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ロボットたちが織りなす、不思議でやさしい終末ホテル

2025年6月30日

『アポカリプスホテル』は、環境の悪化によって人類が宇宙へと旅立ったあとの地球を舞台に、東京・銀座に残されたホテル『銀河楼』で繰り広げられる物語です。すでに人類はいませんが、ロボットたちは今もホテルの運営を続け、いつか人類が戻ってくる日を静かに、そして賑やかに待ち続けています。

主人公は、ホテリエロボットのヤチヨ。序盤では、彼女とドアマンロボット、環境調査ロボットの3体しか会話ができるキャラクターがいなかったため、物語としてマンネリ化しないか少し心配していました。ところが中盤、タヌキ星人一家がホテルを訪れたあたりから状況は一変。ストーリーは一気に賑やかさと勢いを増し、視聴者の心配はどこへやら。特に冠婚葬祭をすべて一度にやってしまうというエピソードでは、「一体何を食べたらこんな脚本が思いつくのか」と、その突き抜けた発想力に思わず感心してしまいました。

とはいえ、ただ騒がしいだけではなく、静かな描写にも心を動かされます。ヤチヨが有給休暇を取る回では、セリフを最小限に抑え、荒廃した地球の風景や、そこに動物たちがゆっくりと戻ってきている様子が丁寧に描かれます。この静と動の緩急が絶妙で、「こんなトーンの切り替えもできるのか」と、作品の表現力の幅広さに驚かされました。

また、オリジナルアニメとして非常に好印象だったのは、第1話で作品の世界観やストーリーのゴール地点が明確に提示されていた点です。近年のオリジナル作品では、序盤で何を描きたいのかが見えにくい作品も少なくありませんが、本作はその点をクリアに示しており、スムーズに作品世界へ入り込むことができました。

一方で、気になった点を挙げるとすれば、作中で数千年単位の時間が経過していくにもかかわらず、その流れがやや伝わりにくかったところです。ときにはワンカットでとてつもない年月が飛んでいたりするのですが、それをセリフだけではなく、もう少し画面上の演出で体感できるようになっていれば、より没入感が増したように思います。

とはいえ、それも些細なことだと思わせてしまうほど、本作には圧倒的なパワーがあります。ロボットたちの真面目すぎるおもてなしと、どこかいびつでやさしい世界観。そのどれもが“人類不在”という制約のなかで伸びやかに描かれており、むしろこの作品だからこそできた表現だと感じました。

最終的に人類の末裔がホテルを訪れるのですが、どんな結末を迎えるのかは、ぜひご自身の目で確かめていただきたいと思います。オリジナルアニメの歴史に、確かに名を刻むべき一作でした。

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謎よりも、先生の“正しさ”が怖い

2025年6月30日

『中禅寺先生物怪講義録 先生が謎を解いてしまうから。』は、京極夏彦の人気小説『百鬼夜行シリーズ』の前日譚を描くスピンオフ漫画を原作としたアニメ作品です。舞台は終戦直後の昭和23年。女子高校生・日下部栞奈と、彼女の教師である中禅寺先生が、学校内外で起こる怪異や不思議な事件の真相に迫っていきます。

本作の基本構成は、“心霊探偵”を自称する栞奈が不可思議な現象に巻き込まれ、それを中禅寺先生が淡々と、しかし論理的に解き明かしてしまう、というものです。のちに「京極堂」として奇怪な事件を次々と解決していく中禅寺秋彦の若き日が描かれており、ファンにとってはその原点が垣間見える貴重な作品といえるでしょう。

原作漫画は未読ではありますが、アニメ作品として見た際に、ややストーリー展開や演出面に弱さを感じました。特に、昭和23年という戦後の混乱期を舞台にしているのだから、その時代特有の空気感や緊張感がもう少し前面に出ていてもよかったのではないかと思います。作品の立ち位置がスピンオフであることを考慮しても、時代考証や背景描写にもう一歩の深みがあれば、より没入感のある仕上がりになっていたかもしれません。

とはいえ、登場人物同士の関係性にはしっかりと魅力がありました。お調子者で猪突猛進な栞奈と、冷静かつ厳格ながらもどこか温かさを感じさせる中禅寺先生。このふたりのやりとりはとてもわかりやすく、話数を重ねるごとに「これは先生に怒られる流れだな」と、視聴者側も作品世界に自然と馴染んでいける作りになっていたと思います。

怪異が次々に理屈で暴かれていく展開は、ある意味で“ホラーよりも怖いリアル”を感じさせるものがありました。日常の中に潜む非日常の正体を暴いていく構成は、まさに中禅寺秋彦という人物の魅力を象徴しています。

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推理と感情、その狭間を旅する小市民の物語

2025年6月30日

『小市民シリーズ 第2期』は、米澤穂信による人気推理小説のアニメ化作品。1期最終盤で互恵関係を解消した高校生、小鳩くんと小佐内さんが、それぞれの思惑を抱えながら、自分たちの周囲で起こる出来事の真相に迫っていきます。また、第1期では短編的な要素を組み合わせた構成でしたが、第2期で描かれる2つの事件――『秋期限定栗きんとん事件』と『冬期限定ボンボンショコラ事件』は、いずれも長編構成で、より深く重層的な物語が展開されます。

本作の最大の魅力は、なんといっても軽妙かつ知的な会話劇にあります。事件の本質に迫るような難解な話題を扱っているにもかかわらず、ふたりの会話のテンポや空気感はどこかおしゃれで、観ていて心地よさすら感じます。また、小説的な長い会話の応酬をアニメとして成立させるために、現在の人物と事件当時の場面を交錯させるような斬新な演出が施されており、制作陣の工夫とセンスが光る構成になっていました。

『秋期限定栗きんとん事件』では、小鳩くんと小佐内さんのどちらにも恋人ができているという設定にまず驚かされました。一般的な非恋愛アニメ作品では、こうした関係性の変化は避けられがちですが、本作ではそれが事件の核心にもつながる巧妙な仕掛けとして機能しており、その構成の妙に唸らされました。特に、小佐内さんの内面をあえて描かないというシリーズの姿勢の中で、彼氏である瓜野くんの存在が重要な役回りを担っていた点も印象的です。

一方の『冬期限定ボンボンショコラ事件』では、小鳩くんがひき逃げ事件の被害に遭い、病院のベッドの上から安楽椅子探偵として推理を進めていくというスタイルが採られます。回想や思考の積み重ねで進んでいく構成も秀逸でしたが、それ以上に小佐内さんの行動すべてが物語の終盤まで“見えない”という構成が秀逸で、シリーズの中でも特に異質な空気を醸し出していたように感じました。

どちらの事件も、視聴者目線で真相にたどり着くのは難しい構成となっていますが、その分だけ“物語としての完成度”が際立っています。1期も含め、事件ごとにスタイルを変えつつも、常にふたりのやりとりが変わらぬ心地よさで展開されていく。この“心地よさの継続”があるからこそ、謎解き以上にふたりの関係や心の揺らぎに意識が向くようになっているのだと思います。

シリーズ全体を通して、非常に丁寧に制作された作品でした。ミステリーとしてはもちろん、青春の揺らぎを描いた物語としても、深く味わえる一作です。

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“行き当たりばったり”がくれる、思いがけない発見

2025年6月27日

『ざつ旅 -That’s Journey-』は、漫画家志望の女子大生・鈴ヶ森ちかが、SNSで募ったアンケート結果に従い、ほとんど下調べもせずに旅へ出る――そんな“雑”さをコンセプトにした一風変わった旅アニメです。

この「雑な旅」というモチーフからか、作中には『水曜どうでしょう』を思わせる演出が随所にちりばめられており、元ネタを知っている方なら思わずニヤリとしてしまう場面も多々あります。こうしたオマージュのさじ加減も絶妙で、作品のゆるいテンポとマッチしていました。

背景美術の美しさにも目を引かれます。もともと背景に定評のある制作会社ということもあり、序盤から中盤までは旅情を感じさせる丁寧な描写が多く、ただ風景を眺めているだけでも楽しい作品でした。しかし、終盤にかけては写真をちょっと加工しただけのような背景が増え、クオリティがやや下がっていったのが惜しまれます。写真ベース自体は悪くありませんが、その“雑さ”が演出として意図されたものなのか、単に制作事情によるものなのか、気になってしまいました。

また、『情熱大陸』でおなじみの窪田等さんによるナレーションも特徴的です。彼の語り口が加わることで、どこか旅番組を見ているような趣が生まれ、作品の雰囲気にさらなる“ゆるさ”と“味”を添えていました。

本作では、一人旅と複数人旅を交互に描く構成が採られていますが、個人的には一人旅の回のほうが印象に残りました。ちかがひとり、見知らぬ土地でさまざまな出会いや風景に触れるたびに、少しずつリアクションしていく様子が、まさに旅ならではの情緒を感じさせてくれたからです。

全体を通して、「雑さ」そのものが味になっている良作だと思います。深く考えすぎず、ふらっと再生して、ふらっとどこかへ旅したような気分に浸れる。そんな作品でした。

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駆け足だけど、心に残るあたたかな物語

2025年6月26日

『ある魔女が死ぬまで』は、見習い魔女・メグが「余命一年」という呪いを解くために、人が喜んだときに流す“嬉し涙のかけら”を集めていく、ドタバタでありながら心温まる物語です。

原作小説はまだ読めていないのですが、コミカライズ版が好きでずっと追っています。(あたりまえですが)アニメでは原作準拠のキャラクターデザインになっていたため、最初は少し違和感を覚えましたが、見ているうちに自然と馴染みました。

物語の基本形は、思ったことをすぐ口に出すお調子者のメグが、毎回何かしらの騒動を起こしながらも、最後には誰かの心を動かし、涙のかけらを手に入れるという構成。その過程で描かれる、ちょっとした温かさや優しさが、この作品の魅力だと感じています。

アニメ版でもその基本構成はしっかりと踏襲されていましたが、やや駆け足展開な印象は否めません。特に、コミカライズで印象的だったシーンの多くがカットされており、本作の“最終的にはほっこり”というキモの部分が少し薄れてしまったように思いました。

また、終盤はコミカライズ版の展開を追い越すスピード感で、私自身まだ知らない物語が描かれていたのですが、展開はますます速くなり、視聴者が物語を受け止める前に次へと進んでしまうような印象を受けました。

作品の持つ優しさや空気感をしっかりと伝えるためには、できれば同じ内容を2クール・全24話でじっくり描いてほしかったところです。とはいえ、ラストは続きが気になる終わり方でしたので、今後の展開にも期待が持てます。まずはコミカライズ版で終盤のストーリーを補完しながら、続編の制作を楽しみに待ちたいと思います。

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