チバの訃報を知ったのは、去る12月5日の昼。思えば何となしに開いたXのトレンドに表示された『チバユウスケ』の名前。タップすればその文字が何を意味しているのかは判明するものの、しばらくそれを押せなかった。
記事の索引 [索引非表示]
偉大なるロックスター チバユウスケの訃報に寄せて
……この時点で彼の名前が出るとすれば、可能性はふたつ。2023年4月に食道癌と診断され休養をとっていたチバが復帰したという朗報か、それ以外だ。しかし前者の場合、トレンドに上がるべきは『チバさん』といった呼称なのではないだろうか……そんな予感を感じながら意を決して読み進めると、そこにはやっぱり悲しい知らせが伝えられいた。
あれから数日が経った今でさえも、この事実をしっかりと受け取めることが出来ないでいる。
思えばチバユウスケの『THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(ミッシェル・ガン・エレファント)』→『ROSSO(ロッソ)』→『The Birthday(ザ・バースディ)』というバンドの歩みは、その何れもが一時代を築いたバンドであった。
ミッシェル・ガン・エレファント(1991年~2003年)
国内ロックシーンに多大な影響を与えたミッシェル・ガン・エレファント(以後『ミッシェル』と表記)。1991年前後に結成し、1996年にはメジャーデビューを遂げ、さらに1998年にはフジロックフェスティバルに出演している。
荒々しくもキャッチーな音楽性で突き抜け、一躍ロックスターの地位へと上り詰めたバンドだ。
1998年のフジロックで観客が押し合いへし合いの大熱狂し何度もライブが中断した事や、TV番組『ミュージックステーション』で海外アーティストt.A.T.uのドタキャンにより生放送中に急遽行われたのアンコールライブの逸話。そんなミッシェルの伝説/武勇伝は、聞いた事があるという人も多いのではないだろうか。
※インターネットで検索するとまだこれらの映像を見る事ができるかもしれないが、いずれも違法にアップロードされたものであるろうからここでは言及を控えたい。
ROSSO(2003年~2006年)
2003年に解散したミッシェル後のチバは、2001年に期間限定で結成したROSSOでの活動を再開し、そこに主軸を置く。とはいえそのスタンスは変わらず、彼は自分なりのロックを追求し続けたように思う。
ミッシェルがファストチューンを主軸としたガレージロックであるとすれば、ROSSOはどっしりと構え、歌で牽引するような重厚な楽曲が目立つ。また自身でギターを弾く姿も多く見られるようになった。
『シャロン』や『1000のタンバリン』といった名曲世に出すROSSOであったが、残念な事に2006年に活動を休止してしまった。
The Birthday(2006年~)
しかしチバはここからまた新たなバンドを結成する。そのバンドこそが今日に至るまで楽曲を発表し続けている、The Birthdayだ。
最近では映画『THE FIRST SLAM DUNK』の主題歌にもなった『LOVE ROCKETS』が一般層にも多く知られているであろう。ほかにも感傷的なミドルチューン『青空』や、ライブにおける起爆剤的な『なぜか今日は』など、千変万化のロックでファンを虜にした。
また彼らのツアーは東名阪といった主要都市だけではなく、地方の都市でも数多く開催してくれていた。そのため日本各地のThe Birthdayファンにもその活躍や勢いは共有されていたと思う。ライブではレア曲が披露される事もあり、そのドキドキ感も楽しみのひとつだった。
ソロでの活動、ほか
チバの活動をひとりのアーティストとして追ってみると、これまた信じられないくらい活発だ。
ミッシェルの活動後期にはROSSOを組んでいるし、The Birthdayの活動時期にはI’M FLASH! BANDや、ソロプロジェクトのSNAKE ON THE BEACH(スネークオンザビーチ)でのリリースも行っている。また、2005年にマキシシングルをリリースした、謎のバンドTHE MIDWEST VIKINGS(ザ・ミッドウエスト・バイキングス)も楽曲を聞けば、そこにチバが関与をしている事は瞭然だ。
ソロ名義のプロジェクトSNAKE ON THE BEACHでは、ある時は映画のサウンドトラックのような雄大さを、またある時はノイズを使っての新機軸を模索するような実験的な楽曲をリリースしている。
また東京スカパラダイスオーケストラや、Ken Yokoyamaとのコラボなど、チバの人望が他者を巻き込んで新たな音楽を生む。そんな人間関係の複合体と化していたのも見逃せない。
ソングライターとしてのチバ
チバが活動してきたバンドの音源をひと言で表すのであれあば『バッキバキのロックサウンド』と言い切ってしまっても過言ではないだろうが、彼の紡ぐ言葉=歌詞は、あえて不明瞭な表現を用いられているものが多い。
ハムとビール
君はパンケーキ
ブルーベリーが 楽しそうで
ドライブインに 人いなくて
クリオネが 泳いでた
上記は、The birthdayの代表曲『青空』の歌詞からの引用であるが、前後の文脈を俯瞰しても、その意味を読み解く事は難しい。とはいえ、だからこそ。受け手の私達は色々な意味をそこから感じ取る事ができる。筆者は辛いときは「酒でも飲んで忘れりゃいい」と、そして楽しい時には「今が楽しいのだからそれで良い」。そんな風に受け止め、この曲を聴いている。
……他にも「おいそこのでくのぼう 何なら俺と一緒に行こうぜ」と小さな愛を歌う『ギムレット』や、延々と続く夏を願った『爪痕』などなど……。よく分からないようでいて、自分だけには何となく意味が分かる。そんな奇妙な親近感と優越感を感じさせてくれるのが、チバの歌詞だった。
ファンから見た、チバという人物像
チバをひとりの人間として見ると、これまた魅力的なのだ。
チバがこよなく愛していた酒とタバコ。タバコはラッキーストライク、ビールはバドワイザーを愛飲することでも知られ、これらを美味そうに、かつ物凄いスピードで消費していく様子は現存する多くの映像で確認出来る。実際、筆者が参加したライブでもチバはステージ上でタバコをふかしていて、それが本当に格好良かった。
ビールについては流石にライブ中ずっと飲んでいるという事はなかったが、アンコールでステージに上がって来る時にその手に握られれている姿が印象的だった。
ライブ中のチバはステージ上であまり話さない。筆者が見に行ったワンマンライブでは「ああ……」と口を開いてから数秒間時が止まり、そのまま曲を演奏する場面もあった。しかし、アンコールでビールを持って登場した時の彼はニコニコと笑うようになり、ファンからの声援にも反応する。そんな普段の寡黙な姿とのギャップに、これまた人間らしさを感じたものだ。
音楽系メディアのインタビューにおいては私生活はおろか、楽曲に込めたメッセージさえ明確にすることは少ない。インタビュアーに「楽曲に込めたメッセージは?」と問われ、「どう思う?」などととぼけるのも、彼らしい。その全体を通して醸し出されるクールな『格好良さ』もチバを語る上で欠かす事は出来ないだろう。
- チバユウスケが語る「変わらない」音楽への姿勢とその美学 | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)
- The Birthdayチバユウスケが語る、現実をひっくり返す想像力| Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)
おわりに
チバユウスケを巡るエピソードは、バンドとしては際限がなく、個人としては人情味溢れるものが多くなるように思える。
正直に言えば訃報を目にしてから数日が経った今でも、まだどこかに彼は居るんじゃないかとも思う。「いつかまたひょっこり出てくるんだろうな」というこの感覚のまま、実際はずっと出てこない……それが『人が亡くなる』ということなのだろう。直接の関わりがなくとも、ファンとして思い入れが深ければ深いほど、やはりこういった出来事は受け入れられないものなのだろう。
今この原稿を書いている瞬間も、Xでチバユウスケを検索をすると、たくさんの人達が、おもいおもいの投稿している。それがチバの在りし日の面影をより鮮明に蘇らせてしまうのは皮肉なものである。
衝動的な感性で一時代を駆け抜けたミッシェル。メロディの力を更に上げて鼓膜に叩き付けたROSSO。ロックの支柱として確固たる地位を確立したThe Birthday。そしてその全ての中心居たチバユウスケ。今はただ悲しむことしか出来ないけれど、ひたすらに素晴らしい楽曲を量産し続けていた事実は、絶対に後世まで語り継がれるはずだ。
まだ彼の楽曲に出会っていない人が居るとしたら、すぐに聴いてみてほしい。CD、配信サブスク、動画……どんな媒体でも良い。彼が作り上げた楽曲が、より広く鳴り響くこと。それがロックの功労者である彼に対する、何よりの恩返しだと思うから。