電子マネー先進国 インドネシアのフィンテック政策が日本を完全凌駕している件について

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澤田 真一

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昨今、『電子マネーの普及』に関する話題をよく耳にするようになりましたが、はっきり言って日本は「電子マネー後進国」です。

首都圏ではSuicaを含めた交通系電子マネーを中心に広く浸透している印象がありますが、首都圏以外の地域ではどうでしょうか。

例えば筆者が生活する静岡県静岡市ではまだまだ現金決済が中心です。静岡市は市街地から少し北に行くだけで、豊かな山々が広がる田舎 地方都市です。筆者の住まいも北部の山間部に近く、このあたりの薬局やスーパーマーケットでは電子マネーはおろか、クレジットカードにも対応していないという現状です。

「都会でなけりゃ、電子マネーなんか普及しない」

という声を聞く事があります。地方都市の現状を鑑みた一般的な意見かもしれませんが……本当にそうでしょうか?

実は海外には「都会から離れた農村部にこそ電子マネーを普及させよう!」と目標を掲げている国が存在します。

「均等な経済発展」を目指すインドネシア

(インドネシア共和国)は、2億5000万の人口を抱える世界最大の島嶼(とうしょ)国家です。

そしてこの国は、とにかくデカイ!インドネシアの最東端と最西端の直線距離は、東京から首都ジャカルタまでのそれよりも長いほど。そしてその隅々に渡って、約300もの民族が生活をしています。

公用語はインドネシア語ですが、各地方・地域ではそれぞれの現地語が使われています。その中でインドネシアは共和制国家として成立しています。

また島嶼(とうしょ)、つまり島国ですが、同時に環太平洋火山帯に沿う山岳国でもあります。こういった点を踏まえると、インドネシアの地形と特徴は日本と似ているとも言えます。

そうした状況下で、中央政府は「すべての国民の発展」を実現させなければなりません。

他民族、そして島国という環境でインドネシア政府は、すべての国民に平等の権利を保障する事を宣言しています。それ自体は素晴らしいことなのですが、言い換えれば「首都であるジャカルタは発展しているのに地方島嶼部が発展していないのは不公平」という見方にもつながります。

ですから、現在の中央政府は農村部の経済発展を最優先事項にしています。

電子マネーと農家

経済発展とは、つまるところ「お金の巡りを良くする」ことです。

ですが、たとえば人口が100人しかいない山奥の村落に銀行ATMを置くのは、あまりに不合理。日本ではセブン銀行のATMが1日70決済で元が取れると言われていますが、それでも70決済に届かなければ赤字になってしまいます。

そしてさらにインドネシアの場合、国民の約半数が銀行口座を所有していません

「なぜ銀行は儲かるのか?」ということを知らない人も珍しくないほどです。

そういう人たちがお金を手に入れるには、自分たちの畑で作った野菜を業者に売って、その際に現金を直接受け取るという方法に限ります。ところが、このやり方では不当に安く買い叩かれる恐れも有るのです。

たとえば、一次生産者の農家Aさんが業者Bに野菜を10ドル/kgで売るとします。

その後、業者Bが業者Cに野菜を20ドル/kgで転売します。そして業者Cは業者Dに野菜を40ドル/kgで売ります。最後に業者Dがジャカルタの小売店に野菜を70ドル/kgで納入します。結果、消費者への小売価格は100ドル/kgに……。

これはいわゆる中間搾取の構図ですが、インドネシアの農業の流通はこういった仲買業者が多いことでも知られています。

そして、なぜ仲買業者が発生するかというと……さまざまな要因はありますが……その一つに現金決済を行っているから、という点があります。

例えば、電子マネーで1次生産者と小売店が直接つながる事ができれば、状況はガラリと変わる可能性があります。

フィンテックは仲買業者を排除できる

電子マネー導入により仲買業者を排除できたら、生産者にとっても消費者にとってもいいことだらけです。

一次生産者は野菜を30ドル/kgで直接ジャカルタの小売店に売り、その後小売店は60ドル/kgで店頭に置くことができます。

前述のように仲買業者がいる場合の状況と比べたら、一目瞭然の違いです。生産者は野菜を高く売ることができ、消費者はそれを安く買うことが可能になります。

「フィンテック(※)は仲買業者を排除できる」

そう発言したのは、インドネシア大統領のジョコ・ウィドド氏

ジョコ・ウィドド(Joko Widodo)は、インドネシア第7代大統領。※From Wikimedia Commons

貧しい大工の息子として出自した庶民派で、インドネシアでは「エリートの証」でもある軍隊に属した経験もありません。飲食店事業を始めた自分の長男に対しても「絶対に私の力に頼るな」と命令した、というエピソードもよく知られています。

※『フィンテック=Fintech(Financial Technology)』とは
ファイナンス(Finance=金融)と、テクノロジー(Technology=技術)を組み合わせた造語。

また、庶民派政治家の汚職が蔓延していたインドネシアで、ジョコ氏は「クリーンな執政者」として大変な人気があります。

「お金のやり取りが癒着を生む過程」についてよく知っている大統領ですから、上記の発言はむしろ自然なものであると言えるかもしれません。ただ、いくら中央政府がフィンテック構築を叫んでも、全国の小売店舗がそれに対応できなければ意味がありません。

インドネシアの実体経済を支えるのは「ワルン」と呼ばれる零細店舗。これは個人経営で、少し前の日本によくあった「街角のタバコ屋」といったお店をイメージすると分かりやすいでしょう。

こういった所が電子マネー対応の端末を設置してくれるかというと、やはり難しいところでしょう。

電子決済対応アプリ Moka

Moka webサイト

そんな中、普及してきている新興サービスがタブレット等で使用できる会計アプリ『Moka (https://www.mokapos.com/)』です。

これは日本で言うクラウド会計ソフトとレジ機能が一体化したサービスで、日々の売上をこのアプリに入力し、確定申告の時に書類を出力できるようにしたものでもあります。

安価なスマホやタブレットでも十分に作動する上、Mokaはクレジットカードや電子マネーの決済にも対応しているので、Mokaがインストールされたスマホやタブレットがあれば、専用の読み込み端末を店側が導入する必要はない、ということです。

このMokaの運営企業ですが、今年9月にシリーズB投資ラウンドで2400万ドル(約27億円)もの資金調達に成功しました。出資者は東南アジアの各ベンチャーキャピタルです。

各国がインドネシアのフィンテック市場に注目している証拠でもあります。

インドネシアで普及拡大する「Go-Pay」

Go-Jek webサイト

そして、インドネシアで最も勢いがある電子マネーについて解説したいと思います。

日本ではSuicaという交通系電子マネーが普及しているように、インドネシアでは『Go-Pay』が浸透しつつあります。

この国では『原付タクシー』が重要なインフラとして普及しており、さらにこの原付タクシーをスマホで呼び出せる『Go-Jek (https://www.go-jek.com/)』というスマホ・アプリ/サービスが爆発的に広がりました。

ところが、ライダーに運賃を払うのに大きな額の紙幣では対応できないことが多々あります。インドネシアでは慢性的な小銭不足が社会問題になっているほど。

そこで最初からキャッシュレスでGo-Jekを利用できるようにすれば便利だよね? ということでGo-Payが登場しました。

支払いの基本的なフローとしては、利用者がGo-Jekの原付運転手に運賃以上の現金を支払う事で、運転手は余剰分(お釣り)を利用者のGo-Payアカウントへ入金する、というスタイル。当然、利用者は次回以降Go-Payでの支払いも可能です。

Suicaが小売店での決済にも対応したのと同じで、Go-Payも日に日に対応店舗を拡大させています。前述のようにGo-Payは『読み取り式のカード』ではないので、決済のための読み取り端末なども必要ありません。そして、Go-Jekの運転手が、移動するGo-Payの入金端末(※)として活躍する事で、さらにその利便性を向上させているのです。

※『入金端末』と記載しましたが、Go-Jekの運転手も、徹頭徹尾スマホのみで業務を完結できまる事このプラットフォームの特徴です。銀行口座保有を前提としない設計によって、さらにその利便性を向上させています。

アジアのシリコンバレーを目指すインドネシア

JAKARTA

今回ご紹介したサービスの広がりは『安価のスマートフォン』が普及したからという下地あってのものです。

以前は、インドネシアの経済成長は主に重工業で達成されると言われていました。

日本の経済界の重鎮も「インドネシアはアジアのデトロイトになる」と口にしていたほどです。しかし蓋を開けてみれば、インドネシアはデトロイトではなくシリコンバレーを目指すようになりました。

その方針の裏付けをしているのが、一刻も早い電子マネーの普及を求めるインドネシアの国内事情と言えるでしょう。

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澤田 真一

澤田真一(さわだ まさかず) 1984年10月11日生
ノンフィクションライター。各メディアで経済情報、ガジェットレビュー、ライフハック等をテーマに記事を執筆する。

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