画像 リキッドファンクロマニヨン YouTubeチャンネル - LiquidFunkromagnon
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謎のアーティスト『リキッドファンクロマニヨン』 生成AIを活用した新時代のMVに注目

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先日、目新しい活動を行うアーティストをYouTubeで発見した、その名はリキッドファンクロマニヨンLiquid Funkromagnon)。彼(彼ら?)はロックサウンドと、AIによって生成された映像で構成されたオリジナルミュージックビデオを精力的にYouTubeにアプロードしている。

記事執筆時点で、YouTubeの登録数は100人以下。まだまだ一般的にはノーマークな彼らだが、なぜだか気になる存在だ。

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謎のアーティスト『リキッドファンクロマニヨン』

昨今、MAN WITH A MISSION、ピーナッツくん、ぼっちぼろまる……正体を隠して(あるいは人外の生命体として)活動するアーティストは複数いるが、この『リキッドファンクロマニヨン』 については情報がほとんどない。

多くを語る前に、まずひとつYouTubeにアップロードされている楽曲を見てもらった方が良いだろう。

“musik” – LiquidFunk | MUSIC VIDEO : Japanese City Rock / City Pop / BGM
“musik” – LiquidFunk | MUSIC VIDEO : Japanese City Rock / City Pop / BGM

生成AIについて、特にAI生成による動画について最新情報を追っている人であれば、このMVにもその技術が使われている事は瞭然であるが、楽曲までAIで生成されている訳では無さそうだ。そのサウンドはいわゆる『ミクスチャーロック』が軸だろうか。

YouTubeチャンネルにアップロードされた動画投稿日を見ると、2024年の4月頃から動画が公開されている事が分かる。

現時点で彼らについて知る情報は限りなく少ない。もうひとつのカギとなるのは、彼らのXアカウントにあるこちらも生成AIによって描かれたらしき5人の猿の姿だ。

年齢も担当楽器も、メンバーの名前すら分からないという徹底ぶりで、Xの投稿も実に機械的な内容なので、彼らの人となりについての手がかりは皆無だ。一応猿が5人居るので5人編成なのかもしないが……。

とはいえ、メンバー以外の情報についてはYouTubeショートや概要欄から、少しばかり想像できる。まず前述したとおり、YouTubeの投稿日によれば彼らは2024年の春ごろからMVを投稿し、Xアカウントの開設も同時期のようだ。しかし楽曲はすでに十数曲が公開されており、いずれも例外なくAI動画生成ツール『Kaiber』を用いて作られたと思われるビジュアルを採用している。

楽曲の持つ魅力

そんな彼らを紐解いていくために、まずはその音楽性に迫っていこう。

繰り返しになるが、楽曲は彼らのYouTubeチャンネルにかなりのハイペースでアップロードされている。ギター、ベース、ドラムといったバンドサウンドをベースに、ボーカルの絶妙なフロウを掛け合わせる形で紡がれる楽曲は、どれも心地よく鼓膜を揺さぶる。

かれらのチャンネルで再生数が今の所最多のMVは下記の『Unchained World』だ。

"Unchained World" – LiquidFunk | MUSIC VIDEO : Japanese City Rock / City Pop / BGM
“Unchained World” – LiquidFunk | MUSIC VIDEO : Japanese City Rock / City Pop / BGM

タッピングギターの透明感のあるイントロではじまり、ラップボーカルが歌い上げるようなメロディにスムーズに切り替わると、サビでは思わず一緒に歌い上げたくなるような高まりをみせる。アルバムとしてリリースされていたならば、『これぞリード曲』とでも言いたくなるような力強さを持った1曲だ。

また、その歌詞(※)は解放された世界(=Unchained World)を追い求めんとするポジティブなものだ。

※YouTubeの動画設定で字幕をONにする事でしっかり日本語歌詞と英訳歌詞が設定されているのも抜け目ない。

そして他の楽曲を聞いてみると、また違ったアプローチが見える。主人公然としたサムネイルが目を引く『小箱』という曲や……

“小箱” – LiquidFunk | MUSIC VIDEO : Japanese City Rock / City Pop / BGM
“小箱” – LiquidFunk | MUSIC VIDEO : Japanese City Rock / City Pop / BGM

『Phoenix』という曲では、声色を変えての歌唱やボイスパーカッションを取り入れトリッキーながらも、テクニカルなドラムとベースラインが心地よい。

"Phoenix" – LiquidFunk | MUSIC VIDEO : Japanese City Rock / City Pop / BGM
“Phoenix” – LiquidFunk | MUSIC VIDEO : Japanese City Rock / City Pop / BGM

『銀河鉄道』は映画のエンドロールにでも流れてきそうな、哀愁ただよう楽曲だ。

"銀河鉄道" – LiquidFunk | MUSIC VIDEO : Japanese City Rock / City Pop / BGM

……と、現在YouTubeにアップされている楽曲だけでも、多様な表情を感じ取る事ができる。

まさにこの記事を執筆中に公開された『Speed Up Clock』も、上から下に叩き付けるようなグルーヴ感で圧倒するキラーチューンだった。

“Speed Up Clock” – LiquidFunk | MUSIC VIDEO : Japanese City Rock / City Pop / BGM
“Speed Up Clock” – LiquidFunk | MUSIC VIDEO : Japanese City Rock / City Pop / BGM

ライブ会場で披露されることがあれば、盛り上がること必至のアンセム曲ではないだろうか。

動画生成AIによって作られたMV

バンドにとって最も重要なのは楽曲だが、リキッドファンクロマニヨンのアプローチとして、物凄いスピードで楽曲を公開しつつ、その何れもがミュージックビデオ=MVとなっている点も挙げられるだろう。

これらの幻想的な映像にはAI動画生成ツール『Kaiber』(※)が用いられているのだと思われる。

※日々新しいツールが公開される昨今、類似のツールが公開されている可能性もあるが、ツールの特定はひとまず主題ではないので容赦してほしい。

Kaiberは我々一般人でも使えるAIツールのひとつで、対話型生成AIとして有名な『ChatGPT』のような動画特化タイプAIとでも言うと理解しやすいだろうか。ともかく、このKaiberの機能には、楽曲を読みこませた後にいくつかの設定を行うだけで、1本の動画が生成されるというものがある。

この機能をいち早く取り入れた例としてリンキン・パークの『Fighting Myself』や『More the Victim』がある。

Linkin Park – Fighting Myself (Official Audio)
Linkin Park – Fighting Myself (Official Audio)
Linkin Park – More the Victim (Official Audio)
Linkin Park – More the Victim (Official Audio)

さらにKaiber最新機能を採用した『Lost』のMVは、8000万回以上の再生数に到達している。

Lost [Official Music Video] – Linkin Park
Lost [Official Music Video] – Linkin Park

リキッドファンクロマニヨンに話を戻すと、彼らもこれら最新の技術を使ってMVを圧倒的な速さで投稿している。主要なMVにはしっかりと歌詞を設定していたり、YouTubeショート動画も作成していたりと、マーケティング/プロデュース戦略としても実にクレバーで効率的な運営が行われている。

「Unchained World」#Shorts #90s #邦ロック #ai
YouTubeショート動画 Unchained World」#Shorts #90s #邦ロック #ai

『リキッドファンクロマニヨン』の正体と目的は?

さて、ここまでは彼らの正体不明さ、楽曲、その手法を見てきたが……筆者は『リキッドファンクロマニヨン』というアーティスト名を見た時、微かに「どこかで聞いた事があるな……」と感じたように思う。

そこで、インターネットで少し深堀りしてみると、かつて『リキッドファンク(LiquidFunk)』というバンドが居という事が判明した。今から約15年前にライブシーンを中心に活躍していたが、その後は無期限活動停止中のバンドである。

LiquidFunk "Speed Up Clock" PV
LiquidFunk “Speed Up Clock” PV

上記のYouTube動画では生身でライブする姿が見て取れる。そしてさらに調べると、先に紹介した『Unchained World』や『Speed Up Clock』、現在YouTubeチャンネルに掲載されている『ヤジルシ』といった楽曲も、この『リキッドファンク(LiquidFunk)』名義で2009年にリリースしたアルバム『LiquidFunk』に収録されているのだ。

しかもこれらは、前述したYouTubeチャンネルにに公開されているものと全く同じ音源で、サブスク配信もされている。

確かに。ここで冷静に見直してみると、YouTubeに掲載されている動画のタイトルも『”Unchained World” – LiquidFunk』となっており、LiquidFunkというアーティストによる楽曲であると明記されていたのではあるが……。

それはさておき、かつてリキッドファンクとして活動していたバンドと、2024年に生成AIを携えて突如現れたリキッドファンクロマニヨン。これらが同一人物達(またはその一員)であるとするならば、彼らの目的も見えてくる。十数年の時を経て楽曲をリブートし、新しいアプローチで多くの人に楽曲を届ける……そんな新しい試みなのではないだろうか。

現在は、ロックに限らず音楽の供給が圧倒的に飽和している時代だ。そしてそれは曲を提供する側にとっても重要な問題であり、メジャーであろうとインディーズであろうと、TikTok、YouTube、ライブ配信といったSNSやネットサービスをフル活用し、『どうやって注目を集めるか』に苦心している。

その中で登場した『リキッドファンクロマニヨン』のスタイルは……数年後、もしかすると数か月後には当たり前の手法になっているかもしれないが……良質な楽曲を所持している彼らにとっては間違いなく強力な武器だろう。

070928 liquid funk "unchaind world"
070928 liquid funk “unchaind world”

豊富な楽曲ストックと、それらをあらためて多くの人に聞いてもらおうとする施策としては、とても先進的だ。楽曲のクオリティありきではあるが、一度活動休止したアーティストのリブートとしても面白いアプローチだと思うので、もっと多くの人達の目に触れてほしいものである。

最後に

新しい技術と・手法を積極的に取り入れて活動するリキッドファンクロマニヨン。今の所、彼らほど熱心に生成AIでのMVを活用しているアーティストは(少なくとも日本では)見当たらない。その利便性の高さ故、他の誰かが同様の手法をとる事も容易であるかもしれないし、「AIが嫌い」という人にとっては嫌悪の対象となるかもしれない。

しかし、全ての創作は「良いものは良い!」と正しく評価されるべきであるし、そこに至るまでのマーケティング戦略をアーティスト達が試行錯誤することも、非常に正しい選択なのだ。

AIで再構築された液体Funk猿たちが、十数年前の曲を再構築し新たな形で世に送り出す……それは言わば音楽シーンに突如現れた特異点のような手法に思える。当記事で考察した彼らの存在や正体が正解かどうかは定かではないが、今後も興味深く見守っていきたいと思う。

画像 リキッドファンクロマニヨン YouTubeチャンネル - LiquidFunkromagnon

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キタガワ

島根県在住、会社員兼音楽ライター。rockinon.com、KAI-YOU.netなどに音楽関係の記事を中心に執筆。毎日浴びるほど酒を飲みます。

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