SFアニメ映画『ぼくらのよあけ』 子供はもちろん大人の心にも響く作品 ネタバレ無し試写レビュー
SFアニメ映画『ぼくらのよあけ』 子供はもちろん大人の心にも響く作品 ネタバレ無し試写レビュー

SFアニメ映画『ぼくらのよあけ』子供はもちろん、大人の心にも響く作品 ネタバレ無し試写レビュー

評価:3.5 

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SFを題材としたヒューマンドラマ。かと思えば家族愛だったり、ともすれば「あの頃の僕らってこうだったよなあ」と感傷に浸ったりもする……。様々な要素が密接に絡み合い、淡い感情へと導いていくアニメ映画『ぼくらのよあけ』が、2020年10月21日より、全国の映画館で上映される。

この度、事前試写を出来る機会をいただいたので、皆様より少し早くこの作品を視聴した感想をここに記したいと思う。

SF&ヒューマンドラマ アニメ映画『ぼくらのよあけ』レビュー

 アニメ映画『ぼくらのよあけ』©今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会
アニメ映画『ぼくらのよあけ』
©今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

映画『ぼくらのよあけ』はかつて月刊アフタヌーンにて連載され、日本で最も長い歴史を誇るSE賞・星雲賞候補にもなった、今井哲也による同名SFマンガを原作とする。

映画化にあたってメガホンを取るのは、人気アニメ『PSYCHO-PASS』の演出でも知られる黒川智之。脚本は『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』や『交響詩篇エウレカセブン』シリーズの佐藤大。キャラデザは原案をpomodorosa、総作画監督としてはアニメ『弱虫ペダル』でもお馴染みの吉田隆彦らを迎え、音楽は映画『ちはやふる』でも多くの人の耳を虜にした横山克。主題歌は三浦大知……。

と、各スタッフ陣の参加作品も「これ観たことある!」と思わず叫んでしまいそうな有名作品を多数手がけた敏腕揃いで、本作の製作にあたっての意気込みがうかがえる。

『ぼくらのよあけ』あらすじ

物語は西暦2040年の夏、主人公・沢渡悠真(CV:杉咲花)が人工知能搭載型家庭用オートボット・ナナコ(CV:悠木碧)らと共に、機械的に繁栄した近未来で暮らすシーンで幕を開ける。宇宙にはかねてより興味津々、宇宙のことになるといつも饒舌になる悠真だったが、そんな彼と友人たちの元へある日ナナコをハッキングする形で、宇宙から来た謎の存在・二月の黎明号(CV:朴璐美)が地球に訪れる。「頼みがある。私が宇宙に帰るのを手伝ってもらえないだろうか」……。そう語る二月の黎明号に協力することを決意した彼らは、極秘裏に活動を進めていく。

劇場アニメーション「ぼくらのよあけ」本予告
劇場アニメーション「ぼくらのよあけ」本予告

今から20年後の近未来に、何を思うか

舞台は2049年の日本だ。本作では心をくすぐる固有名詞はもちろん、機械化が進んだことで、日常生活も一気に発展を遂げていたりもする。……そこで我々は鑑賞中ずっと考え続けるのだ。今から20年後、我々が暮らす日本の行く末を。

例えば、人工知能搭載型家庭用オートボットであるナナコ。彼女(と、あえて書こう)たちはロボットという以上に『家族の一員』として、各家庭で大切にされている。

ナナコ 画像 『ぼくらのよあけ』公式webサイト キャラクター紹介より
オートボット ナナコ CV 悠木 碧
画像 『ぼくらのよあけ』公式webサイト キャラクター紹介より

彼女たちが発する言葉はSiriのような機械的なものではないし、感情表現についても人間と遜色ない。また学校の授業内容であったり、仕事における効率最適化を可視化する場面も存在する。

作り込まれた作画も相まって「自分だったらどう暮らすかな」などと考えているうちに、次第に映画に没入してしまう。

そして理想的な近未来の様子が丁寧に作られているからこそ、二月の黎明号アールヴィル彗星など物語上で重要になる要素も活きてくる。ともすれば難解なストーリーになってしまう可能性もあっただろうけれど、SF的な全ての要素が違和感なく物語に溶け込んでいるのは好印象だ。

『こども』ならではの純粋さ

本作はジャンルとしてはSFだけれど、一言で『SF』とだけ定義するのは忍びない。なぜなら本作は冒頭でも記した通り、多面的な要素が絡み合って2時間の尺に収められているから。中でも物語が進む上で印象深いのは、子どもならではの純粋さだ。

今作は基本的に、キービジュアルにも描かれた4人の小学生を中心に進行していく。内気な眼鏡少年・岸真悟(CV:藤原夏海)、上級生の田所銀之介(CV:岡本信彦)、クラスで上手く馴染めない紅一点・河合花香(CV:水瀬いのり)、そして主人公の悠真……。

彼ら4人はその若さからくる純粋さでもって、突飛な状況にも物怖じしないアクティブな行動でストーリーを盛り上げていく。

主人公たる沢渡悠真はその最たるもので、彼はその時々における自分の感情を最優先に、行動を決定する。「自分がやりたいからやる!」を信条とする猪突猛進さが、結果リーダーシップを執り、本来ならばあり得ないような未来をこじ開けていくのだ。

「気持ちの変化を感じとりながら演じることの難しさを改めて感じました」とは悠真声優を担当した杉咲の弁だが、場面場面で移り変わる感情をとても上手く表現していて、素晴らしかった。

劇場アニメーション「ぼくらのよあけ」杉咲花さまコメント
劇場アニメ『ぼくらのよあけ』
沢渡悠真役 杉咲 花:コメント
劇場アニメ『ぼくらのよあけ』藤原夏海:映画公開コメント
劇場アニメ『ぼくらのよあけ』
岸 真悟役 藤原夏海:映画公開コメント
劇場アニメ『ぼくらのよあけ』岡本信彦:映画公開コメント
劇場アニメ『ぼくらのよあけ』
田所銀之介役 岡本信彦:映画公開コメント
劇場アニメ『ぼくらのよあけ』水瀬いのり:映画公開コメント
劇場アニメ『ぼくらのよあけ』
河合花香役 水瀬いのり:映画公開コメント
劇場アニメ『ぼくらのよあけ』悠木碧:映画公開コメント
劇場アニメ『ぼくらのよあけ』
ナナコ役 悠木碧:映画公開コメント

大人の視点から観る本作の魅力

この作品のターゲットは、どちらかと言えばこども側だと思う。けれども我々のようなすっかり大人になってしまった人間の視点から観ると、『ぼくらのよあけ』は、また違った心象風景を映し出してくれるのだ。

そのカギを握るのが、主人公である悠真の精神性。彼はとても純粋ながら、いろいろと考えて発言するような大人を嫌う少年として描かれていて、「大人なんて」と逆らう描写も多数描かれている。

損得勘定を踏まえて物事を線引きする大人にNOを突き付けていく悠真の姿は、あまりに眩しくて、思わずハッとさせられる。大人には絶対にない前向きな気持ちと、一瞬一瞬を大切にする自由さ。

……それらがもうすっかり大人になった我々の心に、どこかチクリと刺さったりもするのだ。

最後に

いくつものテーマが重なる映画『ぼくらのよあけ』は、鑑賞した人それぞれに何らかの気付きを与える作品だ。SF好きな人には映像表現の作り込みを、こどもは人との交流の大切さを、パパママ世代は我が子と悠真たちの菅田を重ねてグッときたり……。どこに視点を定めるかで最終的な印象も変化するので、何度も繰り返し楽しめる作品だと思う。

確かに2時間の尺に収める都合上、気になる点がないこともない。ただそれ以上に雄弁に訴え掛けるメッセージ性が、心を捉えて離さない。総じて『ぼくらのよあけ』が多くの魅力に溢れた作品であることは、紛れもない事実であろう。

今井哲也原作 映画『ぼくらのよあけ』は、2022年10月21日(金)より日本全国の映画館にて公開される。……本作を観た人々がどんな感想を抱くのか、今から楽しみでならない。

ストーリー ★★★★(4)
多様な関係性を、近未来を舞台に描く独創性は◯。
中盤にかけてのメリハリもしっかりと。
構成としては若干の力技感もあれど、上手く2時間の尺にメッセージを詰め込んでいて好印象。
キャラクター ★★★(3)
主人公の悠真を筆頭に、小学生ならではの無邪気さで思考→行動を繰り返す様は観ていて楽しい。
一方で悠真とナナコ以外のキャラの存在感は少し薄いので、彼らでなければ成立しない何かがあればなお良かったかと。
エンタメ性 ★★★★(4)
SFというテーマへの没入と、それぞれのキャラクターの行動理由にどれだけ納得できるかがカギ。家族や友情といった視点での気付きは多い中で、どこに主軸を置くかで評価が分かれそう。
感動 ★★★★(4)
悠真たちの行動の果てに訪れるクライマックスは感情移入も相まって、素直に感動。それぞれの登場人物の心情を考えると、また新たな気付きも。
総合評価 ★★★☆(3.5)
一見ストレートなSFものと思いきや、その実様々な視点から物語を紡いでいくメッセージ性の強い作品。「もし自分がこのキャラクターの立場だったら……」と、思考を巡らせながら観るのがオススメ。
映画『ぼくらのよあけ』 レビュー(最大星5つ/0.5刻み/9段階評価)

おまけ

映画『ぼくらのよあけ』 作品概要

原作 今井哲也 「ぼくらのよあけ」(講談社「月刊アフタヌーン」刊)
監督 黒川智之
脚本 佐藤大
キャスト
  • キャスト:杉咲 花(沢渡悠真役)
  • 悠木 碧(ナナコ役)
  • 藤原夏海(岸真悟役)
  • 岡本信彦(田所銀之介役)
  • 水瀬いのり(河合花香役)
  • 戸松遥(岸わこ役)
  • 花澤香菜(沢渡はるか役)
  • 細谷佳正(沢渡遼役)
  • 津田健次郎(河合義達役)
  • 横澤夏子(岸みふゆ役)
  • 朴璐美(二月の黎明号役)
アニメーションキャラクター原案
コンセプトデザイン
pomodorosa
アニメーションキャラクター
デザイン・総作画監督
吉田隆彦
虹の根デザイン みっちぇ
音楽 横山克
アニメーション制作 ゼロジー
配給 ギャガ/エイベックス・ピクチャーズ
公開日: 2022年10月21日(金)
関連リンク
劇場アニメーション『ぼくらのよあけ』10月21日(金)全国公開!
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(c) 今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

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キタガワ

島根県在住、会社員兼音楽ライター。rockinon.com、KAI-YOU.netなどに音楽関係の記事を中心に執筆。毎日浴びるほど酒を飲みます。

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