日本の漫画家と漫画業界を描いた漫画作品【後編】近代の漫画から現代を描いた おすすめ作品
日本の漫画家と漫画業界を描いた漫画作品【後編】近代の漫画から現代を描いた おすすめ作品10選 ※この画像はAIによって生成したものを加工しています

漫画家やマンガ業界を描いた漫画作品【後編】近代から現代 おすすめ作品

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当記事では【前編】から引き続き日本の漫画家と漫画業界を描いた漫画作品についてご紹介していきます。より近代・現代に近い時代を描いた作品が登場し、『漫画』や『文化』、さらに漫画家の働き方といったものも変わってきている事をうかがい知る事ができるでしょう。

漫画家や漫画業界を描いたおすすめ漫画作品【後編】

『燃えよペン』『吠えろペン』『新・吠えよペン』(著:島本和彦)

東京にある『炎プロダクション』の炎尾燃(ほのお もゆる)は、異常なまでの熱意を込めて漫画を描くプロ漫画家。

燃えよペン 画像 Amazonより
漫画家稼業は戦いだ!
燃えよペン
画像 Amazonより

たとえば『効果的な集中線』を描くためには、わざと大切なものを壊してそのショックをペンに込めて描く。たとえば担当編集者との打ち合わせなら、相手と決闘をする心境で臨む。迫りくる締切に全力で抗い、漫画を描けない時には息が詰まるほどに苦しむ……。そんな異常な漫画家の日常(?)を、文字通り昭和のスポ根漫画やバトル漫画のようなテンションで描く作品。

もちろんそれらは行き過ぎた漫画的表現であり、徹頭徹尾フィクションなのですが、だからこそ漫画を描くという事がとてつもなくハードな作業である事が伝わります。暑苦しいまでに熱い漫画業界の漫画を読みたいという方であれば、間違いなくお勧めの作品。とはいえ本作の作者・島本和彦にとっては、日々がこの漫画のような戦いなのかもしれません。

なお、『燃えよペン』は一巻で終了したのち、タイトルが『吠えよペン』に変えて連載。その後『新・吠えよペン』と続き完結しました。

※さらに2021年から不定期連載で『吼えろペンRRR』が開始しています

本作は【前編】の最後に紹介した『アオイホノオ』(2008年連載開始)より前に島本和彦が描がいた作品ですが、アオイホノオが島本和彦をモチーフにした学生時代を描いているのに対し、『燃えよペン』(1990年)、『吠えろペン』(2000年)、『新・吠えろペン』(2004年)はいずれもデビューしているプロ漫画家としての日々を描いています。

いずれの作品も主人公名の名前は『ほのお もゆる』ですが、漢字が異なります。(アオイホノオ=焔燃、燃えよ/吠えろ/新・吠えろ/吠えろペンRRR=炎尾燃)。

『サルでも描けるまんが教室』(著:相原コージ、竹熊健太郎)

漫画家、相原弘治と竹熊健太郎は、とあるアパートの一室で、自分たちの野望について語っていました。それは日本を征服するほどの強大な漫画を作るという野望でした。

漫画家相原コージと、サブカル界で有名な評論家・竹熊健太郎がタッグを組んで描いた本作は、『サルまん』の略称でしられる作品。ふたりは、日本を征服する漫画と=面白い漫画をいかにして作るのかを議論します。ペンネームの作り方、線の引き方、ギャグの作り方、アイディアの出し方に至るまで徹底的に。

当初は、『野望の王国』という漫画のパロディ風に、漫画界のお約束、定番について徹底的に語り明かす内容でしたが、徐々に狂気の世界に入っていきます。本作は1989年から1991年まで連載された作品ですが、その後2007年に『サルまん2.0』という作品が公開されますが、こちらは程なくして終了してしまいました。

『編集王』(著:土田世紀)

網膜剥離によりプロボクサーを引退した主人公・桃井環八(モモイ カンパチ)は、幼馴染での計らいで出版社にアルバイトとして雇われることになります。そこでカンパチが目の当たりにしたのは、出版業界の真実でした。

編集王 1巻 画像 Amazonより
編集王に俺はなる!?
編集王 1巻
画像 Amazonより

アンケートやデータの偏重、性描写ばかりで中身のない漫画、傍若無人で困った漫画家たち。カンパチはそれらの問題に体当たりでぶつかっていきます。暑苦しいところもあるカンパチですが、常に問題と真正面に向き合う姿勢はなぜか魅かれるものがあります。

資格も能力もないけれども、仕事に対して前向きに取り組む彼のような存在は、現代にこそ必要な存在ではないかと思ってしまいます。

補足:『編集王』に登場する出版社は……

『編集王』の主人公が勤める出版社の名は、『支配社』という名前ですが、これは『サルまん』にも出てくる架空の出版社です。

『かくしごと』(著:久米田康治)

女子小学生・後藤姫(ごとう ひめ)は、父親が何の仕事をしているのか知りません。ただ、いつもスーツ姿で出勤しているということだけはわかっています。一方。彼女の父親である後藤可久士(ごとう かくし)は、仕事場に到着するとスーツからアロハシャツに着替え……

かくしごと 1巻 画像 Amazonより
家族に言えない仕事もある
かくしごと 1巻
画像 Amazonより

そう、後藤可久士の本当の職業は漫画家。それもちょっとキツイ下ネタをもあるギャグ漫画家。そんな自分の仕事を娘に知られないように、サラリーマンを装いスーツ姿で出勤していたのです。

本作は『さよなら絶望先生』『かってに改蔵』などのヒット作品を描いてきた久米田康治の作品。主人公である後藤可久士が、娘に自分の仕事を隠し通すために四苦八苦する姿がコミカルに描かれています。シニカルな雰囲気の物語と感じた一方、サラリとして読みやすい作品です。

2020年にはアニメ化もしています。

『そしてボクは外道マンになる』(著:平松伸二)

本作は『ドーベルマン刑事』『ブラック・エンジェルズ』などを描いてきた漫画家・平松伸二の半生が描かれています。70年代、平松伸二は、少年ジャンプの編集者、権藤狂児に見出されて『ドーベルマン刑事』の連載を開始することになりますが、この時から平松の苦難と怨嗟に満ちた漫画家人生がはじまります。

そしてボクは外道マンになる 画像 Amazonより
友情、努力、勝利の裏側はドロドロしていた…
そしてボクは外道マンになる
画像 Amazonより

純粋な漫画青年だった平松は、編集者たちに罵倒されていくうちに、どす黒いパワーが宿り、名作を生み出していきます。悲しいかな、外道になることで名作を生み出すという才能があったのです。

ちなみに、タイトルになっている『外道マン』とは、編集者らに対する恨みから生まれた平松の概念的な存在です。そのためか、本作に登場する編集者たちはその悪意が込められたかのように描かれています。

『先生白書』(著:味野くにお)

本作においての『先生』とは、『HUNTER×HUNTER』を描く漫画家・冨樫義博のこと。その先生の元で実際にアシスタントをしていた味野くにおによって、制作現場の環境や富樫先生の人柄について語られています。

先生白書 画像 Amazonより
あの先生はちゃんと仕事をしていた
先生白書
画像 Amazonより

作者がアシスタントをしていたのは『先生』が『幽遊白書』から『レベルE』を描いていた頃で、その当時は長い休載をせずに執筆をしていました。ただ仕事に対しては細部に至るまでこだわりを持つ作家でしたが、週刊連載だとそれもままならない事があったようです。

また、『先生』がとても穏やかな人である事も本書で語られています。大変なゲーム好きで、テレビゲームや麻雀卓も作業場に有ったそうで、漫画で描かれている制作現場は平穏で楽しそうに見えるのですが、この当時から腰を痛めていた事にも触れられており、そんな中でも原稿に追われていく週刊連載の大変さが伝わるエピソードも。

人気漫画家の近くでその仕事を見ていたアシスタントからこそ知る事のできた『先生』の人物像が伝わる作品です。

『かくかくしかじか』(著:東村アキコ)

女子高生の林明子は美大に入ろうと思い、地元の絵画教室に通うことになりますが、そこにいた絵の先生である日高はスパルタ指導で有名な人物でした。

かくかくしかじか 1巻 画像 Amazonより
ここまで来れたのはあの先生のおかげ
かくかくしかじか 1巻
画像 Amazonより

東村アキコの自伝漫画ですが、重点を置いて語られているのは作者の恩師である日高建三です。この先生の指導は厳格で、上から目線でダメ出しを連発したうえ、女の子をからかうなど、無神経な一面を持った人物のようです。ただし、基礎をしっかり教えてくれる人物だったようで、作者が美大に入れたのもこの人のおかげと言えます。

本当にこの通りの人物だったのか、フィクションなのかは不明ですが、個人的にはお世辞にも良い感情は抱けませんでした。実際に出会ったいたら、それこそ外道マンになってしまうかもしれません。

『バクマン。』(原作:大場つぐみ/作画:小畑健)

真城最高(ましろもりたか=サイコ―)は絵の才能がありましたがそれを生かせず、退屈な日々を送っていました。そんな時、彼は学校一の秀才・高木秋人(たかぎあきと=シュージン)と出会います。サイコーの才能に惚れこんだシュージンは、共に漫画家となる道を提案。紆余曲折の末、二人は漫画家を目指すようになります。

バクマン。 1巻 画像 Amazonより
爆誕! 21世紀版 まんが道
バクマン。 1巻
画像 Amazonより

『DEATH NOTE』のヒットでも有名絵・小畑健、ストーリー・大場つぐみのコンビによる作品で、彼らと同じく原作と作画というタッグで漫画家になる少年達と、漫画の制作現場がリアルに描かれている作品。

連載当時から話題をあつめ、アニメ化もされたヒット作品。見方を変えるとセリフをちりばめたコマが多く、少年マンガらしい勢いのある内容ですが、ややせわしないという感も。

『ルックバック』(著:藤本タツキ)

漫画好きの女子小学生・藤野は、学級新聞に自分の描いた漫画が張り出され、皆に読まれる事を楽しみにしていました。ところがある日、自分より絵の上手い漫画が掲載される事があり、藤野はショックを受けます。その作者は京本という不登校の女生徒でした。

ルックバック 画像 Amazonより
四コマ漫画でつながった二人の絆
ルックバック
画像 Amazonより

やがて、卒業式の日。藤本は卒業証書を京本の家に届けに行く事になり、そこで初めて京本と出会うのですが……。

『チェンソーマン』の作者藤本タツキが描いた単巻のみの本作。序盤は二人の少女が漫画家を目指していく青春ドラマのような内容ですが、後半にかけて物語は一変し衝撃的な展開を迎えます。

丁寧に描かれたストーリー展開と結末と、描こうとしている事がすんなりと心に入ってくるかのような読後感。完成度の高い作品です。

『飯田橋のふたばちゃん』(原作:横山了一/作画:加藤マユミ)

コミリア学園に通う女子高生・双葉ちゃんには個性的な仲間がいます。スポーツ万能の講談ちゃん、ゆるふわ系の小学ちゃん、優等生の集英ちゃん。そう、彼女たちは、出版社を擬人化したキャラクターです。

飯田橋のふたばちゃん 1巻 画像 Amazonより
見た目は可愛くても出版社
飯田橋のふたばちゃん 1巻
画像 Amazonより

双葉ちゃんが主人公であることをからもわかるように、本作は2012年に双葉社で連載された作品です。漫画のパロディだけでなく、引き抜き、休載、などなど出版業界のきわどいネタも描かれています。

また『商業誌』を擬人化しているためか、可愛らしい見た目とは裏腹に、とてつもなくえげつない性格をしているキャラクターばかりなのも特徴。きわどいギャグに笑いつつも、どことなく背筋が凍えるものを感じてしまう人も少なくないでしょう。

まとめ これからの漫画はどうなる?

平松伸二が『ドーベルマン刑事』を連載していたのは1970年代で、当時のジャンプはまだ実験的な作品の方が多かったようですが、徐々にヒット作が出てくるようになります。手塚治虫は亡くなり、冨樫義博ら実力のある若手が黄金時代のジャンプを築き上げ、漫画をとりまく時代背景も大きな転換期を向かえます。

漫画業界に興味を持つ若者が現れはじめたのか、『サルまん』や『燃えよペン』のように、漫画制作や現場のことを語る漫画も多く描かれている事もわかると思います。漫画というコンテンツは大変な繁忙期を迎えるようになりましたが、出版界としては中々語りつくせないような陰や黒い一面もあったようです。

『編集王』では1990年代にあって好景気だった出版界のシビアな事情を描いていますし、2010年代には『飯田橋のふたばちゃん』のように、業界を風刺した作品まで現れました。『ルックバック』では、コンピューターで漫画を描いている場面も登場しているように、工場制手工業であった漫画も多様な変化を見せ、作品発表の場も誌面だけでなくWEBに移ろいつつあります。

SNS漫画や、スマートフォンに特化した縦書き漫画などなど……。漫画という業界も今後大きな変化を遂げていく事が予想されます。

日本の漫画家と漫画業界を描いた漫画作品【後編】近代の漫画から現代を描いた おすすめ作品

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蔵無

漫画考察者、ライター。80年生まれ、90年代育ち。尊敬している漫画家は水木しげる、荒木飛呂彦。好きな作家は江戸川乱歩。

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