自家用車が要らない時代が来る? MaaSとキャッシュレスの先にある社会とは

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澤田 真一

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日本は世界有数の自動車生産国です。

世界有数の』というのは、自動車はどこの国でも生産できるものではないからです。それ相応の技術力が要求される上、景気に左右されやすいという特性もあります。

たとえばアメリカのデトロイト市を中心とする自動車産業は、1920年代に大発展を遂げました。しかし1929年10月の『ブラックチューズディ』から始まった大暴落は、デトロイトにも大打撃を与えます。結果として誰も自動車を買わなくなったせいで今までの設備投資が余剰になってしまい、工場の従業員は続々と解雇されてしまいました。

そういうこともあり、これまで国家の新車販売台数は景気指標のひとつとして見なされていました。ですが、『自動車が売れる=経済が好調』という発想は、もはや古いものになりつつあるのも事実です。

『世界一貧しい大統領』 が発した、大量消費に対する注意喚起

ウルグアイの第40代大統領ホセ・ムヒカ氏は、日本でも人気のある人物です。

ウルグアイの第40代大統領ホセ・ムヒカ氏
ウルグアイの第40代大統領 ホセ・ムヒカ氏
File:José Mujica 2016 – 3.jpg CC 表示-継承 4.0 ProtoplasmaKid

自宅は首都モンテビデオ郊外にある小さな農場で、愛車は87年製のビートル。外交で出国する際は大統領専用機ではなく、航空会社のエコノミークラスを利用する『世界一貧しい大統領』として有名です。 国外移動の際、メキシコのペニャ・ニエト大統領の専用機に相乗りさせてもらった逸話も広く知られています。

ムヒカ前大統領は、報酬の殆どを慈善事業に寄付してしまいます。 そしてウルグアイの平均所得分だけのお金を手元に残しているそうです。 ウルグアイ人の生活が豊かになったら、その分だけ自分も豊かになるというライフスタイルを貫いている訳です。

そんなムヒカ氏は、国連演説でこう発言しています。

「ドイツ人世帯が持つ車と同じ数のそれをインド人が持つようになれば、地球の空気はどうなってしまうのでしょうか?」

世界経済は不合理な大量消費に支えられ、寿命の長い製品を作ることはむしろ嫌われてしまっている。我々がやるべきは、持続可能なサイクルを創出することではないか。南米の小国の大統領は、この演説の直後から『世界のリーダー』として注目されるようになりました。

MaaSが暮らしを変える?

ここ最近、『MaaS』という言葉が一般向けメディアにも登場するようになりました。

MaaSとは『Mobility as a Service』の略称で、全ての乗り物を一元的なサービスとして提供しようという概念です。

たとえば、自宅から駅まで行くのにバスを使い、そこから電車に乗って到着駅からはレンタサイクルを使うとします。それら諸々の予約を、事前にスマホアプリで済ませることができれば非常に便利です。これが都市型MaaSと呼ばれるもので、さらに今話題のライドシェアサービスも含めることができれば、利用料金も安く抑えることができます。

携帯端末とキャッシュレス化の普及で加速するMaaS
携帯端末とキャッシュレス化の普及で加速するMaaS

もちろん、MaaSの確立にはキャッシュレス決済の存在も前提です。 クレジットカードを持っていない人も利用できる決済サービスがなければMaaSはその機能性を大きく失います。

近年では官民が一体になって『社会のキャッシュレス化』を推し進めていますが、このような背景もあるのではないでしょうか。

Whim』により 都市型MaaSが具現化するフィンランド

都市型MaaSの概念は、既に具現化しています。

フィンランドの首都ヘルシンキで2017年11月から始まった『Whim(ウィム)』は、電車やバス、ライドシェアはもちろんレンタルサイクルまで紐づけるMaasサービスです。

https://whimapp.com/
フィンランドのMaaSアプリ&サービス Whim https://whimapp.com/

外国人でも利用できるため、今やヘルシンキの都市交通を考える上で欠かせないものになりました。

さて、フィンランドを含めた北欧諸国のイメージは、どういうものでしょうか? 恐らく『世界最先端のエコロジー技術』というように、環境保護対策で他の経済先進国よりも進んでいる印象を持つ方が多いのではないでしょうか。

事実その通りで、例えば缶やペットボトルのデポジット制度を フィンランドは世界でいち早く採用し、それらを所定のダストボックスに入れるとキャッシュバックが得られるといったシステムが整備されています。

そんなフィンランドで都市型MaaSが定着したのも決して偶然ではありません。MaaSとは環境保護対策であり、二酸化炭素排出問題の改善に多大な貢献を果たす仕組みと見なされているのです。

変化する自動車産業

このような形で、日々利用する交通手段を一括予約・決済できるようになれば、先述のムヒカ前大統領が理想とした社会が達成されるかもしれません。

決して突飛な話ではなく、今あるタクシーよりも遥かに低価格の交通手段が登場すれば、人々は自家用車を所持する必要がなくなります。つまり、新車販売台数は低下するということです。

とはいえ、反発する人も少なくないでしょう。もし新車が売れなくなったら、日本の自動車産業はなくなってしまうのではないか……。

経済の豊かさは=自動車所持率という考え方は……

それに対する答えは「否」です。

日本の自動車メーカーは、海外のライドシェアサービスに対して巨額投資を行っています。近い将来確立する完全自動運転技術も見越して、名だたるモーター関連企業が既に行動を開始しています。

既存産業も、時と共に変化します。電報サービスを取り扱っていたウェスタン・ユニオンが国際送金サービスに転換したように、そして花札やトランプを製造していた任天堂が世界有数のコンピューターゲームメーカーになったように、自動車産業も変化の時を迎えているのです。

自家用車の必要ない時代へ進むのか

若者は車を買わなくなった」という言葉を、たまに耳にすることがあります。それはもれなく、昔よりも景気が活発でないことを嘆く意味で発せられます。しかし、若年層の自動車保有率が低くなることは本当に嘆くべき事態なのでしょうか?

ムヒカ大統領の生年は1935年。80代の高齢者です。そのような人物が現行の大量消費社会を良しとせず、より合理的でスリムな経済モデルの構築に言及した事実は決して忘れてはいけません。

MaaSとキャッシュレスによっ新しい社会に?

『若者が車を買わない』ということは『車を買う必要がない』という意味で、自家用車がなくても生活に支障がないならそれに越したことはない、という考え方もできます。

今後、MaaSという単語はあらゆるメディアで目にするはず。この概念は単に生活が便利になるだけではなく、地球環境問題にも大きく関わる事項と見なすことができます。

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澤田 真一

澤田真一(さわだ まさかず) 1984年10月11日生
ノンフィクションライター。各メディアで経済情報、ガジェットレビュー、ライフハック等をテーマに記事を執筆する。

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