独特の形状が印象的な沖縄の『亀甲墓(きっこうばか、かめこうばか)』について

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沖縄を訪れると、しばしば日本本土では見かけない様な、古代の神殿遺跡を連想させる形状の建造物を目にすることがあります。

特に、山の斜面に見る事もできる独特なたたずまいで、初めて見る方にとってとても印象的に映る建造物があります。

この建造物は、「亀甲墓(きっこうばか、かめこうばか、カーミナクーバカ とも)」とよばれるものであり、沖縄文化圏独特の伝統的な墓であるといわれています。そこで、今回はこの「亀甲墓」について、調べてみましたのでこの場を借りてご紹介してみたいと思います。

亀甲墓(きっこうばか)について

亀甲墓のはじまりと歴史

先に”伝統的な”とは書いたものの、実際には現存する典型的なタイプの亀甲墓の様式が確立したのは早くても17世紀後半の第二尚氏王朝時代(当時の沖縄は琉球王国でした)。日本本土では、江戸時代の天和〜元禄年間の頃でした。

この亀甲墓のそもそもの原型は、岩山のくぼみや洞窟(沖縄の言葉では「ガマ」といいます)に死者を葬った「自然洞穴墓※」です。

※自然洞穴墓は、古代の沖縄で行われていた風葬(死者の遺体や遺骨を土に埋めず、空気や風雨にさらして自然に朽ち果てさせる葬法)の一形態。

先述のように亀甲墓はしばしば山の斜面に作られていますが、これは自然洞穴墓時代の名残です。

なお補足しますと、こうした古い時代の自然洞穴墓や後述する岩穴囲い込み墓の中には、後世聖地「御嶽(うたき)」として近隣住民の信仰を集めるようになったケースが随分あります。

時代が下り中世に入ると、いわゆる琉球王朝時代となって身分(階級)制度が確立し、また自然洞穴墓に葬られた遺体(遺骨)が野生動物によって損壊されることを防ぐため、支配層の人々の墓を中心に、入り口に石積みをした洞穴墓「岩穴囲い込み墓」や、自然洞穴のくぼみ部分を人の手で掘り広げた「壁岩墓」が登場します。

那覇市首里に今も残る尚氏王家の墓「玉陵(たまうどぅん)」は1501年に造立されましたが、この玉陵は歴代の王の墓であることもあり、当時最新式 最高級の墓でした。

洞穴墓の正面入り口に突き出した屋根部分のある「破風墓」がこの時期に作られ始め、玉陵もまさにこの破風墓の様式で作られたからです。

亀甲墓は、それから200年近く経ってから作られるようになった様式の墓だったというわけです。

沖縄式のお墓参りと亀甲墓

ところで亀甲墓といえば、親戚一同が集まって墓前で宴会を行う「沖縄式お墓参り」の風習とも関連付けられたイメージでも有名ですが、こうしたイメージが特に亀甲墓と結び付いているのも、一つには亀甲墓の独特な位置付けと関係があります。

亀甲墓(や破風墓)は沖縄本島の中部〜南部に多く現存しますが、その多くは「門中墓」といって沖縄に特有な「門中(むんちゅう)」という親族集団の共同の墓であった(あるいは、現在も死者が出ると遺骨がそこに納骨されるケースもある)ものです。

この「門中」での墓参が、いわゆる「沖縄式お墓参り」という形になるわけです。但し、地域によって「門中」の実際の概念は全くさまざまであり、このタイプのお墓参りが盛んな地域とそうでない地域があります。

さらに補足すると、こうした親戚一同でのお墓参りに子どもや高齢者も参加するようになったのは戦後に自動車が普及してからの傾向であり、それ以前は遠くの門中墓へ徒歩で移動しなければならなかったため、基本的に「若い大人(青壮年期の人々)」限定の行事だったようです。

昨今は小型化したものも多い亀甲墓ですが、本来の規模の物についてはその大きさと周辺敷地の広さなどについて、『墓前での親戚一同での宴会のために便利だから』だとか、あるいは『風葬としての洞窟墓にルーツがある墓だから』といった説を耳にする事があります。

ただ、今まで見てきたようなことを念頭に置いて、これらの説の信憑性を考察してみると、敷地の広さや形状については風葬時代の洞窟墓に由来するためというのが第一義であって、親族一同が宴会をする……というのはむしろ結果的にそうなったというのが、実像のように思えました。

【参考文献】
波平エリ子『トートーメーの民俗学講座―沖縄の門中と位牌祭祀
ボーダーインク、2010

関沢まゆみ、国立歴史民俗博物館編  歴博フォーラム『盆行事と葬送墓制』
吉川弘文館、2015

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