ASEAN諸国の政府が本気で目指す『eスポーツと地方インフラ整備』

執筆: 澤田 真一 アイコン 澤田 真一

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「eスポーツ(eSports/イー・スポーツ)は果たしてスポーツか?」という議論を、昨今も耳にします。

日本人は、スポーツを『肉体鍛錬の手段』として考える傾向が非常に強く、一見して身体を動かしていないように感じる『eスポーツ』には懐疑的な印象を抱いてしまいがちの様です。しかし『スポーツ(sports)』の語源は『余暇を使って遊ぶ』という意味合いの単語で、肉体鍛錬はあくまでも目的を達成するための一過程に過ぎませんでした。

2013年 世界的人気ゲーム『スタークラフト』の世界大会の様子 Kevin Chang for Team Liquid – ©2014 Kevin Chang CC 表示-継承 3.0

基本的に技術を競うということでは、カーレーシングや、頭脳で戦うチェスもスポーツととらえられ、もちろんそれらのトップの人々はアスリートと呼ばれることもあります。

その見方に立てば、オンラインゲームも立派なスポーツ。特に東南アジアでは、現在各国政府がeスポーツの発展に力を入れています。

そしてそれは、結果的に経済発展に取り残された地方農村部に光をもたらす可能性もあるのです。

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インドネシアとeスポーツ

インドネシアの現大統領はジョコ・ウィドドという人物です。

この国の歴代大統領は、軍出身者か軍とつながりのあるエリート家庭の子息のみが就任してきました。ですがジョコ氏は、中部ジャワ州ソロの貧しい大工の息子で、軍に入隊した経験もありません。インドネシアにおいては、まさに革命的な政治家です。

ですが「軍とつながりがない」という点は、政治においてはウィークポイントとなり得ます。

そこでジョコ氏は大統領首席補佐官に、陸軍参謀総長を務めたムルドコ氏を指名しました。参謀本部とは、軍が戦争戦略を練る上で核になるセクション。参謀本部が立案した計画を基に部隊を進めて戦うのが近代戦争の形です。

そのようなセクションの最高幹部だったムルドコ氏が、2018年11月に開催されたゲーミングプラットフォームのイベント会場でこう発言しました。

「インドネシア政府はeスポーツの発展を強く後押しする」

ムルドコ氏はその理由も同時に語っています。eスポーツが発展すると、国外から流入する外国人エンジニアに対して競合できる人材を育成することができます。また、オンラインゲームの普及は各地へのインターネットインフラの整備を促します。

インドネシアは島々で構成された国。首都ジャカルタからセスナ機で何時間もかけて行くような小島にも人が住んでいます。そのような地域にも、中央政府は責任を持ってインフラ整備を施さなければいけません。

ですが、人間は何かしらのきっかけがなければ動かない生物でもあります。目立った産業のない地方島嶼部に出資をしようという企業は多くなく、それ故に海底ケーブルや電波塔の設置も後回しになってしまっているのが現状です。

静岡県 駿府城が埋められた理由

話はここで大きく飛びます。

筆者の地元は静岡県静岡市。この町は今、駿府城(すんぷじょう)天守台の発掘作業で盛り上がっています。

明治時代に埋められた駿府城天守台を掘り返すというものですが、その最中に史料にはない豊臣秀吉時代の別の天守台が見つかりました。これは全国紙でも大きく取り上げられています。

この発掘作業がなぜ今行われているのかというと、明治時代に駿府城天守台が埋められ、整地されてしまったからです。それは旧日本陸軍の連隊を駿府城跡地に誘致するためでした。

当時は史学的な遺跡調査よりも軍の誘致が最優先されていました。なぜなら、軍が来ればその周辺地域には電気が通るからです。日本に限らず、どこの国でもインフラ整備は軍の拠点がある地域に優先的に施されました。

このあたりの事情については『軍隊を誘致せよ: 陸海軍と都市形成』(松下孝昭・吉川弘文館)という本に詳しいのですが、東南アジア諸国でもやはり同じことが起こります。ところがそれは、軍の計画から外れた地域にはいつまで経ってもインフラがやって来ないということでもあります。

それを見かねた政治家が地方にどうにか大型インフラを引っ張ってこようとすると、軍との衝突が起こってしまいます。タイはまさにそのような理由で、幾度も政変を迎えています。

しかし、eスポーツの発展が結果として国の隅々にネットインフラを導入する可能性があるとしたら、どうでしょうか。

筆者が先日執筆した記事の中で、「インドネシアは均等な経済発展を目指している」と書きました。現状、国内外の企業からの投資はジャワ島都市部かバリ島に偏り過ぎていて、他の地域にはなかなかお金が落ちません。ですが、インターネット回線は各地で新しいビジネスを発生させる可能性が大いにあるインフラです。

ゲームをプレイするに十分な回線速度さえあれば、地方農村・島嶼部から世界的な実力を持ったeアスリートが登場するということも夢ではありません。

eスポーツはテロ拡散を阻止する

ムルドコ氏や情報通信省、青年スポーツ省は「実績のあるeアスリートには国からボーナスを支給する」と公言しています。

「ゲームは青少年にとって有害なもの」という見方が、日本には今も根強くあります。ですが、インドネシア政府がネットコンテンツに対して最も警戒しているのは、ポルノとテロリストのプロパガンダです。そしてそれを阻止することのできるITエンジニアを育成したいと考えています。

テロリストは、その国の若者を組織に勧誘することを考えています。ですから「反政府運動はかっこいい」というような内容の動画を制作し、世界中に配信します。中東で勢力を伸ばしていたISは、実際にそのようなことで一時期勢力を拡大しました。

テロを阻止するためには、プロパガンダ映像などより格段に楽しく熱中できるゲーム、そしてeスポーツを若者たちに楽しんでもらう。その結果腕を上げプロになる人も出てくれば、生活も豊かになるでしょう。またITエンジニアも育ってくるでしょう。結果テロとは無縁の社会が誕生します。これも決して突飛な話ではありません。

マレーシア政府とRazerによる、eスポーツ投資が話題に

インドネシアの隣国マレーシアでも、こんな出来事がありました。青年スポーツ省のサイド・サディク大臣がeスポーツ市場への投資に関することをTwitterに投稿した所、ゲームデバイスの中でも有数の企業『Razer』のミン・リャン・タンCEOから

「ブラザー、僕も1000万リンギット(約2億7300円)ほど出資するよ」

と返信があり話題となったのです。

ちなみに、マレーシアの青年スポーツ省大臣である『サイド・サディク氏』は1992年12月生まれの25歳。

誤植ではありません。

マレーシアといえば93歳のマハティール首相が政権交代を実現させたことが記憶に新しいのですが、その閣僚の中に20代半ばの人物がいることは日本ではあまり知られていません。

こうして各国の状況を見ると、eスポーツはもはや「一大国家プロジェクト」となっている感があります。2020年代の経済発展そして地方活性化、グローバリゼーションなどに、eスポーツも大きな力を発揮すると思われます。

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