ディストピアを描いた漫画7選 法律や制度で人々を管理・監視・搾取する社会を描いた作品
ディストピアを描いた漫画7選 法律や制度で人々を管理・監視・搾取する社会を描いた作品/この画像の一部はAIを使って生成しています

ディストピアを描いた漫画7選 法律や制度で人々を管理・監視・搾取する社会を描いた作品

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権力や法律によって極度に管理された社会や、異常な科学の発展によって悲劇がもたらされた社会。そんな『ユートピア(理想郷)』とは真逆の概念・世界感として『ディストピア』と呼ばれるものがあります。当記事でご紹介する漫画は、そんなディストピアを描いた作品達です。

ディストピアを描いた漫画7選

映画や小説などの例にもれず、漫画作品でも世界の終わりや終末を描く作品は登場してきました。当記事では、そんな社会や文明が崩壊した世界で生きる人類を描いた作品を紹介します。

※記事中で『連載中』と記載のあるものは、記事の公開日時点のものです。

狂四郎2030 (全20巻 完結)

仮想世界で芽生えた愛『狂四郎2030』
仮想世界で芽生えた愛
『狂四郎2030』
画像 Amazonより

主人公・狂四郎は、ある日一匹の犬を助けます。その犬には人の脳が移植されており、高い知性を持っていました。

本作の舞台は2030年、未来の日本。第三次世界大戦終戦後の世界は、遺伝子で優劣を決める管理社会となっていました。そんな中、狂四郎は仮想世界で志乃という女性と恋に落ちます。やがて、志乃が実在する女性とわかり、彼女に会いたいと思うようになります。

『狂四郎2030』の作者は『ジャングルの王者ターちゃん』でも有名な徳弘正也。ターちゃんと違わず下ネタや過激な表現も多く登場しますが、一途な愛の尊さを描いた物語でもあります。

イキガミ (全10巻 完結)

命の尊さを知らしめるために死んでください『イキガミ』
命の尊さを知らしめるために死んでください『イキガミ』
画像 Amazonより

舞台は日本によく似た架空の国。そこでは『国家繁栄維持法』という死の恐怖を植え付けることで、生命の尊さを再認識させる法律が制定されており、『逝紙(イキガミ)』と呼ばれる死亡予告証を受け取った国民は、例外なく死ななければなりません。

イキガミを受け取り、最後の時を迎える人達に焦点をあてたオムニバスストーリー。死に怯える者、ヤケを起こしたりする者、とはいえその多くは己の生に意義を見出しながら最後の時を迎える事になります。主人公兼狂言回しであるイキガミの配達人・藤本は、時に冷淡に、時に感情移入しながら彼らの死を見届けていきます。

本作は2008年には実写映画化。また、2021年には続編となる『イキガミ 再臨』も始まっています。

補足 管理社会をテーマにしたSF作品

『狂四郎2030』『イキガミ』は、いずれも国家権力によって大衆を管理するという社会をテーマにしたSFですが、この形式のSFとしてはジョージ・オーウェルの『1984年』を連想せずにいられません。1949年に発表されたこの小説の中では、民衆が思想や私生活に至るまで、テレスクリーンと呼ばれる、テレビ電話のようなもので監視されている社会を描いています。

また、『狂四郎2030』で描かれる遺伝子の優劣で人のすべてを決める……という内容も、映画『ガタカ』や、アニメ『機動戦士ガンダムSEED』といったさまざまな作品で登場します。発展していく科学や文明が、政治に悪用されてしまうのではないか?というのは、今も昔も多くの人達が注目するテーマなのかもしれません。

有害都市 (上・下巻 完結)

その漫画は「有害」です『有害都市』
その漫画は「有害」です
『有害都市』
画像 Amazonより

時代設定は2019年、東京オリンピック間近に控えた日本。主人公の漫画家の日比野幹雄(ひびの みきお)は、初連載となったホラー漫画中で死体を食べるシーンがあったために有識者会議委員長に『有害指定』され、掲載誌は回収される事態となります。

表現の自由を巡る騒動に巻き込まれる日比野幹雄は、いつしか自分が本当に描きたい漫画と向き合っていきます……。

作者は『予告犯』などの社会派サスペンスを多く手掛けている筒井哲也。表現の規制が加速された社会をシミュレートした内容となっており、規制をする有識者たちの傲慢さや、それを黙認してしまいかねない私達と社会の危うさが描かれています。

補足 表現の規制

表現の規制をテーマにした作品と言えば、レイ・ブラッドベリによるSF小説『華氏451度』が挙げられます。この作品の世界でも本を読むことが規制されており、本は発見され次第焼却処分される……。タイトルである華氏451度=摂氏233度は、本の素材が燃え尽きる温度を表しています。

度を超えた表現への規制や『焚書(ふんしょ)』をテーマにした作品は他にも多くつくられてきましたが、これらは決してフィクションではなく、日本でも過去に漫画自体が有害な存在という扱いをうけていた時代もありました。あの手塚治虫の鉄腕アトムが燃やされたという逸話すらあるのですが、前出の『有害都市』作者である筒井哲也の『マンホール』という作品も過去に長崎県の有害図書指定を受けています。本や作品が権力や弾圧により不当に規制され、それによって表現の自由が損なわれるという世界が、必ずしも絵空事ではないことに気づかされます。

14歳(フォーティーン) (全20巻 完結)

すべての異変は崩壊の序曲だった『14歳(フォーティーン)』
すべての異変は崩壊の序曲だった『14歳(フォーティーン)』
画像 Amazonより

22世紀の未来。環境汚染によって人々は地上に住めなくなり、地下に都市を建造して暮らしていました。そんなある日、食肉製造工場で鶏の頭を持つ男が誕生します。彼は高度な知性を得て、自らチキン・ジョージと名乗ります。一方、世界各国で葉緑素を持った緑色の髪の子供が生まれます。

チキン・ジョージの研究により緑秒の子らが14歳となった時に、世界は破滅する事が判明し……。

本作は『漂流教室』や『まことちゃん』で知られる楳図かずおによる作品。破滅的なSF作品で、一言で言い表すことができないくらいグロテスクで混沌とした内容です。物語では中盤以降、さらなる異変が起こります。世界は果たしてどうなるのか? なぜ、人間は14歳で寿命が終わってしまうのか。難解で読む人を選ぶ内容ですが、興味の湧いた方にはぜひともその目で結末を見届けてほしい長編作品。

隊務スリップ (全6巻 完結)

再び始まる徴兵制 『隊務スリップ』
再び始まる徴兵制 『隊務スリップ』
画像 Amazonより

核テロによって東京が崩壊した未来の日本。そこでは徴兵制が復活し、多くの人が戦地に行かされるようになります。主人公青乃盾(あおのたて)は、人類最弱の男と言われるほど、虚弱体質の男ですが、不思議な力を持っておりその正体は謎に包まれています。やがて、彼と同僚達は徴兵されて戦地に行くことになりますが……。

こちらは『静かなるドン』の新田たつおが描いたSF漫画。シリアスなドラマと風刺とギャグを交えた作品です。憲法九条が無くなり、日本も戦争に参加するようになったらどうなるかといったシミュレートだけでなく、青乃盾のミステリアスな存在感によって漫画的な面白さもしっかり楽しめる内容です。

フールナイト (連載中 単行本8巻まで発売)

花になった者の魂は……『フールナイト』
花になった者の魂は……『フールナイト』
画像 Amazonより

分厚い雲が日光を遮り、冬と夜を繰り返すような時代が100年続いた地球。植物のほとんどが死に絶えてしまうため、人類は人を植物に変えてしまう『転花』技術によって、酸素を作りだしていました。

本作の主人公のトーシローは貧困により、転花と引き換えに支給される大金を目当てにそれを受け入れます。すると、転花されて花になった人の言葉が聞けるようになったのです。

文字通り冬と夜ばかりが繰り返す社会、それに追い打ちをかけるように、貧困と格差による悲惨な状況。花になろうとするものは、トーシローのように貧困にあえぐものばかり。花になった彼らの思いは? そして転花に込められた秘密とは?

補足 貧困者の末路

『フールナイト』では下層階級の人々が植物化され、人間が生きるための酸素を作り出していますが、これは言ってみれば貧しい人々を資源として支配階級が搾取しているという構図です。

70年代に放映された『ソイレント・グリーン』という映画では、人口が爆発し資源が枯渇した未来で特権階級を除くほとんどの人間はソイレント・グリーンという食物を食べていますが、それは死んだ貧困者の体を使って製造されていました。

いずれの作品でも、社会のため/世界のためというお題目で貧しい人々を支配階級が利用する世界を描く事で、そのおぞましさを私達に考えさせてくれます。

COPPELION (全26巻 完結)

死の街に降り立つ少女達 『COPPELION コッペリオン』
死の街に降り立つ少女達 『COPPELION コッペリオン』
画像 Amazonより

東京で原発が建造された未来の日本。しかし、大きな地震によって原発は崩壊し、東京は死の街に。そんな東京を三人の女子高生たちが探索していました。彼女たちはコッペリオンという遺伝子改良により、放射能に対する耐性を持った人間であり、その目的は東京に取り残された人々の救助でした。

2008年に連載が開始された本作は、東日本大震災を予期したような内容でも話題になりました。単なる社会派SFというだけでなく、コッペリオン達の特殊能力を使ったアクションもみどころのひとつ。また、人工的に生まれたゆえのコッペリオン達の葛藤、生存者たちとの人間ドラマなど、多くの見所がある作品。2013年にはアニメ化もしています。

補足 科学が招いた災厄

『COPPELION』の世界で原発が崩壊した理由の一つに、科学を絶対視する人間の傲慢さ、自然を軽視する浅はかさが描かれています。

科学が生み出した災厄を語るSFと言えば、日本が誇る怪獣映画の傑作品、『ゴジラ』もそのひとつ。南太平洋・ビキニ環礁で行われた水爆実験の影響を機に誕生したゴジラは、人間が生み出した核により、人間に牙をむくのでした。

また、エネルギー問題そのものを扱ったSF作品にはカレル・チャペックの『絶対製造工場』などもあります。

まとめ

管理社会、表現の規制、自然破壊、支配階級による搾取……ディストピアを描いたSFには、現代の人間社会とも繋がるの問題が込められています。『1984年』を執筆したジョージ・オーウェルの『動物農場』という作品では、既存の支配に対しての革命が成し遂げられても、また新たな力による統制がはじまることを描いています。

そして見方をかえれば歴史の折々や、現代の社会でも同じような構図が見つかる事に気づくはずです。当記事で紹介した漫画は、これからの社会に待ち受ける未来のひとつなのかもしれません。

ディストピアを描いた漫画7選 法律や制度で人々を管理・監視・搾取する社会を描いた作品

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蔵無

漫画考察者、ライター。80年生まれ、90年代育ち。尊敬している漫画家は水木しげる、荒木飛呂彦。好きな作家は江戸川乱歩。

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