支配する世紀末』感もばっちり。
絶対的な法の機関が存在しながらも治安は最悪で、弱肉強食がまかり通る物騒なエリア(ピーチ・ツリーも同様)も存在。社会的弱者にとってジャッジは救世主のような存在……かと思いきや?
警察と司法の機能を併せもち、裁判官であり執行官である法の執行者がジャッジと呼ばれる存在。その中でも最強の戦闘力を持つ主人公ドレッド。
『絶対法律主義』を掲げ遂行する彼を倒すために、多くの弱者の血が流れる場面も。 人が正義を遂行するという行為について考えさせられます。 もし、現代社会において、ドレッドのような存在が居たとしたら、どう受け入れられるのかも気になるところ。
ロバート・マッコール×世紀末 『ザ・ウォーカー』
『アメリカン・ギャングスタ―』や『イコライザー』シリーズでおなじみのデンゼル・ワシントン主演による世紀末映画ザ・ウォーカー(原題: The Book of Eli) 。
時は近未来、『謎の光』によって人類の多くが死に、資源も枯渇し、文化も衰退していく……そんなまさに世紀末を舞台に、主人公イーライがある『本』をもって西を目指して旅します。
タイトル | ザ・ウォーカー(原題: The Book of Eli) |
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公開日 | 2010年(アメリカ) |
監督 | アルバート・ヒューズ/アレン・ヒューズ |
出演 |
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配給 | ワーナー・ブラザース |
制作 | アメリカ |
主人公イーライは直接的に世界を救う為に行動をするのではなく、『本』を西へ持っていく……という使命に従い行動しています。 この本の正体を言うとネタバレになってしまうのですが、『ジャッジ・ドレッド』のように悪人を倒したり、誰かを救うことが彼の目的ではありません。
とはいうものの、その行く手を阻む者にはまったく容赦なく、まるで『ブレイド』を彷彿させるような豪快な動きで敵を切り倒します。 時に、敵の武器をディスアームするシーンなどは完全に『イコライザー』のロバート・マッコールと同じ戦闘スキル。
「ロバート・マッコールを世紀末に連れてきたらこんな活躍をするんだろうな……」なんて思いながら見てしまいました。
ラストでは、ほとんど文明が衰退してしまった世紀末にあって、何が人々に必要なのか……そのひとつの答えとして『本』とその『内容』が示されています。
少女の決断をどう受け止めるか 『ディストピア パンドラの少女』
植物からなる未知の細菌によって人々がゾンビ化(作中では人肉などを食すことからハングリーズと呼ばれている)した世界を描いた、ゾンビ映画でありディストピア映画。
『セカンドチルドレン』と呼ばれる、細菌に感染しながらも人間と同じ思考と行動ができる少女メアリーを通して、荒廃した世界を生きる人々を描きます。
タイトル | ディストピア パンドラの少女 (原題:The Girl with All the Gifts) |
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公開日 | 2016年(アメリカ) |
監督 | コーム・マッカーシー |
出演 |
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配給 | ワーナー・ブラザース |
制作 | アメリカ |
ゾンビがテーマの作品としては珍しい、植物由来のゾンビという設定。 荒廃しきったロンドンの街並みも、激しく植物が生い茂っています。
副題のとおり、パンドラの箱になぞらえたストーリー展開も見どころのひとつ。主人公の少女・メアリーは救世主のように描かれる反面、彼女を殺さなければワクチンが製造できない、という設定も印象的。
人類の存亡が一人の少女に握られる中で、ラストでメアリーの下した決断には賛否の意見が分かれる所でしょう。
個人的な注目ポイントは、『セカンドチルドレン』の教師ヘレン(ジェマ・アータートン)が見せる、突然の絶望フェイス。 『本当に一度世紀末を経験してるのでは……?』と思えるほど表情が印象的でした。
まとめ
以上、コロナ渦にあって見直したいパンデミック映画とディストピア映画をピックアップしてみました。
これらの作品が私たちの日常生活に直接活きてくるか……はわかりませんが、こんな今だからこそ心に刺さるようなストーリーや、コロナ渦になったからこそ注目してしまう設定や描写など、新しい気づきや感動も存在していました。
当記事で紹介したジャンル以外にも、予想もしなかったようなテーマの作品からもコロナ渦の社会に通ずる『なにか』が感じ取れるかもしれません。 マイナー系の作品も面白いですよ。