『Vallée Duhamel』の映像作品と、オスカー受賞短編映画『TANGO』に見る予定調和と緊張感。

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中島 功二

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カナダはケベック州を拠点としているVallée Duhamelというスタジオをご存じでしょうか。

その名の通り、Julien ValléeEve Duhamelの二人が中心となったスタジオで、Eveはビジュアルアート、Julienの方はグラフィックデザインという、それぞれ異なるバックグラウンドを持ったクリエイターです。

アップル、エルメス、グーグル、MTV……と名だたるクライアントワークを手掛ける彼らの作風を表すなら、彼ら自身が『High class lo-fi.』と提唱する手作感のあるビジュアルと高品質な表現。そして遊び心のある実験的な作業アプローチ、インスタレーション、カラフル、シュール、そしてコンセプチュアルという言葉が当てはまります。

作品を作るプロセスとしては『コンセプト』を第一に考え、発表するメディアなどについてははそのコンセプトによって決まっていくそうです。また、ストップモーションやライブアクションなど幅広い表現手法を使っているのもメディアやコミュニティの枠にとらわれないという点が大きく関係しているのでしょう。

今回はそんなユニットVallée Duhamelスタジオによる動画作品をみてみましょう。

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Offf Barcelona – Main titles

これはOFFF Barcelona 2017(web)の、トークイベント・オープニング動画として制作されたものです。

制作に5ヶ月以上の時間費やしたというこの作品は、非常にコンセプチュアル、かつエレガントな印象を受けます。

動画の直接のインスピレーションとなったのは1982年に制作されオスカー賞も受賞したポーランドの監督Zbigniew Rybszynskiによって制作された『TANGO』というショートフィルム。そのオマージュです。(※Offf Barcelona – Main titles Vimeo 解説より

TANGO (Zbigniew Rybszynski)

こちらは、重厚なタンゴに乗せて部屋の中を多くの人物が行き交う光景を組み合わせています。言葉には言い表せない得体のしれない楽しさ、魅力を感じてしまう作品です。

シンプルな構成の『TANGO』の何が見る者を惹きつけるのでしょうか? 音楽、色彩、角度……さまざまな要素の中でも、ここでは『観測者が感じるふたつの緊張感』をピックアップしてみましょう。

ひとつには、多数の人間を定点から観察し続けることによって生まれる緊張感です。

個々の登場人物は画面へ現われては単純な動作を繰り返し続けますが、次第にその出演者は増えていきます。そしていつしか視聴者は個々を追いきれなくなり全体を俯瞰で眺めるか、特定の人物に絞って動きを観測するかと迷い、戸惑い『カオスを感じる事で発生する緊張感』

ふたつ目は複数の人間がある一定の動作を繰り返す中で互いにまったく関係性を持たずにその動作を繰り返すことで起きる『予定調和の崩壊する可能性』に対する緊張感です。

動画をはじめから見続ける事で、登場人物はそれぞれの動作を繰り返しするだけである事を認識します。そして次第に「そのルールからは離れるはずはない」と我々認識していきます。所が登場人物が増えいくにつれ、心の何処かで「これだけの人間が狭い空間で、こんなにも密集すると、何かの拍子に干渉が起こり、とてつもない変化があるのでは……?」というような期待を微かに抱くのではないでしょうか。

結局その期待は裏切られるわけですが、そういった緊張感を感じさせる要素を常に帯びており、これがこの映像の面白さにつながり多くの人の興味を引くことに成功したのです。

閑話休題

話はVallée Duhamelに戻り、そんな緊張感をはらんだ作品である『TANGO』をオマージュし、その現代版を作りたいという思いから冒頭に紹介した動画を制作したそうです。

作業にあたっては現代的にAdobeのAfterEffectsが使われています。

コンセプトは踏襲しつつ、BGMは現代的となり、映像のタッチは2人の特徴である「カラフルさ」や「シュールさ」など美的なセンスに溢れています。

『TANGO』の緊張感を引き継ぎつつ、より登場人物のの動きやコスチュームに特徴を与え、大小さまざまな人物が登場したりとファンタジー色が強くなっています。また後半にアングルや場面の転換が加えられています。

以上で、発表以来さまざまなオマージュが作られる『TANGO』と、その文脈や緊張感を踏襲し、新しい変化を加えた現代的アート作品とVallée Duhamelのご紹介を終えたいと思います。

彼らのポートフォリオをもっと見たいという方はオフィシャルwebサイトやVimeoから見ることができます。

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中島 功二

フリーランスの翻訳家兼ライター イギリスのArt University Bournemouthでプログラムを駆使した映像制作を研究&制作。 音楽、映像、アニメ制作、プログラミングなどなんでもござれ。 でも趣味はサーフィンで基本的に世界中の波を追いかけている。

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