2025年2月1日にユーロスペース、Stranger、K2などで劇場公開される工藤梨穂監督・最新作『オーガスト・マイ・ヘヴン』。第74回ベルリン国際映画祭に出品された本作は、3人の若者たちの夏の日を描いた全40分のショートムービー。
この度、同作の試写をさせていただく機会がありましたので、作品内容について個人的な感想を交えてご紹介します。
監督・脚本 工藤梨穂 映画『オーガスト・マイ・ヘヴン』
2024年2月19日(月)に公開され、この度2025年2月1日に劇場放映が始まる映画『オーガスト・マイ・ヘヴン』。監督・脚本は工藤梨穂監督です。
1995年生まれ。福岡県出身。京都芸術大学映画学科卒業。同大学の卒業制作『オーファンズ・ブルース』が「第40回ぴあフィルムフェスティバル PFFアワード2018」においてグランプリ、ひかりTV賞を受賞。2020年には、PFFが製作から劇場公開までをトータルプロデュースする長編映画製作援助システム“PFFスカラシップ”で『裸足で鳴らしてみせろ』を製作し商業デビュー。
2023年、小津安二郎の初期作品であるサイレント映画群をリメイクしたオムニバス形式のドラマ『連続ドラマW OZU ~小津安二郎が描いた物語~』では、『東京の女』の監督を務めた。
『オーガスト・マイ・ヘヴン』 試写レビュー
2025年1月、劇場公開前に都内某所にて本作の試写をする機会をいただきました。ストーリーの重要な部分は極力語らずに掲載していますが、映画本編を新鮮な気持ちで観たいという方は、『(以下、少しだけストーリーに触れます)』と記載の有る箇所以下はお読みにならないほうが良いかもしれません。
本作の舞台は日本。人々の生活感が感じられる町。アーチのある商店街。町中華や喫茶店が有って……車を走らせると数時間で緑深い山や海にアクセスできる。そんな風景を写したロードムービーです。
主人公は『代理出席屋』という、冠婚葬祭などに親族や恋人、友人を装って出席するという変わった仕事をしている城野譲(じょうの じょう)。そして譲が行きつけの中華料理屋で働く三枝南平(さえぐさ なんぺい)。南平の親友として途中から登場する長谷薫(はせ かおる)の3人。
冒頭は譲の観ている奇妙な夢から始まります。夢の中で譲は、南平ともうひとり……見知らぬ男性と回転式のジャングルジムに乗っています。
ある日『代理出席屋』の仕事で葬儀に参加した譲は、夢の中で見た男性である薫に声をかけられます。薫はどうやら南平と親友であり、譲の事をいづみという人物と勘違いしている様子。彼ら3人は麗しい学生時代を過ごした仲だったようなのですが……。
(以下、少しだけストーリーに触れます)
やがて彼らは、3人で保存したというタイムカプセルを開けに車で旅立ちます。シーンはタイムカプセルを回収する市街、さらに緑が生い茂る山間の草原へと移っていくのですが、どのシーンも映像がとてもカラフルで奇妙な非現実感を伴っていきます。
それらの道中でも薫は、譲を『いづみ』と呼び関わります。薫は過去に仕事中に失踪した事があるようで、今でもメンタルに不調をきたしている事を連想させるのですが、ストーリーが進む過程でその印象も変わっていきます……。
鮮やかでどこか非現実的な映像と、3人の余所余所しい所作や行動にうっすらと違和感を感じていく。そのグラデーション具合も絶妙で、視聴中も色々な事を思いめぐらせてしまい、すっかり作品にのめり込んでいました。
とはいえ、サスペンスのような雰囲気になる作品ではありません。
本作の視聴後に、まず訪れるのは心地よい感覚。そして40分という短い内容に物足りなさを感じ、彼ら3人の旅路をもう少し見せてほしい……長編映画の尺で本格的な青春ロードムービーにしてほしい。そんな風にすら思ってしまいました。
でも、もう少し時間を置いて考えると、冒頭で写される譲の夢の事が気になってきます。なぜ夢の中に、出会う前の薫が出てきたのか――。予知夢のようなものだと割り切る事もできるのですが、「もしかして譲こそが……?」なんて深読みも頭をよぎります。そう考えると、常にふたりのバランスをとるような南平の言動や折々の表情は、必要以上に気を張っていたかのように思えてきて……。
いやいや、考えすぎか。
とにかく、そんな深読みをしてしまいそうにもなるストーリーと演出。40分という時間だからこそ、その余韻と余白を楽しめるのかもしれません。
時間と共に薄れていく麗しい記憶。そしてその記憶を脳が美化しているかのような、鮮やかな映像美。日本の原風景、夏の暑さ、友人達と青春……そんなキーワードを連想する作品でした。
Roadsteadオリジナル映画『オーガスト・マイ・ヘヴン』は、2025年2月1日(土)より劇場公開されます。
現在確定している劇場は下記のとおり。
- ユーロスペース 東京都 渋谷
- Stranger 東京都 菊川
- シモキタ – エキマエ – シネマ『K2』 東京都 下北沢
- 出町座 京都市
- ほか
放映情報などの詳細は、作品公式のXアカウントなどで知る事が出来ると思います。