映画『ミッドナイトスワン』レビュー 人生の転落と復活を描く渾身のドラマ (画像:公式サイトより)
映画『ミッドナイトスワン』レビュー 人生の転落と復活を描く渾身のドラマ (画像:公式サイトより)

映画『ミッドナイトスワン』レビュー 人生の転落と復活を描く渾身のドラマストーリー

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草彅剛がトランスジェンダーの役を演じ、映画初出演の新人、服部樹咲との共演が注目を集める映画『ミッドナイトスワン』。 本作は差別やネグレクトなどの社会問題を描きつつ、さまざまな要因で浮き沈みをしていく人生に焦点をあてた、渾身のドラマ作品です。

究極の親子愛を描く映画『ミッドナイトスワン』

9月25日公開『ミッドナイトスワン』100秒予告
9月25日公開『ミッドナイトスワン MIDNIGHT SWAN』100秒予告

故郷を離れ、新宿のニューハーフショークラブのステージに立つ、トランスジェンダーの凪沙(なぎさ)。ある日、凪沙は養育費目当てで、少女・一果を預かることになる。常に社会の片隅に追いやられてきた凪沙、実の親の育児放棄によって孤独の中で生きてきた一果。そんな2人にかつてなかった感情が芽生え始める。

ミッドナイトスワン : 作品情報 – 映画.com より

監督・脚本 内田英治

『ミッドナイトスワン』を手掛けたのは、『下衆の愛』(2016)や、Netflixオリジナルの話題作『全裸監督』(2019)では脚本を担当した内田英治氏。

監督・脚本を担当した内田英治監督
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより
監督・脚本を担当した内田英治監督
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより

ブラジル・リオデジャネイロ生まれの内田監督は、映画監督になる以前には『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』のアシスタント・ディレクターや、週刊プレイボーイの記者という異色の経歴を持っています。5年にわたって制作された『ミッドナイトスワン』では、映画だけなく原作小説も自身で執筆しています。

主演 草彅剛

主人公 凪沙(なぎさ)役を務めた草彅剛(くさなぎ つよし)さんは、役者としての実績も豊富。映画・ドラマの世界でもすでにベテラン俳優と言っても過言ではないでしょう。

凪沙(なぎさ)役 草彅剛
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより
凪沙(なぎさ)役 草彅剛
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより

本作はトランスジェンダーという難しい役ですが、内田監督が「役と同化していました」と称するほどの好演を見せています。自身のYoutubeチャンネルでも本作を『新しい草彅剛の代表作』と紹介しています。

過去には、任侠役を演じた『任侠ヘルパー』。 2018年爆笑問題の太田光監督による『光へ、航る』でも主演を努め、同作を収めたオムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』は大ヒットを記録しています。また、市井昌秀監督による『台風家族』(2019)でも主演を努め、役者として着実に経験を重ねてきた草薙さんの演技に注目です。

本作がデビューの新人 一果役 服部樹咲

草彅さんと共演する桜田一果(さくらだ いちか)役の服部樹咲(はっとり みさき)さんは、本作が女優デビューとなる新人。

一果(いちか)役 服部樹咲
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより

数百人のオーディションから勝ち残って本作に抜擢された彼女は、4歳からバレエを始め、様々なコンクールで1位を取るなど、本作に抜擢されるのもうなずける経歴を持っています。

脇を固めるキャストも実力派揃い

一果をネグレクトする母親を、『喜劇 愛妻物語』(2020)でも主演を務めた水川あさみ(みずかわ あさみ)
さんが熱演。 広島弁で周囲を罵倒する演技は、胸が痛くなるほどの迫力。

桜田早織役 水川あさみ
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより
桜田早織役 水川あさみ
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより

他にも、ナレーター・ミュージシャンとしても活躍する田口トモロヲ(たぐち トモロヲ)さんが、凪沙が務めるショークラブのオーナー 洋子ママを演じました。凪沙をはじめとするスタッフを常に気にかける、懐の深いママを体現しています。

洋子ママ役 田口トモロヲ
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより

また、一果のバレエ教室の講師片平実花役に真飛聖さん。

片平実花役 真飛聖
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより

片平実花役 真飛聖
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより

凪沙と一果の理解者として、重要な役柄を演じます。

そして、凪沙と同じショークラブで働く同僚を瑞貴役を田中俊介(たなか しゅんすけ)さん、キャンディ役に吉村界人(よしむら かいと)さん、アキナ役を真田怜臣(さなだ れお)さんらが演じています。

瑞貴役 田中俊介/キャンディ役 吉村界人/アキナ役 真田怜臣
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより
瑞貴役 田中俊介/キャンディ役 吉村界人/アキナ役 真田怜臣
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより

真田怜臣(さなだ れお)さんは、ご本人もトランスジェンダーの女優(元男性)として活躍されています。シアターレストラン六本木金魚でダンサーとして活躍していた事もあるそうす。

映画『ミッドナイトスワン』で描かれるドラマとは?

擬似親子的な愛を、優雅かつシリアスに描いた『ミッドナイトスワン』。

トランスジェンダーの主人公と、育児放棄を受けた少女の絆を描いた作品としては『彼らが本気で編むときは、』(2017)という映画も記憶に新しい所でしょう。

生田斗真がトランスジェンダーの女性に『彼らが本気で編むときは、』予告編
(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会
『彼らが本気で編むときは、』予告編

しかし『ミッドナイトスワン』には、この作品とは違った切り口で、社会問題を描いています。

徹底的にリサーチした、トランスジェンダーとネグレクト問題

5年におよぶリサーチに基づき制作された『ミッドナイトスワン』は、凪沙や一果たちが直面する問題を克明に描いています。トランスジェンダーに対する心ない差別や不理解。作中でも凪沙に投げかけられる『LGBT、流行ってますよね』といった言葉……。

凪咲は最も身近な家族にも、自分がトランスジェンダーであることを打ち明けていません。親との電話で『健二』として話している姿は、親に認めてもらえず、自分を隠し続ける悔しさや辛さがにじみ出ていました。

一方、一果が抱える家族の問題も深刻です。

深夜まで働く母親・早織は近所に暴言を吐き散らし、それをなだめる一果にも暴力を振るいます。そんな環境は近所の住人に通報され、一果は母親は離れて一時的に東京で暮らす親戚、健二=凪咲に預けられる事になります。

当初は無愛想で問題を起こす一果に嫌悪感をあらわにする凪沙でしたが、一果がバレエと出会い変化していく中で、凪沙にも変化が訪れ、次第に心を通じ合わせていきます。 「一人でも強く生きていかなければならない」と涙ながらに訴える凪沙……。本作では、作中の登場人物の問題を浮き彫りにすることで、『一人で生きていくことの難しさ』や『親子の絆の大切さ』が描かれていました。

コミュニケーション不全の家庭問題

ネグレクト問題として一果の家庭を。そして、性別や血の繋りすらも超えた絆を育んでいく凪咲と一果の共同生活。これに加え、『ミッドナイトスワン』ではもうひとつの家族問題も描いていました。

一果とバレエ教室で出会い、東京での高校でも同級生だったりん(上野鈴華)。一果にとっては東京での友人となる重要な人物ですが、彼女の家庭にも大きな歪(ひずみ)がありました。

りん役 上野鈴華
画像 『ミッドナイトスワン』 公式サイトより

家が裕福であるがゆえに、親からは人形のように育てられている彼女は、バレエを習う事自体や、子供部屋のインテリアなど全て母親が与えたものなのでした。……りんはそんな現状に対して、諦めに近い感情を抱いています。

思春期の子供達にとっての親子関係がいかに重要なものであるのか。一見幸せに見えるような家庭の問題についても、本作では『りん』とその家庭を通して語られています。

選ぶことの出来ない運命

普段は気丈に振る舞い、一見たくましく生きているように見える凪沙ですが、体調を崩した際に一果の前で「なんで私だけ、こんな思いをしなければならないの………」と泣き出す場面があります。

この言葉は作品に登場するさまざまな人物が直面する問題でした。

凪沙の働くショークラブの同僚・瑞貴は男に貢ぐようになり、稼ぎを増やすために、ショークラブより稼ぎの良い……というある仕事をはじめてしまいます。そんな瑞貴を止めることが出来ない洋子ママは「人間は、落ち始めたら止まらないものよ」とこぼします。洋子ママをはじめ、ショークラブの面々は必至に現在の状況にしがみ付いて生きているのかもしれません。

また、物語が進む中でりんは、バレエを続ける事が出来なくなり、家族の溝も広がっていきます。バレエの才能を開花させる一果と相反するように深刻化していくりんの問題は、ひとつの結末へと至ってしまいます。

「一人でも強く生きていかなければならない」と語る凪沙の考えは本当に正しいのか?

……本作では、その答えとして親子愛をテーマに描いているように感じました。自分は他人から必要とされているのか? と、1度でも考えたことがある人にも見てほしいヒューマンドラマです。

映画『ミッドナイトスワン』作品情報

  • 公開日:2020年9月25日(金)
  • 監督/脚本:内田英治
  • 出演:草彅剛、服部樹咲、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華、佐藤江梨子、平山祐介、根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖
  • 上映時間:124分
  • 配給:キノフィルムズ
  • 映画 『ミッドナイトスワン』 公式Twitter
映画『ミッドナイトスワン』925秒(15分25秒)予告映像
映画『ミッドナイトスワン』レビュー 人生の転落と復活を描く渾身のドラマ (画像:公式サイトより)

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ヤマダマイ

レンタルビデオ店、ミニシアター勤務を経てライターをしています。 『映画board』でも執筆中です。面白い映画をわかりやすい内容で紹介していきます。でも本職は2匹の猫(キジ白、牛柄)の下僕。

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