Item: 僕の心のヤバイやつ
Rating: 5
Author: hamachi

アニメ化もされた漫画『みつどもえ』などの作品で知られる漫画家 桜井のりお氏が秋田書店のウェブ漫画サイト『マンガクロス』にて連載中の漫画『僕の心のヤバイやつ（僕ヤバ）』。SNSなどの口コミでじわじわと人気を拡大し、『次にくるマンガ大賞2019』Webマンガ部門第５位に選ばれるなど、その勢いは増すばかりです。

当記事ではこの『僕ヤバ』がなぜ多くの人気を獲得するに至ったかを、作中に秘められた”変化“と”答え“を紐解きながら解説します。

記事の索引

1 ラブコメ漫画『僕の心のヤバイやつ』
2 まとめ: 読者の心のヤバイやつ
3 作品概要
- 3.1 受賞歴
4 関連リンク

ラブコメ漫画『僕の心のヤバイやつ』

それでは最初に、本作の簡単な導入ストーリーと、ふたりの主人公と紹介します。

陽キャが憎くてたまらない…。只今、中二病真っ最中の市川京太郎は、学園カースト頂点の美少女・山田杏奈の殺害を企む！だが、山田の意外な一面を知ってしまい…！？

陽キャ美少女と陰キャ男子。縮まるハズのない２人の距離に奇跡は起きるか！？陰キャ・京太郎の青春が今、かなり静かに動き出す…！！
マンガクロス僕の心のヤバイやつ紹介ページより

14歳の中学生男子市川京太郎は、「自分はおかしい、世の中が憎い」と考える、いわゆる中二病の真っ盛り。でも、実はそういうフリがかっこいいと思っているだけの純粋で心の芯の部分は優しい男の子。同じクラスの山田の存在が気になってしょうがない日々を過ごしています。

読者モデルや女優業もこなす長身美少女中学生山田杏奈は、いつも友人たちに囲まれて明るく振る舞うクラスの中心人物。でも、実は食べることが大好きで、何事にも一生懸命だけど天然なドジも多い普通の女の子。不器用にも自分に接してくれる市川のことがだんだんと気になっている様子です。

マンガクロス
僕の心のヤバイやつ
配信ページ

秋田書店
僕の心のやばいヤツ
紹介ページ

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ふたりの変化

続いて、本作の中に散りばめられた”変化“を解説していきます。

まず確認したいのが、市川と山田の距離。当初は単なるクラスメイトであったふたりですが、ひとりになりたい市川と、こっそりおにぎりやお菓子を食べたい山田が図書室でバッタリ出会ってしまうところから彼らの距離に変化が生まれます。

誰にもバレないようにこっそり食事をしていた山田は、現場を見られた市川に対して何かを言い（口いっぱい頬張っているので何を言ってるのかよくわからない。かわいい。）、コミュ障な市川はそれに対して適当な返しをしてしまうのですが、何故か山田は「よかったぁ」と落ち着いた様子。

そして、授業の発表用の資料を作り始める山田に、思い切ってカッターを貸す市川。山田の「ありがとう」のひと言で顔を真っ赤にしてしまいます。もうこの時点でお互いの表立った人物像とは違う芯の部分を見せあったふたりは、一歩踏み込んだ”気になる存在”という関係性に変化していくのです。

その後、校外の職業体験実習や三者面談など、学校のイベントごとに気持ちの変化が確実に見える山田は、市川に対しての接し方が大事な人に対するものに変化していきます。市川も市川で、確実に山田に惹かれているのは間違いないのですが、その変化に自分自身が気付いていない様子（気付かないフリ？）がもどかしくてたまりません！

それでも、その市川の自分に対する微妙な変化を察知する山田は、ますます彼のことが気になって……！かなり大胆なボディタッチや意味深なセリフを吐きまくる山田と、それに翻弄される市川。「早く気付いたれや」と突っ込まざるを得ません！！

画面の変化

キャラの変化の他にも、本作は作中の画面の中に変化を描き、そのコマの間に何かがあったと読者に考えさせる手法が多く取られていることも特徴的です。

画像は熱を出した市川の家に山田がお見舞いに行くエピソードのひと幕。山田が来てくれたので、慌てて汗臭いパジャマを着替えようとした市川はそのまま気を失ってしまいます。そして目を覚ますと山田はもういないのですが、なんと市川のパジャマの着替えが完了しているのです！ ズボンまで！！

しかし本編では着替えさせる様子は描かれず、語られもしていません。パジャマの柄と掛け違えられたボタンという変化から、読者が自然と”その事実“に気付くように誘導されているのです。

明らかにされない答え

これらの、ふたりの気持ちや行動の変化、画面の変化について、作中では明確な答えが一切明かされていません。読み進めるにつれて、「このふたりの両片思いにキュンキュンするなぁ」と感想を持ったとしても、作中ではお互いがお互いに対して明確に「好きだ」と示したことは一度たりともないのです。

答えが明かされないからこそ妄想が捗る！！
マンガクロス僕の心のヤバイやつ紹介ページより

何となくそうだろうと思わせるストーリーやコマ割り、画面の構成によって、読者自身が彼らの気持ちや変化に気付く。本作に答えが明示されていないことによって読者は自分が発見した彼らの秘密を分かち合う気分に浸ることができ、なんとも言えない恋の高揚感を共有してしまうのです！

そして、市川に対して積極的に仕掛ける山田を応援したり、鈍感すぎる市川にツッコミを入れたりと、ふたりの一挙手一投足に目が離せないことに気付いたときにはもう手遅れ。本作の魅力の虜になっていることでしょう。というか、筆者がそうだったので、皆さんもそうであって欲しいと願ってしまいます！

まとめ: 読者の心のヤバイやつ

“変化“と”答え“から読み解く『僕ヤバ』の魅力を、思いのままにご紹介いたしました。

あらゆる”答え“が作中で明確にされていないことで、各読者が”自分が思う最高の答え“にたどり着ける柔軟性を持たせることができる反面、作者が見せたいものがあやふやに映ってしまう危険性もはらんでいます。しかし本作では、市川と山田の変化や画面の変化を巧みに見せることによって（ある程度の自由度を保ったまま）同じ答えに読者が行き着くように描かれているのです。

そしてその答えに行き着いた瞬間のキュンキュンした気持ちが本当にヤバイ。心のヤバイやつは、我々の中にありました……！！