映画『コンビニエンス・ストーリー』試写レビュー 奇妙な世界と六角精児の不気味さが映える

評価:3.5 

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仕事や私生活に行き詰まっている時。ふとしたきっかけで異世界に迷い込み、妖艶な人妻と駆け落ちする事に……。そんな羨ましいような、大変そうな、様々な感情が混沌と渦巻く映画『コンビニエンス・ストーリー』が2022年8月5日(金)に公開されます。

映画『コンビニエンス・ストーリー』レビュー|シュールな世界観に六角精児の不気味さが映える

私達にとって身近であるコンビニエンス・ストアを切り口に、現実と異世界のミステリアスな世界観を描くのは三木聡監督。『時効警察』シリーズをはじめ、『KAT-TUN』の亀梨和也がどんどん増殖していくサスペンス映画『俺俺』(2013)、近年では賛否を巻き起こしたことも記憶に新しい『大怪獣のあとしまつ』(2022)なども手掛けています。

そして本作『コンビニエンス・ストーリー』も、独特の会話劇で癖の強い登場人物達の思惑が交差する、不可思議な世界観の作品です。

本作の主人公であり、スランプ真っただ中の脚本家・加藤を演じるのは『スマホを落としただけなのに』(2018)、『まともじゃないのは君も一緒』(2021)など、多様な役を演じてきた成田凌。本人曰く、デビュー前から参加したかったという三木監督の作品に初出演です。

ヒロイン役・惠子には元AKB48であり、現在はメジャーからマイナー作品まで幅広く出演している前田敦子が抜擢。これまでにはない人妻お姉さんキャラを熱演しています。

その夫・南雲役は、名バイプレーヤーの六角精児が演じます。惠子とは歳の差夫婦ですが、違和感がそれだけにとどまらず……?

脇を固めるキャストも魅力的で、加藤の恋人で役者志望の女性・ジグザグ片山友希。彼女が出演することになる映画の監督を渋川清彦。そしてそのプロデューサー役を、三木監督作の常連でもある岩松了が演じました。

8/5(金)公開 映画『コンビニエンス・ストーリー』予告篇
映画『コンビニエンス・ストーリー』予告篇
タイトル コンビニエンス・ストーリー
公開日 2022年8月5日(金)
本編 97分
監督・脚本 三木聡
企画 マーク・シリング
出演 成田凌、前田敦子、六角精児、片山友希、岩松了、渋川清彦、ふせえり、松浦祐也、影山徹、シャラ ラジマ
制作 日本(2022年)
公式Web
関連リンク
https://conveniencestory-movie.jp/

映画『コンビニエンス・ストーリー』あらすじ

スランプ中の売れない脚本家、加藤(成田凌)は、ある日、恋人ジグザグ(片山友希)の飼い犬“ケルベロス”に執筆中の脚本を消され、腹立ちまぎれに山奥に捨ててしまう。後味の悪さから探しに戻るが、レンタカーが突然故障して立ち往生。霧の中のたたずむコンビニ「リソーマート」で働く妖艶な人妻・惠子(前田敦子)に助けられ、彼女の夫でコンビニオーナー南雲(六角精児)の家に泊めてもらう。しかし、惠子の誘惑、消えたトラック、鳴り響くクラシック音楽、凄惨な殺人事件、死者の魂が集う温泉町……加藤はすでに現世から切り離された異世界にはまり込んだことに気づいていなかった。

コンビニエンス・ストーリー 公式サイトより

企画のはじまりは震災時のコンビニ

(c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会
(c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

『コンビニエンス・ストーリー』の企画は東京で映画評論家として活動し、三木監督作品のファンでもあるマーク・シリング氏が執筆した短編がきっかけとなっているそうです。

東日本大震災の折、近所のスーパーには商品がない中で唯一買い物ができた場所がコンビニだったことから「世界がコンビニ一軒になっても、そこで生活ができる」という本作のベースとなるアイデアが生まれたとの事。

異世界も現実世界も奇妙……独特な空気感が漂う作品

(c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会
(c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

『コンビニエンス・ストーリー』は、主人公加藤が現実世界のコンビニで遭遇する『ある出来事』が起点となり、異世界のコンビニに迷い込みます。そして作中幾度となく異世界と元の現実世界が入れ替わり映されるのですが、その現実世界もどこか異様で突っ込みを入れずにはいられません。(笑)

主人公加藤の恋人の名前は『ジグザグ』。飼い犬の名前は『ケルベロス』(可愛らしい白の雑種犬なのですが)。そして犬に与える瓶入りのエサの名は『犬人間』(キャットフード『猫人間』も売られている)。

また、ジグザグが行方不明となった加藤の探索を依頼する2人組の男(松浦祐也、BIGZAM)は探偵なのか殺し屋なのか分からない風貌……いや、四捨五入で殺し屋寄りです。

加藤の脚本に興味を示すプロデューサー(ふせえり)は骨折レベルのパワハラを放ち続け、それを顔色一つ変えずに受け続けるアシスタント(藤間爽子)、妙な映画撮影、黒縁眼鏡の男、謎の老婆……など変なところを挙げるときりがありません。

過去作一のだらしなさ? 成田凌がスランプ気味の脚本家を熱演

とまあ、本作にはかなり癖の強い登場人物が多いのですが、比較的マトモ=アブノーマルな要素が少ないのが成田凌演じる主人公加藤

(c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会
(c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

「主人公が一番普通ってどうなの?」と思うかもしれませんが、周りが変なヤツばかりなので、その存在感がかえって際立っています。

仕事はスランプ気味、恋人との関係もうまくいかず、せっかく書いた脚本は飼い犬に消されてしまう。人生が上手くいかない様子は、ある意味で一番共感しやすいキャラかもしれません。

思えば、成田凌の過去作を振り返ると、意外にもクセの強い役も演じてきました。『まともじゃないのは君も一緒』では、風変りでどこかズレていて(それでいて憎めない)青年を演じ、『スマホを落としただけなのに』では、続編も含めて観客の記憶に残る強烈な演技を見せていました。最近では某宝くじのCMで、やたら他人を論破しては叱られてシュン…とする姿も印象的です。

『コンビニエンス・ストーリー』では、そのどれにも当てはまらない、誰しも抱える可能性がある人生のモヤモヤを体現した人物を演ずる姿は必見です。

意外とはまり役? 前田敦子演じる妖艶な人妻

主人公・加藤を誘惑するミステリアスな人妻・惠子を演じたのは元AKB48、自身もかなりのシネフィルとしても知られている前田敦子です。

恵子役の前田敦子。
c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会
(c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

表情をあまり変えず淡々と話すその演技は圧倒的”魅惑のお姉さん“感。筆者は前田敦子と同じ1991年生まれですが、本作を通して見ると歳上の女性に思えました。

惠子のようなキャラは意外とハマり役なのかもしれません。

六角精児演じる南雲がずっと怖い

個人的に1番の推しキャラが誰かと聞かれたら、六角精児が演じる南雲と答えます。加藤が迷い込んだ異世界のコンビニの店長である彼について、公式サイトの肩書を借りるなら『コンビニオーナーで束縛系変人夫』という、1人に背負わせるには重すぎる情報量(しかも全部事実)。

(c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

この南雲という男、いわゆる『ホラー的』な怖さではなく、何を考えているかさっぱり分からない系の不気味な怖さを終始放っています。

かと思えば、成田凌の股間を見つつ笑顔で下ネタを急にぶっこん出来たり……思わず笑ってしまいましたが……実際に自分が言われたらすごく嫌な気持ちになる事でしょう(笑)。

そもそも、恐ろしいほど過疎っている場所でコンビニ経営をしながら暮らすのが謎なのですが、彼のコンビニでは過去にバイトしていた青年の右腕が無くなった事もあるのだとか。どんな職場だ……。

森でスピーカーを演奏者に見立てて指揮者を務めるという、特殊な趣味も意味不明。作中でこれまで以上に惠子を束縛するためのある『提案』も不気味で、かつ妙なリアリティがあり気味の悪さに拍車をかけます。

(c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

『コンビニエンス・ストーリー』まとめと総合評価

『コンビニエンス・ストーリー』は2022年8月5日(金)テアトル新宿他、全国の劇場で公開されます。

不可思議な世界観とアクの強い登場人物がだらけの作品ですが、とはいえシュールな会話劇や下世話な下ネタなど思わず吹き出してしまうような場面もあり、決して取っつきにくい作品ではありません。

大きな出来事が起きる場面では必ずゾロ目の数字が関係していたり、南雲の胸に謎のタトゥーが入っていたりと、思わせぶりな要素も散りばめられています。筆者はゲラゲラ笑って色々とスルーしてしまうタイプなのですが、公開後の皆さんの意見や考察にも注目したいところです。

ストーリー ★★★(3)
難解。とはいえ最後にはしっかり結末が描かれる
キャラクター ★★★★(4)
クセのすごいキャラが勢ぞろい! 筆者の推しキャラは南雲
ケルベロス(犬) ★★★★★(5)
可愛い。実家とかで飼われていそうな、純朴な可愛さがたまらない
難解さ ★★★★(4)
かなり意味深な演出や設定が多くあり、考察も楽しみ
総合評 ★★★(3.5)
キャラクターやセリフ、演出が独特なので、好き嫌いがはっきり分かれそうな作品。
不条理で奇妙な作品と、それを考察するのが好きな人なら特におすすめ
映画『コンビニエンス・ストーリー』のレビュー (最大星5つ/0.5刻み/9段階評価)

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ヤマダマイ

レンタルビデオ店、ミニシアター勤務を経てライターをしています。 『映画board』でも執筆中です。面白い映画をわかりやすい内容で紹介していきます。でも本職は2匹の猫(キジ白、牛柄)の下僕。

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