以前から少し気になっていたドキュメンタリー映画『世界を変えたテレビゲーム戦争』が、Amazonプライムビデオで会員無料視聴作品になっていたので観てみました。
この作品、私たち日本人には馴染み深い、任天堂『ファミリーコンピュータ』登場の少し前。 ATARI(アタリ)というゲーム会社がアメリカ国内でビデオゲームをヒットさせた頃(1970年代)からSONYの『PlayStation』登場時での『ゲーム史』を、関係者のインタビューを交えて映し描いています。
筆者のようなアラフォー/アラフィフ、家庭用ゲーム機の登場を体感してきた世代はもちろん、現役のゲームファンなら一見の価値のある作品です。
記事の索引
アメリカ視点のゲーム史ドキュメント『世界を変えたテレビゲーム戦争』
このドキュメンタリー作品『世界を変えたテレビゲーム戦争(原題:Game Changers: Inside the Video Game Wars)』は、アメリカの総合エンターテインメント『ヒストリーチャンネル(HISTORY)』にて2019年6月19日に放映された作品です。

ヒストリーチャンネル 日本サイト解説ページスクリーンショット
”数十億ドル産業に発展したテレビゲーム業界の黄金時代に生き残りをかけて闘ったライバルたちの物語。世界初のビデオゲーム機の誕生やアタリ社の登場、90年代の任天堂、セガ、ソニーの壮絶な競争期など、知られざる歴史の裏側を、ノーラン・ブッシュネルほかの開発者ら自らが語る!”
Amazonプライムビデオ 作品概要より
ヒストリーチャンネルによる公式トレイラー(英語)
タイトル | 世界を変えたテレビゲーム戦争 |
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公開日 | 2019年6月19日 |
監督 | ダニエル・ユンゲ |
出演 |
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配給 | ヒストリーチャンネル |
時間 | 1時間25分 |
ATARIによるビデオゲームの大ヒットと衰退
序盤~中盤は、任天堂のファミリーコンピュータの大ヒット以前。 ATARIというアメリカ企業がビデオゲーム『PONG(ポン)』をリリースし、大ヒットする前後と、その後ワーナーに買収され、ATARIショックと言われる低迷へ至った経緯を、当時の関係者達へのインタビューを中心に描いています。
筆者は、小学生低学年の頃にファミリーコンピュータのヒットを目の当たりにしていた世代なので、ATARIのヒットと衰退については「そんな事があったらしい」程度にしか知りませんでした。
それでも、このPONGのヒットを機会にATARIが急成長し、ヒッピーの集まりのような若いスタッフ達だけのオフィスでは大麻を吸いながら仕事をしていただの、社内のジェットバスで裸で役員会議をしていただの、それでも会社はどんどん大きくなっていっただの……そんなアメリカンドリーム的な逸話が、ATARI創業者『ノーラン・ブッシュネル』や、周辺の関係者本人によって語られる流れは実に見ごたえがあります。
その後、ATARIは家庭用ゲーム機Atari 2600の開発資金獲得のためワーナーに買収されます。 Atari 2600は大ヒットするものの、企業風土の違いによる経営陣の対立や、サードパーティ製ゲームの粗製乱造といった要因により北米の家庭用ゲーム業界自体が大きく衰退していく事になるのですが……この流れもしっかりとATARI、ワーナー双方の視点で解説されていきます。
任天堂『ファミリーコンピュータ』の登場
本作の中盤以降は、私たちの良く知る任天堂ファミリーコンピュータ(の北米版=NES)登場により再興するビデオゲーム業界の話へと推移していきます。
興味深かったのは、ファミコン用のロボット(R.O.B.)が、ATARIショック以降『家庭用ゲーム販売に懐疑的な販売店』へ「これはビデオゲームではなく、ロボットを操作して楽しめる新しい娯楽」として売り込んでいったという説。
任天堂が実際にそういった戦略でこのロボットを開発したのかどうかは(筆者は)知らないのですが、なるほど面白い説だなと。

ファミリーコンピュータロボット=NES R.O.B.(Robotic Operating Buddy)
画像 ヒストリーチャンネルによる公式トレイラーより
また、ファミリーコンピュータやスーパーマリオブラザーズのヒットをして、任天堂の宮本茂氏を「ビデオゲーム業界のスティーブン・スピルバーグ」とまで語っています。
確かに、昨今の任天堂の世界的成功や、宮本氏の生み出してきたゲームを見るにこれは言い過ぎではないでしょう。
SEGA(メガドライブ=SEGA GENESIS)の躍進!!
その後北米ではメガドライブ(北米版製品名はSEGA GENESIS)の登場。 そしてサードパーティ製品を厳しく検閲する運営方針により、任天堂が苦境に立たされていた時期へと推移します。
生粋のSEGA派である筆者としては、この辺り以降の流れは胸熱。

SEGA GENESIS(北米版メガドライブ)
画像 Wikipedia パブリックドメイン
セガ・オブ・アメリカの社長だったトム・カリンスキー(Tom Kalinske)氏や、副社長だった豊田信夫氏(現ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン社長)などが登場し、メガドライブのヒットの要因 ……『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』の登場、子供達だけではなく青年~成人層にもアプローチしたセガ・オブ・アメリカのマーケティングも功を奏した……ことが語られます。
過去のATARIを彷彿とするセガ・オブ・アメリカ社内のオープンな様子や社風が『観光牧場』と評されるのに対し、『任天堂は堅実、保守的、まるで軍隊(Army)』というコメントも印象的。
前半、ATARI関連の話と比べるとやや駆け足な感はありますが、『セガvs任天堂』の構図と、その両陣営の役員・経営者達が話す当時の状況は、リアリティに満ちています。
眠れるドラゴン……SONYの目覚めと、SEGAの凋落
後半も後半。 以後はかなり駆け足です。
任天堂が、ソニーと光磁気ディスクを導入した新ゲームハード『PlayStation』の試作機を製作……する予定が、突然他社(フィリップス)と別の家庭用ゲーム機を開発をすることを発表(※)。
※本作には登場しませんが、この任天堂とフィリップスのゲーム機『CD-i』は1991年に発売。史上もっとも駄作という不名誉な呼び名まであるマリオゲーム『ホテル・マリオ(HOTEL MARIO)』などが発売されています。
これは北米ではセンセーショナルに報道され、結果として裏切られた形になったSONYは独自ハードとして『PlayStation』を開発し、家庭用ゲーム市場に参戦するきっかけとなっていた事が語られています。

画像 Wikipedia パブリックドメイン
当初、SONYのPlayStationは499ドルで発売するとされていましたが、実際の発表会ではたったひと言『299ドル』とスピーチ。 最も短いプレゼンテーションと称されるこの一言が大きなターニングポイントとなり、北米でのゲームハード戦争は再度大きく動いたようです。 その結果は私たちも知る通り……。
このチャプターのタイトル『ヤバい! (原題 OH S***)』は、当時のゲーム業界関係者達、特にSEGAと任天堂の正直な感想でしょう(笑)。

画像 ヒストリーチャンネルによる公式トレイラーより
結果として、任天堂は長い苦戦を強いられ、「果敢に戦った(豊田信夫氏)」セガは最終的に敗北。 『セガの死』とまで言う人まで出てきます。
まとめ
本作の内容は、ATARIの話が7割、任天堂の登場が2割、終盤のセガ/ソニーの話は1割といった構成ですが、それでも十分に見ごたえのある作品でした。
ファミコン世代、セガユーザー、そして初代プレイステーションといった時期のテレビゲームに触れてきて、いまなおゲームやゲーム業界に興味のある人であれば楽しめる内容だと思います。
なお、本文中では触れませんでしたが、作品中にはAppleを創る前のスティーブ・ジョブスとスティーブ・ウォズニアックの逸話も登場します。 ジョブスの人柄(悪い意味で)と、ウォズニアックの人の良さ(苦労するね……)が伝わる面白いエピソードです。
末筆ながら一言蛇足を申し上げるなら……確かにSEGAは最後まで戦い、敗れました。 でも死んでいません。 SEGA IS NOT DEAD!! せーがー!!
ストーリー | ★★★☆(3.5) ドキュメンタリーなので、興味のないジャンルだと退屈かも |
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映像 | ★★★★(4) トレイラーで確認できるグリーンバックで撮影しているインタビュー映像は、 本編になるとちょっと遊び心のある背景に変えられていて微笑ましい。 |
音楽 | ★★★☆(3.5) 特に印象はなし。映像を邪魔しない |
内容 | ★★★★(4) ゲーム業界が爆発的に拡大していった流れを理解できる。 アメリカすごいな~ |
総合評価 | ★★★★(4) ファミコン~メガドライブ、プレイステーション世代なら一見の価値あり |