ドキュメンタリー『くるりのえいが』試写レビュー 森信行を加えたオリジナル3人で創る『感覚は道標』 場面写真、PVと共に
ドキュメンタリー『くるりのえいが』試写レビュー ©2023「くるりのえいが」Film Partners

『くるりのえいが』レビュー 森信行を加えた3人で創る『感覚は道標』制作ドキュメンタリー 場面写真、PVと共に。2023年10月13日公開作品

評価:4 

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キャリアは25年を超え、アルバムリリースはEPやインディーも含め計28枚にも及ぶロックバンド『くるり』。音楽の探求とも言える斬新な試みでリスナーの耳に新しい感動を音楽を届け続けている彼らの新たな一手が明らかになった。それこそが10月13日より全国公開となるくるり初のドキュメンタリー映画、その名も『くるりのえいが』。

今回この作品を試写にて鑑賞する機会をいただいたので、僭越ながらその魅力を複数の項目に分けてについてレビューしていこうと思う。ひと言でいうなれば、ファンであれば必見の作品だ。

『くるり』の全てに迫るドキュメンタリー 『くるりのえいが』試写レビュー

『くるりのえいが』本予告
『くるりのえいが』本予告

そもそも、バンド『くるり』とは?

映画についての感想を記す前に、まずは『くるりとは何ぞや?』という前提的な紹介を記しておきたいと思う。くるりは1996年に京都で結成されたバンドで、現在は岸田繁(Vo.G)と佐藤征史(B)を中心にライブや音源制作を行っている。彼らの存在は2000年以降の日本国内のロックシーンにおいて重要な存在であり続けており、現在でも野外フェス『京都音楽博覧会』を主催するなど精力的に活動中のアーティストだ。

くるり – 京都音楽博覧会2021 | Trailer
くるり – 京都音楽博覧会2021 | Trailer

しかしながら彼らの活動を通して見たとき、その時々で大きな変遷を辿ってきたバンドでもあった。特に大きな変化として筆者の目に映っていたのはふたつ挙げられる。

ひとつは、バンドメンバーの入れ替わりだ。今でこそくるりは岸田と佐藤の2名だけれど、キャリアの中では5人になったり3人になったりと、アルバムが発売されるたびに人数が移り変わる時期も長かった。今は結果として岸田と佐藤で元の鞘に収まった感はあるものの、彼らが折々においてバンドの変革を試みていたことは理解しておく必要があるだろう。

そしてもうひとつは、サウンド面の変化。結成当初スリーピース(3人編成)バンドだったくるりのサウンドは、シンプルなロックサウンドだった。けれどもメインソングライティングを務める岸田はアルバムを作るにつれ、音の表現やバンドの曲構成のセオリーを変え、音楽の可能性を模索し、時に遊び心溢れる曲作りを行うようになっていった。

いくつか具体的に挙げるならば『everybody feels the same』という曲はサビが最後の1節だけしか出てこない、トリッキーな楽曲だ。

くるり – everybody feels the same
くるり – everybody feels the same

また、『chili pepper japones』という楽曲はタモリ倶楽部の空耳アワーの逆パロディとも言える内容だ。(このミュージックビデオには実際に空耳アワーに出演していた俳優達がキャスティングされている)

くるり – chili pepper japonés
くるり – Liberty & Gravity

その他にも『Liberty & Gravity』のようなユニークなリズムの楽曲や、『ソングライン』のような多様な(その数100!)トラックを使った楽曲構築など、その手法やスタイルは千変万化していると言える。

くるり – Liberty & Gravity
くるり – Liberty & Gravity
くるり – ソングライン

くるりをよく知らないという人でも、これらの公式MVを見るだけで、その多様さに驚かされる事だろう。彼らが常に音楽への探究心と経験を組み合わせ、変化してきたバンドであるということも押さえておきたい。

三人に戻ったくるり

©2023「くるりのえいが」Film Partners
左から佐藤征史、森信行、岸田繁
©2023「くるりのえいが」Film Partners
左から佐藤征史、森信行、岸田繁

そして2023年は予想外の一報で、往年のファンを驚かせることとなる。それは結成当初のオリジナルメンバーであった森信行(Dr)との再タッグで制作した新作アルバム『感覚は道標』を10月4日にリリースするというもの。

森が正式に(※)くるりと歩みを共にするのは、2002年に脱退してからなんと約21年ぶりの出来事となるのだ。

※脱退後、楽曲への参加やライブなどへの参加する事はあった

21年の時を経て、また3人でアルバムを作り上げる くるり
21年の時を経て、また3人でアルバムを作り上げる くるり
©2023「くるりのえいが」Film Partners

これがどれほど衝撃的なことなのかは、くるりを追い続けている人であればあるほど理解出来るはず。

そして同時に「でもなぜ今、3人でアルバムを作ろうと思ったのか?」という気持ちもあるだろう。もちろんその音楽的な答えは来たる新作アルバム『感覚は道標』に込められている事であろうが、より深く背景を読み解くのに重要な要素がこの『くるりのえいが』なのである。

『くるりのえいが』本編映像【「In Your Life」スタジオセッションシーン】
『くるりのえいが』本編映像【「In Your Life」スタジオセッションシーン】

見所その1 スタジオでの制作風景

さて、ここからは肝心要の映画本編について記していこう。繰り返しになるが、この映画が描いているのはニューアルバム『感覚は道標』の制作風景だ。自然に囲まれた伊豆スタジオを拠点に3人がどのようにして楽曲を生み出していくのかに焦点を当てたドキュメンタリー映画である。

なお、ドキュメンタリーではあるものの、テロップやナレーションは皆無だ。徹頭徹尾、彼らのありのままだけを映し出した1時間41分の作品となっている。

スタジオでの作曲・セッションの様子を知る事ができる
©2023「くるりのえいが」Film Partners
スタジオでの作曲・セッションの様子を知る事ができる
©2023「くるりのえいが」Film Partners

前述のとおりくるりはアルバムごとに柔軟な制作姿勢で臨むバンドなのだけれど、これらの曲がどう作られているのかをリスナーが知る機会は少なく、せいぜい音楽誌のインタビューなどで断片的に明かされる程度だった。それが今回の映画では、スタジオでの生活やレコーディング、さらにはアルバムタイトルを決める瞬間をも捉えた、ファン垂涎ものの記録となっている。

中でも印象深く映ったのは、3人だけで合わせるスタジオのシーン。そこには今作のリード曲に位置する『In Your Life』と『California coconuts』といった楽曲を演奏する様子が収められている。映画の中ではこれらの曲を実際に構築する段階……当然歌詞もサウンドも定まっていない……3人で意見を出し合いながら制作を進めていく姿を垣間見る事ができるのだ。

岸田の「ノリノリに」「ブギーな感じで」といった抽象的な要望に答える佐藤と森。歌詞の全くない状態で「ラレラレ」の仮歌で歌う岸田。くるりがどのようなプロセスを経て楽曲を完成させているのか……、その詳細を是非とも映画で確認してもらいたいところだ。

見所その2 レコーディング風景

セッションによる制作過程を経て、レコーディングのシーンも映し出される。

3人が一斉に「せーの」で音を鳴らすスタジオ練習とは違い、現場ではヘッドホンから流れる音を聴きながら、それぞれがのトラックを収録していく。それを別室で待機しているメンバーが「もっと◯◯な感じで」と入念にブラッシュアップしていく……言わばアルバム作りの最終段階だろう。

スタジオでのセッションが若干リラックスしていたのとは違い、レコーディングは全員が全ての音を集中して聴いて指示を出す、非常に真剣な時間。加えて、くるりの場合は岸田の歌詞制作もほぼ同時進行で始まるので、鑑賞するこちらも思わず息を飲むほど、緊迫する場面が続いていく。

©2023「くるりのえいが」Film Partners
©2023「くるりのえいが」Film Partners

この瞬間にカメラが入ることは世のアーティスト全体を考えてもレアであるが、こうした光景を表に出さないできたくるりならなおさら貴重である。ファンのみならずとも彼らの音楽への情熱に迫ることのできる、素晴らしいシーンだ。

見所その3 ライブハウス拾得での記念公演も収録

この映画では、50周年を迎えた京都のライブハウス 拾得(じっとく)で2023年2月28日に行われた記念公演の一部も収められている。

『拾得』はくるりが大学時代に演奏していた場所であり、この日のステージに立ったのも同じく大学時代のメンバーである岸田、佐藤、森の3名だ。貴重なチケット争奪戦を勝ち抜き、幸運にも実際にライブを現地で楽しむ事が出来た人は(コロナ禍の人数制限により)約80名程度という。しかもこのライブが映像化されるという情報は今のところ無い。つまり非常に貴重なライブ映像なのである。

また、このライブが開催された時点では森と共にレコーディングがなされているという事は公開されていない。まさか数か月後にオリジナルメンバーでのニューアルバムがリリースされる何てことを予想していたファンは(ほとんど)居なかったはずだ。

この日は新曲としてアルバム収録の『California coconuts』、『window』、『世界はこのまま変わらない』や、『ロックとロール』なる曲も演奏している。

見所その4 プライベートのくるり

本作には彼らの日常感も垣間見る事ができる。レコーディングと聞くと、缶詰状態でストイックになるようなシチュエーションばかりイメージしてしまうが、この映画での彼らはリラックスしているシーンも多い。

作中で度々、この部屋でコミュニケーションをとる姿が映される ©2023「くるりのえいが」Film Partners
作中で度々、この部屋でコミュニケーションをとる姿が映される
©2023「くるりのえいが」Film Partners

スタジオというよりは民宿のような雰囲気さえ漂う環境で、時に雑談し、ビールを飲み、時には海や山を散策してみたり。彼らの楽曲にも散りばめられたどこか日常的な空気感をもこの映画はリアルに映し出している。

©2023「くるりのえいが」Film Partners
©2023「くるりのえいが」Film Partners

3人で語り、笑い合うその姿には、まだ音楽に趣味として関わっていたであろう彼らの大学時代を連想せずにはいられなかった。

作中に登場する楽曲解説

『くるりのえいが』では、新譜『感覚は道標』に収録予定の楽曲のほか、代表曲のミュージックビデオやライブ演奏なども楽しめる。この記事が彼らに新たに興味をもってくれる人々の目に触れる事も想定して、各楽曲が登場する順に簡単なご紹介をしたいと思う。

ばらの花(2001年)

ファンにとっては言わずと知れた代表曲のひとつ。令和5年度(2023年)の高校教科書にこの楽曲が掲載されたりといったニュースも耳に新しい。

くるり – ばらの花
くるり – ばらの花

導入でこのMVと共に彼らの過去と現在についての想いが語られるシーンがあり、否が応でもテンションが上がる。

東京(1998年)

無機質にも思える東京での生活と、在りし日の『君』との生活を対比させたくるり屈指の泣きメロアンセムであり、彼らのメジャーデビュー曲。京都を舞台にしたこの映画の中では、また一風変わった雰囲気で聴こえてくる。

くるり – 東京
くるり – 東京

LV69(新曲)

次に流れるのは新譜のトラックリストから、おそらく『LV69』という曲ではないかと思われる。と、すればこれまで『LV30』(2001年『TEAM ROCK』に収録)や、『LV45』(2009年『魂のゆくえ』に収録)など、たびたび登場したレベルシリーズの最新楽曲となる。

今回のアルバムの中では最も音数が多く、再生した瞬間に新鮮な驚きを感じるだろう。

In Your Life(新曲)

前半のスタジオで作曲の風景が映される曲でもあり、劇中での佐藤いわく「超絶シンプルー!」なナンバー。2023年6月28日に先行配信され、早速ヘビロテしているファンも多いのではないだろうか。

くるり – In Your Life
くるり – In Your Life

自然と耳になじむ心地よいサビがたまらない、今後のライブでもしばらく定番となる事は確実だろう。

世界はこのまま変わらない(新曲)

合いの手や、笑える言葉遊びが入った、様々な要素を詰め込んだハチャメチャな曲。やりたい放題ながらも、サビではガチっと腑に落ちるような感覚。流石としか言いようがない。

この曲の収録風景も見どころのひとつ。是非その目で見て、聞いて楽しんで欲しい。

California coconuts(新曲)

こちらも2023年8月9日に先行配信された。『In Your Life』と共に、アルバムをリードする楽曲のひとつだろう。映画の中で歌詞が決まる前の仮の歌でセッションしている風景が印象的だった曲が、このような形で完成となるのだ。

くるり – California coconuts
くるり – California coconuts

気だるげな導入から少しづつ盛り上がり、どん!と心地よいサビ。そして余韻へとつながる……絶妙な構成の楽曲。

尼崎の魚

バンドの初期、岸田・佐藤・森のオリジナルメンバーで作られた楽曲。いわゆるB面曲ながら、ファンの間でも評価の高い楽曲だ。

くるり – 尼崎の魚 | Live from 京都音博2021
くるり – 尼崎の魚 | Live from 京都音博2021

『くるりのえいが』の中では2023年2月28日『拾得』でのライブシーンとして、この『尼崎の魚』と『California coconuts』、そして『東京』の3曲を楽しむ事ができる。

aleha(新曲)

そしてもう1曲、新曲を聞く事ができる。こちらもアルバムトラックリストからラストの『aleha』ではないかと予想。環境的なサウンドを全面に出した、ゆったりじっくり聴かせる楽曲だ。

おわりに

くるり初の映画作品である『くるりのえいが』は、2023年における彼らの現在地を雄弁に映し出した記録映像だ。長年のくるりファンであれば重要な資料として。それ以外の人でも、第一線のアーティスト達のクリエイティビティを知る上での貴重な映像として楽しめるだろう。個人的には、彼らの楽曲を少しでも触れたことのある人であれば、全員が見るべき作品である、とすらと言いたいくらいだ。

ファンが気になる所であろう『森と共に制作した理由』についても、岸田と佐藤は彼ら自身の言葉で説明してくれている。

©2023「くるりのえいが」Film Partners
©2023「くるりのえいが」Film Partners

総じて言えるのは、新譜が出る度に感じていた「くるりの全盛期は”今”」という感覚を、またしても強く感じさせられた1時間40分だった。そしてこの映画はニューアルバムの制作過程を紐解くものでもあるので、出来れば2023年10月4日にリリースされる新譜『感覚は道標』をじっくり聴いた後に鑑賞する方が良いのではないだろうか。

総合評価

ストーリー ★★★★(4)
完全なるドキュメンタリー。ファンならずとも、音楽好きにとっても「おっ!」となるシーンも多々。デビュー当時からのファンなら、いろいろと感慨深い内容だろう。
人物像 ★★★★(4)
イメージどおり温和なくるりメンバーたちの素顔をうかがい知ることができる。メンバー以外の人物へのインタビューなどは一切なく、彼らの人物像にのみフォーカスしている。
エンタメ性 ★★★★(4)
ドキュメンタリーと言えど、ライブやオフショットも挟んで広がりのある構成。思わずクスっと笑ってしまうような場面や、彼らを知っていればさらに楽しめるシーンも多い。
感動 ★★★★(4)
21年ぶりに歩みを共にした森との音楽制作が、どれほど刺さるか。往年のファンであればどこを切っても最良だが、森とのエピソードトークはほどほど。ファン以外の目線だと、もしかすると彼らの密な関係性を把握するには至らないかもしれない。
総合評価 ★★★★(4)
くるりファンは絶対に観るべき映画だ。ニューアルバム『感覚は道標』を補完する意味合いも強い作品なので、先にそちらをしっかり聴き込んでからの視聴をオススメしたい。
アーティストの素顔や、リアルな音楽制作の現場を知るという面で、くるりファンならずとも観る価値アリ。
(最大星5つ/0.5刻み/9段階評価)
映画 くるりのえいが レビュー

くるりのえいが 作品情報

くるりのえいが メインビジュアル
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©2023「くるりのえいが」Film Partners
くるりのえいが タイトルロゴ
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©2023「くるりのえいが」Film Partners
  • タイトル:くるりのえいが
  • 公開:2023年10⽉13⽇(⾦)より全国劇場3週間限定公開&デジタル配信開始
  • 劇場一般通常料金 2000円
  • 出演:くるり 岸⽥繁 佐藤征史 森信⾏
  • ⾳楽:くるり
  • オリジナルスコア:岸⽥繁
  • 監督:佐渡岳利
  • プロデューサー:飯⽥雅裕
  • 配給:KADOKAWA
  • 企画:朝⽇新聞
  • 宣伝:ミラクルヴォイス
  • タイトルロゴデザイン:服部⼀成
  • オフィシャルサイト:qurulinoeiga.jp
  • 公式Twitter:@qurulinoeiga
  • ©2023「くるりのえいが」Film Partners

ムビチケ情報

くるりのえいが ムビチケ特典
オリジナルステッカー
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くるりのえいが ムビチケカード表面
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デジタル配信情報

以下の配信先サービスにて2023年10⽉13⽇(⾦)0:00から11⽉2⽇(⽊)23:59までの3週間限定、一律2,000円でデジタルレンタル。⼀部サービスは決済⽅法の違いにより実際の⽀払額が異なります。詳細は各配信サービスへお問い合わせください。

くるりのえいが ティザー画像
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くるり – ワンダーフォーゲル
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キタガワ

島根県在住、会社員兼音楽ライター。rockinon.com、KAI-YOU.netなどに音楽関係の記事を中心に執筆。毎日浴びるほど酒を飲みます。

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